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エッセイのご紹介424 不意の地震を…(小黒恵子著)

 こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。

 今までは、神奈川新聞のリレーエッセイをご紹介してきましたが、今回は、讀賣新聞のフリースタイルに掲載されたエッセイをご紹介いたします。

 フリースタイルには4作品掲載されていて、すべて自筆原稿が残っています。また、担当者に宛てたメッセージが添えられているものもあります。今回は、第三回目の「不意の地震を告げた九官鳥別れた心揺れ」をご紹介します。
 詩人の書いたエッセイ、独特の言葉選び等を感じていただけると幸いです。

讀賣新聞「フリースタイル」の原稿

「不意の地震を告げた九官鳥別れた心揺れ」
                            小黒 恵子

 ある日ある時、全く突然に、グラグラッと不意打ちに地震はやってくる。
昔の人は、ナマズやウナギが活発に動き出すと、地震の前兆と恐れていた。
ナマズもウナギも気味のよいものではないが、地震予知のために飼っていた人が、結構いたと言う。
アリストテレスは、ウナギは泥の中から湧いてでる。つまり発生すると言った。アリストテレスやプリニウスの著書にも見えていると言うが、生物学がまだ完全でなかった当時の話である。
地震予知と言えば私は昔、七年間地震予知博士と一緒に暮していた。と言っても人間ではなく九官鳥の「九」である。
地震の震度の解説は、四角い竹篭の中で「九」が、止まり木を左右に歩き落着かず、ギッギッと言った時は震度2。羽を拡げてバサバサッと音を立て、篭に体当たりしてギャギャギャッ!と叫んだ時には、震度は3だった。
ある時友人と電話中に「もうじき震度2の地震がくるわ」と私は言った。また時には「震度3の地震がくるわ」等と私は得意になっていた。
何回目かの時に友人が「どうしたの いつも的中して気味悪いね」と言ったので、種あかしをして大笑いしたのを思い出す。
「九」は大変利口な鳥だった。好物のリンゴが欲しい時には、「ハイドウゾ アリガトウ」とくり返した。数えきれない程多くの言葉の中で一番好きだったのは「シツレイシマス」だった。
こうして幸せな七年の歳月を送り、永久(とわ)の別れの時、地震予知博士の「九」は、私の胸にしがみついて安らかに昇天した。
「九」の魂は永遠に飛び去った。「シツレイシマス。アリガトウ」 私は何度も叫んで、大空を見上げていた。私の心はその時、震度5以上だったに違いない。

讀賣新聞 フリースタイル 2003(平成15)年9月5日
 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 次回も、読売新聞に掲載された小黒恵子の原稿をご紹介します。(S)


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