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《step3》秩父の絶景ハイクと酒蔵探訪

 今月も皆と山に登る企画の日がやってきた。今回登る山は、埼玉県は秩父にある丸山(960.3m)だ。西武秩父線の芦ヶ久保駅からスタートし、丸山まで登り、金昌寺まで下る。下山後には皆さんお待ちかねの酒蔵訪問。秩父の銘酒、武甲正宗を醸す武甲酒造にお伺いするというプラン。今回は春の低山ハイク&酒蔵見学ということもあって参加人数も14人と増えて、賑やかな山行になりそうだ。


秩父丸山について

 埼玉県の山と言えば何が浮かぶだろう。上州寄りには峻険な岩場を擁する二子山や、日本百名山にも数えられる両神山がある。飯能には天覧山があり、近年は飯能アルプスなる山々もある。秩父には武甲山がある。埼玉県にも沢山の山があるものの、正直丸山は知らなかった。

秩父丸山からの眺望(一部)

 丸山の標高は960.3mと決して高くないが、特筆すべきはその眺望にある。丸山山頂の展望台から見る景色は、“外秩父丸山の眺望”として県の文化財に指定されるほどで、奥秩父も奥多摩も八ヶ岳方面もよく見え、更には浅間山も日光連山も見えるという大展望である。 もう一つ、丸山の雑木林は1986年に“森林浴の森 日本百選”にも選ばれているということもこの山の楽しみかもしれない。なだらかな登山道とよく整備された森をのんびりおしゃべりしながら歩くのも楽しい。今回は冬から春への移り変わりの時期だったこともあって森林浴とまではいかなかったが、きっと新緑の季節や紅葉の時期に来ても良い。

金昌寺と秩父札所巡り

金昌寺仁王門。草鞋は仁王様が履くものとされ、
大きければ大きいほど良いと言われた。

 丸山から下りてくると、金昌寺というお寺の裏手に出る。「古びた」と言葉で片付けてしまえば味も素っ気もないが、金昌寺は江戸中期に唐風の建築様式として建てられた歴史ある寺院で、古びてはいるが色彩鮮やかで美しく、特に草鞋を掲げた貫禄のある仁王門の佇まいとお堂に安置された慈母観音は一見の価値がある。

金昌寺本堂を横から撮影

 金昌寺は秩父札所巡りにおける四番札所である。秩父札所は全部で三十四か所あると言う。秩父は所謂巡礼が盛んだった地域で、正式には秩父札所三十四箇所観音霊場と呼ばれ、坂東三十三箇所、西国三十三ヶ所と共に日本百観音に数えられている。

 秩父、坂東、西国の地域にある百の神社を結ぶ日本百観音霊場巡りのうち、坂東巡礼路は1300km、西国は1000kmと長い。秩父巡礼路は札所一番から三十四番までで約100kmと前者と比べれば短いが、これだけでも大変なことだ。僕と妻がかつて歩いたサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼の道はスペインをほぼ横断する形で約800km。秩父巡礼は地域が限定されている中で100kmということを考えれば、非常に密度が濃いように思う。

 秩父札所は現在三宗派の寺院で構成され、内訳は曹洞宗20ヶ所、臨済宗11ヶ所、真言宗3ヶ所。
 秩父地域での所在の内訳は、秩父市25ヶ所、横瀬町6ヶ所、小鹿野町2か所、皆野町1か所である。

荒木丹下について描かれた絵画

 金昌寺はかつては新木寺と呼ばれた。その由来は観音霊験記によると以下の通りである。

昔、悪行ばかりする荒木丹下という男がいた。ある時、施しを求めてきた巡礼の娘に酷い仕打ちをした。すると娘は「仏様は人は誰しも平等だと説いているのになぜこのようなことをするのか」と言う。丹下はその言葉に我に返り、以後、観世音を信ずるようになったという。この荒木丹下に縁のある観音様ということから、この地にあった寺が荒木寺と呼ばれるようになった。

 このような伝承に触れるのも、神社仏閣を見て回る楽しみである。しかしこの荒木丹下、酒癖も悪かったらしい。ふふふ。この後我々も酒蔵にも行くし打ち上げもするのに。酒には気をつけよと肝に銘じられているようだ。

武甲酒造 柳田総本店

国の登録有形文化財の建物は貫禄がすごい

 1753年(宝暦3年)に秩父に蔵を構えて以降、270年以上の歴史を誇る秩父屈指の酒蔵の一つ。武甲山の山名を冠した銘酒武甲正宗を醸す武甲酒造さんにお伺いした。個人的には2回目の訪問。前回はコロナ禍の最中、2020年の冬だった。

 山好きだから、やはり日本酒というと仕込み水が気になる。武甲山の伏流水って、どうなんだろう。お話を伺ったところ、「武甲山から流れる水は石灰岩でろ過されて適度にミネラルを含んだ中硬水になる。」そうだ。ミネラル豊富な水で仕込むと辛めでスッキリした飲み口になる。個人的にも硬水仕込みの日本酒は立体感があって好きだ。武甲山の伏流水は“平成の名水百選”にも選ばれるほどで、昔から人々の暮らしの要になっていたことがうかがえる。

容器持参で水をいただくことも可能
所狭しと並ぶ貯蔵タンクは壮観だ。

 武甲酒造さんは秩父農家の作る山田錦を使った日本酒醸造にも精力的だと言う。
 “山田錦”というのは酒米(酒造り用に作られた米)の名称で、業界では酒米の王様と呼ばれるほどに人気がある。兵庫県が主産地だが、近年では各都道府県が自県での山田錦栽培とブランド育成に取り組んでいる。秩父も同様で“秩父産山田錦”をうたう。
 兵庫県産山田錦は、いわばオリジナル、元祖酒米の王と比べればどうしたって同じものにはならないのが各県産の山田錦だ。それでも各農家が丹精込めて育て上げた酒米である。武甲酒造はそれを日本酒として世に送り出し、秩父産山田錦のブランド価値を高めようとする。こういう地域に根ざした取組みは素晴らしいと思うのだ。2020年に伺った時も感じたが、地元と連携して一貫して手作りにこだわるクラシックな地酒蔵はやはりカッコいい。

