テスト:第十五話
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会わない間に私は、存在しない幻想を作り上げてしまったようだ。
存在しないものに感情が踊らされている。体中で渦巻く得体のしれない流れるもの。
インカローズの気持ち悪い桜色が、まるで私の体内へと流れ込んでくるようだった。
くそ。寝なきゃ、やってられない。私はその日、食事の時間になっても部屋に籠った。
「結衣、入るよ」
叔父さんが部屋に入ってきた。私はベッドの上で布団にくるまっていた。
「今日、無理。気持ち悪くて食べられない」
私は小さな声で先に話した。
「学校で何かあったのか?」
優しい声で叔父さんは訪ねてきた。
「・・・・・・・外れた」
「え?」
「ムカつくの・・・私の心を弄んできた男が」
しばらく沈黙して、叔父さんが答えた。
「・・・あぁ、好きな人、できたんだ」
「違う!!」
私は布団をバッとまくり上げ、叔父さんを睨んだ。
「負けた!!騙された!!あんな奴、どーでもよかったのに!!嫌だ!!こんなの嫌!!」
涙と共に流れてくる怒りが止まらない。
いつの間に人は人ではなくなったの。
脳は理性の味方ではない。あくまでも、本能というプログラムの配下に属した、単なる理屈。誤魔化しに過ぎない。この事実を覆せない事が嫌だ・・・。
私はまた私に騙された。本当は私は恋など要らないんだ。
私が本当に欲しいもの。それはいずれ冷めてしまう儚い恋ではなく、深いところで結びつく、失うことのない友情なのだ。
恋など陳腐なものだ。
私は崩れることに恐れを抱く必要もない、永久の友情が欲しい。
分かり合えない男女だからこそ、恋仲ではなく友である方がきっと良い。
しかし、そんな願いも簡単に崩壊させてきた本能を、私は許して放置しておくはずもなかった。
叔父さんになだめられたが怒りの沸点は限界値を既に超えており、私は激辛インドカレーを食した。叔父さんの作った甘口インドカレーに、戸棚の一番端に隠れるように置いてあったハバネロソースをぶち込み、自ら罰を与えた。