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もらった優しさを、別の誰かに贈りたい

実家に私宛ての、大きな円柱の小包が届いた。開けると、引き伸ばされた写真が3枚。この国際郵便は、アメリカに住んでいるデイビットからだった。

まさか本当に送ってくれるとは。自分のためではなく、他人の喜ぶ顔がみたい。純粋なその気持ちだけで、遠い日本まで郵送してくれる。

ちょっとした偶然が、かけがえのない縁になる。世界中に優しい人は沢山いて、わたしは多くの人に助けられながら生きているんだと改めて思った。

◇ ◇ ◇

デイビット、そして双子の弟ジョンと出会ったのは、ジョン・ミューアトレイル(JMT)の中盤。ヒッチハイクをしていた私を、車に乗せてくれた2人だった。

途中、JMT 本道から外れて、食糧補給のためにビショップという街に降りた。本道から外れて別のトレイルを歩くこと20km、サウスレイクという登山口は、街を往復するシャトルバスが出ている。ただそれは9月上旬までで、私が歩いた時、バスの運行は終了していた。

しょうがない、ヒッチハイクをするしかない。ヒッチハイク自体は、過去に何回か経験済みだ。私の経験上、登山口から街へ戻るヒッチハイクは、難易度が低い。駐車場でトレッキングが終わったハイカーに声をかけたらいい。

それに比べて、街から登山口へのヒッチハイクは難しい。自分で人を選べないからだ。道路沿いで、恐る恐る手をあげる。ヒッチハイクをすること30分、1台の車が止まってくれた。それがデイビットとジョンだった。


2人はロサンゼルス出身で、休みを利用してトレッキングに来ていた。この日は日帰りで、サウスレイクからビショップパストレイルを歩く予定だという。ちょうど私もサウスレイクの登山口へ行きたかったので、ありがたく2人のご好意に甘えた。

サウスレイクから、彼らはビショップパスを往復する。私はビショップパスからJMT本道に戻る。途中までは同じ道だ。歩くスピードが違うけど、またトレイルで会うかもしれないね、そう話をしてお別れした。

ビショップパスまでの8kmは、彼らと抜きつ抜かれつを繰り返した。「また会ったね。」景色を見ていた2人に話しかける。すると、ジョンが私の写真を撮ってくれた。

ジョンはセミプロのカメラマン。この日の写真も、大きく引き伸ばして飾るという。「あなたの写真も送るよ。住所教えて。」彼は言った。

「日本だよ、遠いし申し訳ないよ」そう答えても、「問題ないよ」とジョンは言う。デイビットが補足する。「彼は色んな人の写真を撮って送っているんだよ。日本でももちろん送るよ」

その後、住所やメールアドレスを交換した。話をしていると、デイビットはロサンゼルス空港の近くに住んでおり、部屋が余っているという。「帰る前日、うちに来たらいいよ。空港まで送っていくよ。」と彼は言う。

ここまで2人の善意に甘えていいのだろうか。申し訳ない、そう思い悩んだ。でもせっかくの縁を大切にしたい。JMTを終えた後デイビットに連絡し、ロサンゼルスで彼らと再会した。

「今は忙しいからすぐにはできないけど、また写真送るね。ロスに来る時はいつでも連絡して」そう彼らは言う。

ありがとう、お世話になりました。ハグをして2人と別れた。


JMTが終わってから5ヶ月。すっかり忘れていた私のもとに届いた、彼らからの写真。ヒッチハイクで車に乗せてくれて、家にも泊めてくて、おまけに写真までくれた。久しぶりに、もらった多くの優しさを思い出した。

彼らに恩返しできるのが一番だけど、次いつ会えるかも分からず、すぐには返せない。だったら彼らの優しさを、他の誰かへ届けよう。

◇ ◇ ◇

わたしたちは、できるだけ人に迷惑をかけないように生きようと思う。

それに対して、インドでは親が子にこう教えるそうだ。
「あなたは多くの人に迷惑をかけて生きているのだから、迷惑をかける分、他の人にも優しくありなさい」と。

できる限り迷惑はかけたくないけど、それでも人は1人では生きていけない。迷惑をかける分、善意を他の人へ届けたい。そして他人の迷惑にも寛大でありたい。

今、日本にいる時は、時間の許す限り、困っている観光客に声をかけるようにしている。

自分が受けた多くの善意や優しさを、他の人へ贈る。そんな人が沢山増えたら、もっと世界は優しくなるのにな。

まずは自分から、旅でもらった沢山のありがとうを、別の誰かに贈っていきたい。

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