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合理的な説明で人は動くのか - MBAリーダーシップ

オハイオ州立大学MBAのリーダーシップのクラスが中盤に差し掛かる。初めてリーダーシップを体系的に学ぶ。教授の趣向なのかゲティスバーグの戦い等クラシックな事例がよく参照されるのだが、それらから学ぶポイントを繋げていくと一貫性があって面白い。まずはここまでのポイントをおさらいしたい。


(1)おさらい

  • リーダーシップとは問題を見つけて解決のために影響力を行使し、他者の思考や感情、そして行動を変えるプロセスである。つまり「目的のために人を動かす」ということ。(「動かす」というより、「できるだけ自ら行動してもらう」というイメージ。)

  • 問題解決のための行動目標(HLBs:High leverage behaviors)は、具体的×効果的×順応性の3つの要素を意識して設定する。

  • たとえナイスなHLBsでも人を動かすためには仕掛けが必要。

  • フォロワーは「モチベーション」「能力(ability)」があればHLBsを実行する。だからリーダーはこれら(具体的には下表)に作用する影響力テクニックを行使する。特に内的モチベーションに働きかけるとリーダーの仕事が減ってGood!

人を動かすための影響力テクニックとして頻繁に使われるのは、「合理的な説明」と「報酬と罰則」の2つだが、私には「合理的な説明」は効果が高いように思う。
本当にそうなのかクラスで考えた。

(2)合理的な説明を批判的に検討

■はしか・おたふく・風疹の3種混合ワクチンの事例
はしかで年間260万人が亡くなっていたが、随分前に3種混合ワクチンが導入され死者数は減少していった。そんな中、1998年に「3種混合ワクチンで自閉症になる」という論文が出回り(後日論文は取り下げられ、著者は医師登録から除名)、子供へのワクチン接種を拒絶する親が増加。
ワクチンの安全性と効能について追加テストを実施しWHO等がワクチンは安全で効果があり、接種する必要があるという見解を堅固に保ったのだが、噂を信じた人はWHOの公的見解によって、ワクチンはやはり危険だとより強く信じる結果となり、彼らはポリオやジフテリア等の他のワクチンも拒絶するようになった。

私たちは、自分の思い込みや考え方等ずっと信じてきたことをサポートする証拠や議論を重視し、合致しないとこれを暴こうとしたり、反論のために異常にエネルギーを費やす傾向がある。これを確証バイアス(Confirmation bias)という。このループにはまると、説明すればするほど彼らの抵抗(Resistance)を誘発することになる。

「みんな、きちんと説明すればわかってくれるはず」とリーダーは信じる。だけど、合理的な説明は時には抵抗さえ生み出すのだと肝に銘じなければならない。

■学んだこと
合理的な説明が悪いわけではない。ここで学ぶべきは、合理的な説明を過信してはいけない、ということだ。フォロワーが抵抗する時、リーダーは「んもう、バカなんだから。」とか「それは誤解だぞ。」と思っちゃう衝動に駆られる。だけど、人は説得力のある議論に対して抵抗することもあるのだ。それが性なのだ。そうなったら合理的な説明に執着しないほうがいい。

なお、人を動かそうとして影響力を発揮すると、以下の反応が想定される。

  • 抵抗(resistance):HLBs実行を無視、後回し、拒絶する。

  • 遵守(compliance):気は進まないけど実行する。

  • 責任持ってやり切る(commitment):正しいことだと信じて実行する。

Commitしてもらえるとリーダーの仕事が減る。リーダーシップが上手く機能している証拠。リーダーが狙うのはCommitmentである。
そのためには内的モチベーションに作用するのが良いという(なお、後日講義で、いくら内的モチベーションが高くても、能力(Ability)が低いと思った結果が出ない、とあった。これも大事なポイント。)。

そして、ボランティア活動に勤しむ人達の内的モチベーションを高める要因は以下。組織の中でこれらの条件や機会があればモチベーションが上がるはず、ということだ。

  • 自律心(Autonomy):意思や選択ができる状況

  • 熟達(Mastery):継続的に学び専門能力を磨き上げる機会

  • 目的意識(Purpose):大儀を追求する機会

これは私見だが、ビジネスでは「Purpose」が組織内の人たちを繋げる大きな役割を果たすのではないかと思っている。Purposeの共有(会議や研修、もしくは飲み会の場)に時間を使うと短期的には生産性が落ちるが、中長期的には一貫性のある良い組織になり生産性が向上するように思う。そういう組織であれば、従業員の自律心を尊重し、熟達の機会を提供することで自然と組織が成長するように思う。だけど、実際やるとなったら、そんな簡単なものでもないのでしょうか。

