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コンパウンド戦略とマルチプロダクト戦略、何が違う?

近年、スタートアップで広く採用されつつある両戦略ですが、その類似性から混同されがちです。

具体的にどのような違いがあるのでしょうか?



コンパウンド戦略は"創業時"から複数プロダクト展開を目指す戦略


コンパウンド戦略(本稿では"コンパウンドスタートアップ"と同義とする)とは、「相互に連携した製品ポートフォリオを構築するために、幅広いポイントソリューションを同時に立ち上げる」戦略のことを言います*1要するに、複数のプロダクトを同時に開発・提供する戦略(企業)のことだと捉えて良いでしょう*2。

この考え方は、アメリカのスタートアップ・Ripppling CEOであるパーカー・コンラッド(Parker Conrad)氏が唱えたものです。パーカー氏は、ユニコーン企業であるZenefitsの元CEOであり、Zenefitsでの経験や失敗をもとに、Rippplingを創業しています。

さて、このパーカー氏が唱えたコンパウド戦略の特徴を見てみましょう。彼が明確に示したわけではありませんが、これまでのさまざまな発言を考慮すると、その特徴は大きく3つに集約されると考えられます*3。

特徴① 最初から複数プロダクトを展開する
特徴② 共通のUXを有し、データを中心にサービスを統合・展開する
特徴③ 単一ではなく、プロダクトライン全体で収益最大化を目指す


他にもコンパウンド戦略の特徴を挙げることができますが、特に注目したいのは①です。というのも、従来のスタートアップ界では、創業時はプロダクトを一つに絞って提供することが半ば常識として捉えられていたからです。しかし、パーカー氏はこの点についてもはや時代遅れであるとし、新たにコンパウンド戦略を提唱したのです。

国内でも徐々にこの戦略の考え方は広まりつつあり、業務デジタル化サービスを展開するLayerXが採用したことで大きな話題にもなりました*4 5 6。

ところで、ふと疑問に思うのは、近しい概念としてのマルチプロダクト戦略の違いでしょう。「複数のプロダクトを提供する」という観点では同じですが、何がどう違うのでしょうか?


マルチプロダクト戦略は、主力プロダクトを軸に複数のプロダクトを展開する戦略


マルチプロダクト戦略とは「複数の異なるプロダクトを提供する」戦略を指します*7。特定の人物が提唱した戦略ではないため、厳密な定義は存在しませんが、次の3つの特徴があると考えられます。

特徴① 主力プロダクトから派生した複数のプロダクトを展開する
特徴② 複数プロダクト間での相乗効果を必ずしも狙わなくても良い
特徴③ 単一での収益最大化を目指し、その積み上げによって全プロダクト収益も最大化させる

さて、コンパウンド戦略との違いからも見てみましょう。次の3つの視点で比較することができると考えられます。

違い①:複数プロダクトの派生の仕方。コンパウンド戦略は創業時から同時に提供するが、マルチプロダクト戦略では主力プロダクトから徐々にプロダクトが派生していく
違い②:基盤的要素。
コンパウンド戦略はデータやUXなどの共通した基盤的要素があるが、マルチプロダクト戦略は必ずしもこうした要素がなくても良い
違い③:儲け方。
コンパウンド戦略はプロダクトライン全体での収益最大化を目指すが、マルチプロダクト戦略は単一プロダクトの収益最大化を目指す

これらの視点から見ると、マルチプロダクト戦略という概念の中にコンパウンド戦略という考え方が包括されていると言えます。

また、コンパウンド戦略と違い、マルチプロダクト戦略には4つの型があるとも主張されています*7。

アドオン型:主力プロダクトに、追加のモジュールや機能を提供するモデル。ソフトウェアプラットフォームが、追加機能などを提供するのが一例。
スイート型:同じ領域に関連するプロダクトをまとめて提供するモデル。例えば、Google Workspace(Gmail、Googleドキュメント、Googleスプレッドシートなど)はその一例。
ターゲット型:異なるユーザーに、異なるプロダクトを提供するモデル。エンタープライズとSMB向けに、それぞれ異なるプロダクトを提供するなど。
カテゴリー型:異なるカテゴリーのプロダクトを提供するモデル。例えば、Hubspotがセールスやマーケティングなどの各領域にプロダクトを展開するなど。

さて、これまでコンパウンド戦略とマルチプロダクト戦略の違いを見てきました。これらはまだ新しい考え方で、まだ発展途上にあるため、その特徴や違いが変わる可能性もあります。また、将来これらの戦略がより細分化されたり、そもそも時代遅れと言われることもあるでしょう。

しかし、その中でも変わらず大切にしたいのは「環境変化に応じて取るべき戦略は変わる」という原則です。今、自社はどんな状況に置かれているのかを見極め、最善の戦略を選択し、柔軟に活用することが、ビジネスの成功につなげることが何より重要です。

※ 2024年3月21日に記事内容を全面改訂しました。


(参考情報)
*1 Rippling「Why and how Rippling is taking the compound startup model global」https://www.rippling.com/blog/rippling-compound-startup-model-global(2024年3月21日アクセス)
*2  ALL STAR SAAS「6年間でゼロからデカコーンへ!ココがスゴいよ、Rippling!」https://blog.allstarsaas.com/posts/compound-rippling(2024年3月21日アクセス)
*2  EXPACT「SaaSスタートアップの新しい競争戦略!コンパウンドスタートアップについてご紹介!」https://expact.jp/compound_startup/(2024年3月21日アクセス)
*3 福島良典「コンパウンドスタートアップというLayerXの挑戦」https://comemo.nikkei.com/n/n7332c93f50c7(2024年3月21日アクセス)
*4 FASTGROW「LayerXが生み出すのは、事業を創る“人”たち──想像を超えた企業になるための経営論」https://www.fastgrow.jp/articles/layerx-fukushima-03(2024年3月21日アクセス)
*5 日経ビジネス「コンパウンドスタートアップ」の潮流に揺り戻しはない」(2023年4月18日)
*6 SaaSにおけるマルチプロダクト戦略「SaaSにおけるマルチプロダクト戦略」https://route06.co.jp/insights/42(2024年3月21日アクセス)
*7 ROUTE06「SaaSにおけるマルチプロダクト戦略」https://route06.co.jp/insights/42(2024年3月21日アクセス)


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