『日本酒のBY』の話
神保町裏路地日記(46)
2024/12/18㈬
今年ももうすぐ終わりです。日本で年が切り替わるのは1月1日でこれが元旦になるわけですが、実は日本酒にも年の切り替わりがあります。
◆BYってなんですか?◆
よくラベルに書かれている『BY〇〇』もしくは『〇〇BY』を目にすることがあります。「このBYってなんのこと?」とお客様から聞かれることはすごく多いのですが、BYというのは『Brewery Year』の略字で『酒造年度』と言う意味です。
現在の日本酒の酒造年度は、7月1日〜翌年6月30日までを一区切りに数えます。例えば今は令和6年12月ですから今現在搾られているお酒は『R6BY(Rは令和)』と表記されます。ところが同じ令和6年でも、酒造年度の切り替わる以前、つまり6月30日より前に搾られたお酒は『R5BY』になりますからこれがややこしいところです。ざっくり言えば、「今年の春酒から夏酒くらいまではR5BYで、今出ている新酒はR6BYです。」という感じです。
ちなみに『酒造年度』と『製造年月日』は意味合いが違います。酒造年度はその日本酒を搾った年、製造年月日は、搾ったお酒を瓶詰めした月を表します。例えば令和6年3月に搾ったお酒を令和6年9月に瓶詰めしましたという場合(ひやおろしにあるパターン)、『R5BY 製造年月日 令和6年9月』みたいな感じになるということです。こういう同じ年なのに表記がずれるとわかりづらいですね。
◆酒造年度はどうして7月始まりか?◆
この『酒造年度』は酒税法で酒類の製造量を把握するために作られました。7月始まりなのは、お米の収穫は秋に行われ、日本酒造りは主に秋から冬にかけて行われるからです。もともと日本酒は気温の下がる寒い時期に造られるものでした。『だいたい10月頃から酒を造り始めて3月に造り終える』という酒造りの慣習があって、これに1月で年を切り替えたり4月切り替えみたいにしてしまうと日本酒造りのタイミングにもお米の収穫にもタイミングが合わず製造量の実態把握に都合が悪かったのです。だから現在は酒造年度は7月1日から翌年6月30日までとされているわけです。
「日本酒の年度の切り替わりは10月でしょ?」と言う人もいらっしゃいますが、現在国税庁で定められている酒造年度は7月1日から翌年6月30日までです。10月始まりだと思ってらっしゃる方も当たらずとも遠からずという感じなのですが…。
と言うのも、もともとは酒造年度は10月1日から翌年9月30日までだったからです。1965年(昭和40年)の国税庁通達で、清酒製造の実態に合わせて7月から6月までに改められましたから、それ以前の情報で「日本酒の年度の切り替わりは10月」と仰られるようでしたらこれは無理のないことです。
◆じゃあ10月1日は何の日だよ?◆
ここまでの話を聞くと「じゃあ10月1日の日本酒の日ってなんだよ?」と思う人もいるかと思います。そりゃあ、あれだけ声高に「日本酒の記念日は10月1日ですから盛り上がっていきましょー!」みたいなイベントをやっていればそう思うのも仕方ない。
確かに毎年10月1日は『日本酒の日』です。これは日本酒造組合中央会が1978年に定めたもの。日本酒の魅力や楽しみ方、文化的価値を知ってもらうきっかけとになればと言う目的がありますが、これにも意味はちゃんとあるのです。
十二支の10番目に当たる10月は「酉」の月、日本では「トリ」と読まれますが、壷の形を表す象形文字で、酒を意味しています。また10月といえば新米を収穫して酒蔵が酒造りを始める季節です。10月と言うのは、酒に縁のある月だから、それを始まりとして記念日にしよう。というわけです。
◆まとめると◆
酒造年度は7月1日から翌年6月30日までで、酒税法上で定められた国税庁や製造者達向けの概念。
日本酒の日は10月1日で、これは消費者に向けた啓蒙活動の一環。従来の日本酒造りの慣習に合わせて記念日にすることで、より日本酒の文化を知ってもらうことが目的。
という感じです。誰目線かでというか、酒造年度はお役人都合みたいな感じなんだなという感じです。