テスト:第二十二話
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藤野君は放課後、私の元へ現れた。
そして私の首にかかった醜いインカローズを奪った。
「君を解放する」
藤野君は今までとは違って目を逸らさず、私を真っ直ぐ見ていた。
「俺はこんなどうでもいい石ころなんかで結衣を縛っておきたくない。だから結衣は、俺と別れるべきだ。そして・・・友達から始めたい。結衣のことまだ全然わかってないから、俺」
「それじゃあセフレだよね」
「そう言われると気が引けるなあ・・・」
「どこまでも都合のいい脳みそに飼いならされているね。藤野君は」
私はクスクスと苦笑した。
「結衣、全然怒らないね。普通は怒るでしょ、男にこんなに振り回されて」
「・・・それが好きなの。私は」
私は久しぶりに涙を浮かべるくらい笑った。
感情の揺らめきをくれる人、藤野前夜。
心地よい。好きだ。
「人間なんて、自分勝手を沢山押し付けてくるでしょう?だから私、それに巻き込まれてまだ生きなきゃとか、思っちゃうの」
おなかを抱えながら笑っていた私を、不思議そうに見つめる藤野前夜。
「好きだよ、藤野君のそういう自己中でわがままでどっちつかずで私を振り回してくるところ」
藤野君を真っ直ぐ見つめた。なぜか藤野君が目を見開いていた。以前の冷たい光ではなく、熱を帯びた光が揺らめいている。
藤野君が口を開いた。
「あの・・・結衣」
一泊、息を吸い込んでから放った。
「本当は・・・本気で好きなんだけど。誰にもとられたくないし。俺が単に、独占したいだけなんだ。結衣を幸せにっていうより、ただ俺がそうしたいだけ」
「正直に言ってくれたの?」
「うん・・・だって結衣はそうでもしないと、俺を好きになってくれないから」
「それでいいのよ。藤野君」
私は藤野君の手からインカローズを奪い返した。
「気持ち悪い藤野君のこれ、貰ってあげるよ」
私ははにかんで、先に向かって走った。
それを慌てたように藤野君は追いかけて走った。
私たちは弱肉強食。いつだって私たちは追いかけっこをして、その熱い揺らめきを求めて駆ける。それしか私たちに見えるものなどない。
藤野前夜。君は私の真っ黒な虚無を照らす光になって。
~完~
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