お待ちかねの試飲タイムに皆心躍る

山行記録

 今回の参加者は全員で14名。うち2名が初めての参加、その他2名は久しぶりの参加である。先頭は高橋ガイド、殿は僕といつもの山行スタイルで行く。

 丸山への登山口はあしがくぼ果樹公園村を抜け、住宅裏手から入る。先月の三浦もそうだったが、低山の入口ってこういうケースが多い。畑にいる番犬に吠えられながら迎えられ今回の登山も始まった。

 僕達は夏山以外は低山ハイクを中心とした山行を主に行っているが、ガイドの山の選定はこれが結構的を得ていると個人的には思う。初心者でも登りやすく、経験者は余裕を持って楽しめる。体力に自信のない方にとっては少し背伸びした、でも、頑張ればやれると言う強度の山。10名を超える人数の山行で、毎度全員がそれぞれ満足する山を選んでくる辺りはガイドの懐の深さゆえである。

ツルニチニチソウが咲いている

 丸山へ向かう山道は整地された登山道がほとんどだが、所々急な登りもある。こうしたちょっとの頑張りどころで、日頃の山歩きの成果が試される。しかし今回は皆難なく登った。参加者の話を聞いていると、ほとんど全員が登山のためのトレーニングをしているのだそうだ。男女年齢に関わらず、だ。凄い人たちだなと思う。筋トレ大好き体育会系の男性方は、酒が入ると皆トレーニング談義になるのでそういう事をしているのは知っていたが、女性方もだとは知らなかった。「皆と山に行きたいから。」と言うから、こんなに嬉しいことはない。

 丸山山頂にて昼休憩。山頂展望台からの景色は素晴らしい。遠くに山々を眺めながら「次はあそこに行ってみたい。」という話も楽しい。山容を見ると興味が湧く。先日訪れた浅間山方面もよく見えた。来冬は小諸スノーハイクも企画したいなあ。それまでに、夏山をしっかり皆で歩こう。

オオマシコ (Wikipediaより転載)

 途中に大きなカメラを構えた人達に出会った。聞くと、鳥を見ているという。「静かにね。」とガイドに言われて眺めていると、グループの一人が「あそこにいるでしょう。」と指差を指して教えてくれた。指の先には綺麗な赤い鳥が見える。あれは、オオマシコと言うらしい。スズメの様な見た目だが、スズメよりはだいぶ大きい。
 オオマシコは極東地域にだけ見られる比較的珍しい鳥なのだそうで、冬になると日本にも来て越冬する。食事中なのか、一心不乱に枝伝いに飛び回っている。あんなに鮮やかな赤い鳥はそうお目にかかれない。良いものを見させてもらった。

途中、登山道のない斜面を登る練習?も行った。
ステップを作る意識を持って登る。

 その後下山は二隊に分かれることにした。酒蔵訪問の時間に合うバスに乗るためだ。先発隊はバスに間に合うようペースを上げ、後発隊は下りが不安な人を中心に、間に合わなければタクシーを使う。後発隊にガイド、先発隊は僕が先導する形を取る。

 いつもは殿でのんびり歩くので緊張しつつ、久しぶりのペースメイクを楽しむ。落ち葉に埋もれた登山道は何が隠れているかわからないので注意しつつ、気を付けて欲しいポイントの指示を出しながら下る。石や枝などは取り除ける範囲を取り除く。
 これは下山時に僕が個人的に意識していることだが、「どうせ歩くならちょっとは登山道を掃除しながら歩け。」と言う山の大先輩から言われた事がきっかけになっている。確かに、後ろの人が歩きやすいように一人ひとりが道を綺麗にするのもアリだよな、と思ったのである。落ち葉や木の根、滑りやすい岩などに注意しながら早歩きのペースで下山し、予定のバスにも余力を持って間に合せた。
 参加者の中で「ゆっくり歩けば疲れないと思っていたけど、少しペースを上げたところで一定であれば疲労感は少ない。」と言う意見が出たのも面白かった。特に下りなどはそうかも知れない。ゆっくり一歩ずつ下るより、トントン拍子に歩いた方が結果的に疲れないということはよくある事だ。ただし、それも疲労感による。脚にキていればもつれて滑落ということもありうる。その辺りはよく自身と相談しながら、可能な範囲でペースを作るのが大切だ。

秩父の地酒と地元料理が美味しい。

 下山後は予定通り金昌寺と武甲酒造を見学し、秩父駅前にて打ち上げをした。今回の打ち上げ居酒屋はぶぶすけ。秩父の地酒やイチローズモルト、それにわらじカツ丼やみそポテト、しゃくしな漬けなど地元料理も多数揃えた名店だった。大人数にも関わらずスマートに対応してくれたことも大変有り難かった。

乾杯の雰囲気は大学生のサークル活動のようだ(笑)

 登山の後のビールは格別だ。酒とつまみに山の話も進む進む。やっぱり皆で山に登ったら、こうして飯を食うところまでが一つの流れとしてやっていきたい。性別、年代に関わらずというのも良い。
 「同じ釜の飯を食う仲間」。そんな言葉自体がちょっと死語のように聞こえてしまうが、毎回こうしているとコミュニティとして絆が深まってくるのを感じる。やりたいこと、行きたい山は沢山あるし、次の山行が楽しみだ。

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