宇宙で夢を。何が一番?(物語)
宇宙で夢を。何が一番?
宇宙飛行士として地球を飛び立ってから早幾年……経ったのであろうか。
地球で訓練をしていた頃から、「楽しさが一番だよ!」と世界中のみんなに映像やSNSで発信をしていた。
今でも思う。楽しさが一番! と。
ところで。
地球へ帰りたい。帰れない。
かんたんに言えば宇宙船の故障。こんな宇宙の片隅で。という……。
この状況さえも楽しむ私を、あの頃の地球に残してきた家族は何を思うのだろうか。
最愛の家族は言っていた。「あなたと共に歩いていきたい」と。
さよならの時も、パチンと弾け飛びそうな笑顔で、「いってらっしゃい」って、いつものように優しく言ってくれた。
優しさが一番。と家族なら言うのだろう。
地球。
画面に映る地球の姿は、それはそれは美しかった。
青くて美しい。かけがえのない。母なる命の。たった一つの。大切な故郷の。地球。
今はもう帰れない地球。遠く遠くの愛しい地球よ……。
私の中で宇宙は、ずっと今でも楽しい壮大な謎だが。
地球は。
……なんだろうか。涙のせいかな、ぼやける地球の映像は青と白と黒の絵の具の混ざるようにゆらめいていている。
地球は、ずっと今でも優しくて……。
それから。
私の家族は、ずっと今でも……。
「ピーーーーー!!!」
警報がなる。訓練の頃を思い出せば、この緊急時さえも。楽しめる。
ただ。
もう「不謹慎!」と言ってくれる人々とも、「いいね!」と思ってくれる人々とも、なんとも思わずに日々を過ごす人々とも。会えないらしい。
家族とも……もう会えないらしい。
地球へは帰れないから。
それでも、楽しむ! が、私のモットー。それで今まで、頑張って楽しんで宇宙飛行士として宇宙で生き抜いてこれたのだった。
……。だが、それもどうやらこれまでのようだ。
私はやれるだけのことはやった。けっして諦めることはしなかった。が、身体がもう動かなくなってしまっただけだ。
家族と……本当にもう会えなくなったらしい。
家族は、最愛の家族には。
申し訳ないことをしたと……。
家族の優しい笑顔が浮かぶ。応援してくれて、癒してくれて、励ましてくれて、そばにいてくれた、家族。それから「いってらっしゃい」といつものように笑顔で言ってくれた家族。
今なら。私の「楽しさ」という物が、家族の「優しさ」に包まれていたことがわかる。家族のみんなの地球の優しさに。今さら、だけれども。
さよなら。さよなら。パチンと弾け飛びそうな笑顔で言おう。いってきますと、さよならを。
さよなら。
……こうして私は、宇宙の星屑になりました、
……という夢を見ました。
そう、宇宙は夢。
……宇宙とは。儚い、一瞬で現れては一瞬で消えてしまうような、夢であります。
宇宙とは夢なのであります。
なお、このお話の結末は、こうです。
朝のカーテンの光に目を覚ました私は、家族を見つけて涙を二粒こぼすのです。そして、優しい家族にほほ笑みかけます。すると家族は不思議そうにこちらを見て聞きます。「どうした?」そしたら私はこう言います。「いい夢を見ました。おはよう」と。「どんな夢?」と聞かれても、内緒です。どんなに聞かれたって、内緒です。
だって、夢は儚いから。話したら家族とのこの大切な時間も、一瞬で宇宙に消えてしまいそうに思うからです。
大好きな家族。家族といると思います。家族の言うとおりかなって。やはり「優しさが一番!」なのでしょうね。と。
「……ね?」
「ん? 何が?」
「何でもないよ」
(おわり)
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