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中学受験と、フランク・シナトラ。

子供たちをキンダーガーテンに送った帰り道、ラジオ局KJazz 88.1からフランク・シナトラの『マイ・ウェイ』が流れてきました。

ジャズのラジオ局でこの曲を流すなんて、珍しいなぁ。

わかりやすい言葉ながら重みのある歌詞に聞き入っていると、30年前の中学受験に挑んだ日々が、次々と思い出されました―――。

✒✒✒✒✒✒

1992年の夏。
3年半のアメリカ生活を終えて帰国した私は、鎌倉の小学校に転入し、大船にある日能研に通い始めます。中学受験をするためです。

当時、小学校のクラスで受験する子はたったの3人!
まだ、そんな時代でした。

週に2~3回、夕飯のお弁当を持って塾に通い、週末には模擬試験などもあり、冬休みに集中コースにも参加。帰国子女受験の対策のため、塾とは別に英語や作文の先生のところにも通わせてもらって・・・

・・・こう書くとすごい大変そうですけど、当の本人はぜんぜん大変だと思っていませんでした。いや、むしろ楽しい?!

なぜなら、母が「勉強しなさい」と一切言わなかったから。私自身、受験をいまいち理解してなかったので、まさかのノー・プレッシャーです。

当時の私にとって塾は、学校とは違うお友達と楽しく過ごす場所で、可愛い文房具を買ってもらってはお友達と見せ合い、クラスで夕飯のお弁当を食べる非日常な雰囲気に、ワクワク。モスチキンや、さぼてんのとんかつ弁当の味を覚えたのも、この頃です。

塾が終わって家に帰ると、「塾行ってえらかったねー!ほら、早くお風呂入って寝なさい」と、母。予習も復習も、ぜんぜんしない。塾に行っただけで褒められ、いい気分でお風呂に入って、グースカと寝るんですから。楽なものです。

ただ、こんな調子だったので、成績は良くなかった。

日能研では、成績順にクラスが分けられ、さらに直前の模擬試験の点数で席順が決められます。私の定位置は、一番下のクラスの、一番後ろの席。

でも、ぜんぜん気にしていませんでした。なぜなら母が「あなたはアメリカにいて、理科と社会は勉強してなかったんだから。模擬試験の点数なんて、気にしなくていいのよ」と言うんですもん。

そんなこんなで半年があっという間に過ぎ去り、2月に突入。いざ入試がスタートすると、わずか2週間の内に、いろんなドラマがありました。

合否の結果が出そろった頃、塾で「祝賀会」なるものが開催されたのですが、ここで、生涯忘れられない、衝撃的な出来事が起こります。

久しぶりに一堂に会した生徒たちは、あーだった、こーだったと、受験にまつわる話で大盛り上がり。お世話になった先生たちが順番に教壇に立ち、卒業生にお祝いの言葉をかけてくれます。

そして最後の最後、オオトリの催し物として校長先生が教壇に上がると、突然「この曲を君たちに贈る!」と、マイクを片手にフランク・シナトラの『マイ・ウェイ』を歌い出したのです。

しかも、英語で。

And now, the end is near
And so I face the final curtain
My friend, I'll say it clear
I'll state my case, of which I'm certain

最終幕を目前にした男が、人生を振り返る歌です。

I've lived a life that's full
I've traveled each and every highway
And more, much more than this
I did it my way

サビに入ると思いきや、曲調はトーンダウン。歌詞は2番に入り、校長先生は教室内をゆっくりと歩き始めます。

Regrets, I've had a few
But then again, too few to mention
I did what I had to do
And saw it through without exemption

思春期の私は、教室を練り歩く先生を、恥ずかしくて直視できない。
この出来事を、彼は後悔しないのでしょうか?

I planned each charted course
Each careful step along the byway
And more, much more than this
I did it my way

重低音を響かせながら、アカペラで歌いつづける校長先生。永遠のように感じられましたが、やっとサビに到達です!

Yes, there were times,
I'm sure you knew
When I bit off more than I could chew
But through it all, when there was doubt
I ate it up and spit it out
I faced it all and I stood tall
And did it my way

教壇まで戻ると、今度は涙を流しながら、朗々とサビを唄い上げます。

そして、気持ちを持ち直して3番の歌詞に突入。結局、アカペラで、英語で、フルコーラスを唄いきったのでした。

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大人の男の人に、泣きながら歌を唄わせてしまうなんて・・・。『中学受験』というものは、それほどまでに大事おおごと だったのか!と、このとき初めて認識したのでした。

当時の私にとって、フランク・シナトラはちょっとToo Muchで受け止め切れなかったんですけどね。いま改めて聴くと、染み入ります。なんて素晴らしい曲なのでしょうか✨


折しも現在は、中学入試のハイシーズンですね。
日本では可愛い少年少女たちが、これまで積み重ねてきた努力を糧に、志望校の入学を目指して頑張っていることでしょう。

どんな結果であれ、塾に通った日々を、机に向かった時間を、奮い立たせた気持ちを、褒めてあげたい。
面白かったこと、楽しかったこと、悔しかったこと、嬉しかったこと、いろんな思い出があるのは、中学受験にチャレンジしたから!「あのときはあんなことがあって~」と語れるのは、チャレンジした人の特権ですからね。

そんな頑張った彼らに、この曲を贈りたい。
おばちゃん、ココロを込めて唄います。
伝わらないかもしれないけど、30年後にはきっとわかるよ。

※短く編曲されてますが、本当はもう少し長いです。

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