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記憶にございません

私は30歳までの記憶がほとんどない。ある日突然、30代になった感じだ。

通った学校、就職した会社、学生時代の友人や先生の名前や顔は覚えているけれど、自分が誰と何をして、何を思って生活して、何を学んできたのかあまり覚えていない。すべての思い出にモザイクがかかっている。

25歳までは親の暴力に振り回されたから、自己防衛のために記憶を消しているんだろう。30歳までは自分の幼稚な行動が恥ずかしくて、思い出したくない。

これまでは記憶がないことが寂しかった。実家とは縁を切ったような状態だし、学生時代の友達とも疎遠だ。ここまで自分が生きてきた「証拠」みたいなのがない。

この前、旦那さんが言った。

「人って大事なことやから記憶するんよ。それ以外は忘れるか、必要な時に思い出す程度なんよ。」

そういえば私は、旦那さんや友達の誕生日、好きなものなどを覚えている。じゃあ、過去の経験すべては大事じゃなかったのかな?そうじゃない。ひとつひとつの出来事を「大事」かどうか仕分けする暇もなく、過ぎ去ったんだろう。

でも30歳に入ってからは色んなことを覚えている。誰かの優しさや愛情なんかは特に。きっと大事にしたい経験が増えてきて、じっくり記憶を仕分けする時間があるんだろう。眠っている記憶も興味で探りたくなるけど、今はわざわざ引き出す必要もない。

私には子供から大人になるまでを一緒に振り返る家族はいないけど、これから先を一緒に歩く人たちがいる。その人たちと素敵な体験をもっと増やしていこうと思う。

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