教授が畳みかけるようにいう。人の「好き」という気持ちは固定されたものではなく学習されるもので、日々何かに影響を受けて変化する。モチベーションに作用し抵抗(resistance)をCommitmentに変えられるという。

ちなみにこれも私見だが、全ての人からCommitmentを引き出さなくてもいいのでは、と思っている。「あの人はすごく抵抗してくるけど、まあいっか。」と気楽に思えるほうが上手くいく場合もありそうだ。大抵のことはぶつかる価値もない、些末なことかもしれない。疑問に思ったら、「これは本当にHLBなのか」、と原点に戻って考えたらいいのかもしれない。

(3)モチベーションに作用するテクニック

クラスで以下のテクニックが紹介された。上に行くほどCommitmentを引き出しやすい好ましいテクニックになる。
■心を動かすメッセージ:以下の(A)参照
■ロールモデリング:以下の(B)参照
■規範的な仲間からのプレッシャー:以下の(C)参照
■象徴的な報酬(Symbolic reward):勲章を与えるとか。募金の赤い羽根なんかもそう。
■Actual reward:業績連動ボーナス等。
■Extinction:望まない行動を阻止する態度。会議を邪魔する人の行動を「笑わない」「無視する」等。
■Traditional punishment:いわゆるおしおき。

(A)心を動かすメッセージ(inspirational message)

心を動かすメッセージには、それを決定付ける要素が散りばめられているという。クラスでは、ネルソンマンデラのスピーチ(I have a dream)、ガンジーのスピーチ(Non-violence)、Dr. Katie O'Neillのスピーチ(コロナによる病床不足の悲惨な状況を真摯に伝え、ワクチン接種とマスク着用を呼び掛けた)等質の良いスピーチの動画を見て、以下のどの要素が含まれるか話し合った。

■Rhetorical questions:注意を引く問いかけ
■Metaphors:比喩
■Contrasts:対比
■Three Part lists:言いたいことを三つにまとめる。
■Ambitious goals:想像力を与え感情を動かす野心的な目標
■Expressions of moral conviction:道徳的な信念
■Story:今起こっている、起こるであろうことをストーリー仕立てで表現

教材となったスピーチ動画はいずれもとても有名なもので、なかなかマネできないとたじろいだ。
それからグループで特定の社会問題を取り上げ(私のグループは、若年層のクレジットカードの支払延滞。アメリカでは深刻な社会問題。)、1分間のスピーチを考える。そうすると、どのグループもいろんな要素を組み込んで、とても上手にスピーチする。クスッと笑える表現もあり楽しかった。
なんだか拍子抜けした。肩肘張るようなことでもない。
「正しいことを言えば伝わる」というのは自分のエゴなのかもしれない。相手の立場に立って、どうすれば伝わるかを考えるのは、仕事の一部だ。真摯かつ素直に伝え方を考える。これは世のビジネスマンが(特に日本人は)意外とやっていないことかもしれない。
Dr. Katie O'Neillのスピーチはとてもよかった。派手な演出はないが、彼女が放つ言葉から、彼女が仕事や職場、患者を大切に考えているのが伝わる。

なお、ボディランゲージや表情、声のトーンも大切だ。欧米と日本では受け止め方に違いがあると思うが、相手目線で自分がどう見えているのか、客観的に考えようと思う。

(B)ロールモデリング

ヘビ恐怖症を例に学んだ。36人のヘビ恐怖症を集めて克服を試みた実験。ヘビOKの人(以下「モデル」という)を触媒にして間接的に恐怖を取り除くという方法を試す。具体的には、モデルがヘビがいる部屋に入り、ヘビを見てヘビの側に立ち、ヘビを拾って膝の上に置くという一連の行動を被験者が観察する。最初の観察は窓の外から始まり、次は部屋に入り、つけていた手袋も外し徐々にヘビに近づく。そうすると80分で77%の被験者が、そして100分でほぼ全員(1人だけムリだった)が膝の上にヘビを置けるようになった。

職場を整理整頓する上司がいれば、それが当たり前のように感じるだろうし、身近な有名人や身の周りの人たちがコロナワクチンを受ける環境であればワクチン接種への抵抗は徐々に少なくなる。

