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エッセイのご紹介429 「花とライオン」(小黒恵子著)
こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。
今回も、産経新聞の「from」に掲載されたエッセイをご紹介いたします。
「from」には9作品掲載されていますが、残念ながら自筆原稿が残っていませんので、掲載された文章をご紹介いたします。
詩人の書いたエッセイ、独特の言葉選び等を感じていただけると幸いです。
![](https://assets.st-note.com/img/1656212200013-96rZXbSAPH.jpg?width=800)
「花とライオン」
小黒 恵子
人はおおかた、大人も子供も美しいものや強いものが好きである。私は、小さいころから、美しいものはレンゲの花の群落、強いものはライオンと決めていたようだ。
子供のころ、家の近くに広々とした原っぱがあり、れんげの季節には、薄紅色の花が風に波打って、あたかも花の海にいる感があった。茫然と立ちすくんで、その美しさに酔いしれて花の海で眠ってしまったのを思い出す。花の女神フローラのいたずらだったのかもしれない。
そして強くてかっこうよいのは、雄ライオンと決めていた。長いたてがみ、堂々とした美しさ。子供のころ、母と行った日本橋のデパートでその像に会えるのが楽しみだった。いまでも私は、ライオンの大きな手をなでて「コンニチハ」と声をかけている。昔なじみのなつかしさ、満足したうれしさとほっとした安堵に満たされる。
美しいもの、強いもの好きがこうじて、私は平成七年に文部大臣認可の公益信託「児童合唱音楽振興基金」を設立し、翌八年に「花とライオン児童合唱音楽賞」をスタートさせた。今夏は第九回の授賞式を迎えた。
この賞は、少年少女の音楽文化の振興と情操教育を目的とし、優秀な歌唱力や長年の音楽活動、ボランティア、外国児童合唱団との交流など、顕著な活動をした合唱団に贈る。毎年、全国から一団体を選び、助成金百万円を贈呈している。少年少女の美しい歌声は、高原のすがすがしい朝風のような清涼感がある。
近年、あっと驚く子供や青少年の犯罪が激増している。心に魔がさしたとき、美しい曲の一節をよみがえらせ、心の底に残る聖なる一瞬の風にハッとして、ストップをかけてほしいものだ。
心の中の抽斗(ひきだし)に、たくさんの好きな楽しい歌をしまっておくことは、幸せなことである。音楽は明るく豊かな、人生の道中を彩るすばらしい友であり、宝であると思う。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回も、2004年~2005年に産経新聞に掲載された小黒恵子のエッセイをご紹介します。(S)
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