宇宙で泳いだ思い出

小学二年生だったある夜。

わたしはおふとんの足の方には宇宙へとつながっていると直感した。直感なので、理由はない。ただ、その真っ暗なやみと、あたたかい入口に対して冷たい足下のかんしょくに、きっと宇宙へつながる異次元の入口があるに違いない。そう思ったのだった。

わたしは宇宙に行ってみたい。ただ、帰れなくなるとこわい。お母さんも大好きだし、お友だちも大好きだし、お家でかっている金魚さんたちも大好きだし、かわいいトトロのお人形さんも大好きだったから。

わたしはおふとんの足下の宇宙を、どんなに広くてキラキラときれいですばらしい世界なのかについて、毎夜考えながら眠りについていた。


ある夜、眠っていたら。

「もしもし?」

と起こされてしまった。気がつくと、宇宙の真ん中にいた。上が下で、右が左で、星空が足下にあって、フワフワと星の散りばめられた宇宙空間に浮かんでいた。

「あっしまった! おふとんの足下へ入ってしまったんだ!」

と気がついた。

フワフワともがいてみると、クルリクルリとして、なにかだれかいた。

「やあ」

と、そのだれかは言ったけれども、なんだかボヤけていてよく見えない。半とうめいなそのだれかは、笑って親しげだった。


「やあ、きみも宇宙で遊びに来たんだね」

「宇宙で遊べるの? でも、お母さんのところに帰らなきゃ」

と、手足をバタバタとさせてみた。ちっとも進まないので、焦ってしまう。

「まあ、まちなさい。これをあげよう」

と、半とうめいさんはハッカアメをくれた。

「ありがとう」

と言って、パクッと口に入れた。けれども、何の味もしない。そういえば、お母さんが知らない人からもらったものを食べちゃいけないよって、言ってた。でも、もう食べてしまったから、しかたなく、もう一度バタ足をしてみた。すると。

ビューン。

と、進みはじめた。

「あ! 泳げる!」

「ああ。宇宙遊泳アメだからね」

「半とうめいさん、ありがとう」

「いや、お礼はいいよ。さあ、宇宙を泳ごう」

さっそく、近くに見える星へとバタ足をしていった。けれども、泳いでも泳いでも近づかない。

「ああ、宇宙は広いからね」

と、半とうめいさんは笑って、クルリとおどってみせた。それで、きれいなお星さまの中でスイスイ泳ぐのはとっても大変気分がよかった。

スイスイ。クルクル。キラキラ。ルルル。

「ねえ、お友だちもさそっていい?」

と、半とうめいさんに聞くと、

「ああ、いいとも!」

と気前よく言ってくれたので、うれしくなって、

「やったー!」

と足をバタバタしたら、

ビューン!

と……


バタン!


あ……?

気がつくと、ベッドの下にわたしは転がっていた。少し明るい朝の光がさしこんでいて、少しイタタと起きあがった。

お母さんがおどろいて、扉をあけた。

「何? どうしたん! 大丈夫?」

「あー。んー。だいじょうぶ」

朝ごはんのベーコンエッグと小さなおにぎりを食べて、学校へ行く。


(宇宙って、本当にあったんだ)

と思いながら、

(友だちもさそいたいな)

と思ったのだけれども、

(夢かな?)

と思ったので、また笑われると思った。


それで、友だちのミーちゃんに、今日の宇宙の泳いだ話をこそっとしてみたら。

「へえー! いいなー! 星で泳いでみたいねー!」

と喜んでくれた。

「今度いっしょに泳ごう」

と言って、笑いあった。そして、チャイムが鳴って、みんなあわてて席についた。

今日の授業がはじまって。だけど頭は宇宙でミーちゃんと泳ぐことばかりかんがえていたら、先生におこられちゃった。


そのあと、ミーちゃんと宇宙で遊んだことは、今でもずっと良い思い出だ。

昼間に駄菓子屋さんで、宇宙で泳いで遊んだ話をするのが、とっても楽しかったな。


そんなミーちゃん。じつは、すごく頭がいい。しかも、とっても美人。それで、小学校を卒業したら、私立の中学校へ行ったっていってた。

いつもやさしくて、ステキなミーちゃん。

元気かな。

元気だといいな。


今夜もおふとんはあたたかい。けど、足下は冷たい。

半とうめいさんは、今夜も気ままに、味のないハッカアメをパクリと口に入れたらしいですね。きっとまた遊びにきたみんなと、宇宙をスイスイクルリと泳いでいるのでしょうね。


それでは。おやすみ。

よい宇宙を。





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