私見だが、チューター制度とかOJTというのがあるが、狙いを定めて先輩後輩の組み合わせを工夫すると効果がアップするかもしれない。

(C)規範的な仲間からのプレッシャー

行動の原動力になるモチベーションが社会集団や環境によって引き出されることもよくある。

■アッシュの同調実験
社会心理学者ソロモン・アッシュ(1907 - 1996年)によって1951年に発表された人間の同調行動を検証した古典的な実験。
被験者Aさんは大学の研究に参加。Aさんを含む5人が被験者としてラボで質問を受けるが、Aさん以外の4人は実は実験メンバーの仲間(グル)。
「Target lineと同じ長さのラインはどれか?」と聞かれる。答えは明らかにCのラインだが、他の4人はわざと「Bのライン」と答える。
4人のメンバーは、常に被験者が最後の回答者になるよう自然にふるまうよう訓練されている。
Aさん以外がわざと18問中12問で間違えた回答を行うと、被験者Aさん(対象を変えて何度も実験する)の75%は少なくとも1問は誤った回答をした。

アッシュの同調実験

この結果から、人は外部の規範や他者のプレッシャーを非常に重要視していて、他者から受け入れられるため、もしくは拒絶を避けるため、ありとあらゆる行為を喜んで行う可能性がある。
また、その他者が信頼のおける人、尊敬する人であればなおさらだろう。

これを踏まえて、イノベーションの普及に関する有名な著書に進む。

■イノベーションの拡散(Everett Rogers)
アイオア州の農家に生まれたEverettは、革新的な農業技術が世の中に受け入れられる場合もあれば、拒絶される場合もあるのを目の当たりにし、どこからその違いが来るのか興味を持った。1962年に出版された「Diffusion of Innovations」でEverettはイノベーションが社会システムに拡散・普及する理由を包括的に説明した。

イノベーションへの反応速度に応じて統計的に分類すると以下のとおり。これはマーケティング等で新製品への消費者の反応を検討するときにも使われる分類。

イノベーター(2.5%)
アーリーアダプター(13.5%)
アーリーマジョリティ(34.0%)
レイトマジョリティ(34.0%)
ラガード(にぶめの人)(16.0%)

イノベーターはイノベーションを最初に取り入れる人たちの集団。彼らは知的で進んでリスクを負い、なおかつコミュニティから社会的に孤立しているという傾向がある。わかりやすく言うと、新しいものなら何でも試す変わり者。イノベーターの意見は一般には受け入れられにくく、彼らの意見によってイノベーションの拡散に歯止めがかかる可能性があるので要注意。

Everettのこの著書で最も重要なポイントは、「イノベーション技術そのものよりも誰がその技術を広めているかのほうが重要で、信頼に足る人、尊敬すべき人が関わるとイノベーションが普及しやすいという点。

その点、アーリーアダプターは、イノベーションに興味があり、その価値を慎重に評価する。コミュニティとの繋がりが深く、コミュニティで尊敬される、オピニオンリーダーのような存在たる人物が該当する。
アーリーアダプターの賛同を得て、彼らを関与させるとイノベーションがコミュニティ内に普及しやすいという。

オピニオンリーダー(アーリーアダプター)は、専門エリアの重要な問題に関して知識が深く(Knowledgeable)、利他主義(trustworthy)という特性がある。コミュニティ内でそれぞれの人に尊敬に値する人をリストアップしてもらい、そこに名を連ねるような人はオピニオンリーダーだと言えるだろう。

例えば200人の組織であれば、25人程度いるだろうオピニオンリーダーをフェアな方法で味方につけて問題に取り組むとHLBが普及しやすい。
自分がオピニオンリーダーになるか、もしくは自分以外のオピニオンリーダー達を説得してムーブメントを起こすという方法でピアプレッシャーのパワーを行使することができる。

私見だが、誰もがリーダーになるべきだとは思わない。リーダーシップのスキルがないのにリーダーになる人は不幸だと思う。大抵のコミュニティには様々な経験やスキルを持つ仲間がいる。適材適所があるはずで、職位と役職は別ものでいいと思う。

最近勧められたNetflixのドキュメンタリー映画「The Greatest Night in Pop」で「We are the world」の収録風景が流れるが、ライオネルリッチーやクインシージョーンズは良きリーダーで素敵だった。マイケルジャクソンはリーダーぽくはないけどカリスマそのもの、その場にいるだけで張り詰める空気をみなが感じていたし、若手のシンディローパーやだみ声のブルーススプリングスティーン含め、全てのメンバーがそれぞれ個性的でクールだった。



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