Episode.1　ワイヤレスイヤホンの話

#わたしと姉の2人暮らしの話

「イヤホン脱線した」

　有線のイヤホンは絡まるし、時々、脱線する。
　（たぶん、私の扱いが悪いせい）

　朝の通勤電車で音楽を聴くための必需品なのに。
　途方に暮れる私の手のひらに、姉が何やら「黒い箱」を置いた。

「なにこれ」
「このワイヤレスイヤホンあげるよ」

　そう。
　箱を開けると、そこにはワイヤレスイヤホンがあったのだ。

「え、いいの？」
「うん、私は他に新しいの買ったから」

　姉からもらったワイヤレスイヤホンは、
　有線のイヤホンと比べてめちゃんこ使いやすかった。

　朝の通勤電車。
　イヤホンの線が絡まる心配なし。

　家でのゴロゴロ時間。
　イヤホンの線で首が締まる心配なし。

　食器洗いの時間。
　線が手元を邪魔しないから、音楽を聴きながらできる。

「控えめに言って最高か！」

　だけど、ひとつ問題が…。
　
　音楽を聴きながらさっそうと駅を歩いていた時。
　ワイヤレスイヤホンがポロリと耳から落ちた。

（あわわわわわ…！）

　たぶんあの、イヤホンの耳にはめるクッション（命名：イヤホンぷにぷに）が、わたしの耳のサイズに合ってなかったせいだとは思うけど。

　ワイヤレスだと、耳から落ちたらそれきり。
　ころころとどこかへ転がって行ってしまった。
　
　駅の床を探して回収したけど、
　あれ以降、はらはらして落ち着かなくなってしまった。

　と、言うわけで。
　わたしは最終的に有線のイヤホンに戻った。
　古いものにも良さはあるよね。

「また使うときまで…ね」

　姉からもらったワイヤレスイヤホンは、私の引き出しの中で眠っている。