ほしのふるよるにあいましょう

 
むかしむかし
むかしむかし、わたしのあかちゃんがいました。
 
とてもかわいいあかちゃんでした。
 
あかちゃんは、小さな太陽をもって、わたしのなかからでてきました。
あかちゃんはおおきな声で泣きました。とてもとても大きな声でした。
その声は遠く轟き、月までとどくような大きな声でした。
まずは村がはじけ飛んで、われた地面はどこまでもどこまでも裂けていきました。
海のそこまで裂けた大地はまるで、星が大きな口の口角を尖らせてわらっているようでした。
あかちゃんはおおきな声で泣きました。声がつまって、なんども涙を流しながら。
あかちゃんが産まれてきたことを、星は、喜んで、何度も笑いました。
あかちゃんをうんだ私のカラダはおかあさんになりました。
おっぱいがおおきくなって、こきゅうができないほどでした。
私のおっぱいはあかちゃんへの愛情でこきゅうができないほどでした。
わたしは死にそうでした。
オスのカブトムシが現れ、わたしの首を角でつきさしました。
わたしは声を失う代わりに、いきができました。
かまいませんでした。
言葉はいらないのです。大切なことばはカラダのなかに入っていたのでだいじょうぶでした。
カラダの約束をたよりに。
あかちゃんはわたしのそばにいました。
あかちゃんは男の子になって、わたしのカラダをたくさんさわりました。
やがて私は死にました。
男の子は手に持っていた太陽で私を焼きました。
男の子はすくすくと育ち、ひとりぼっちになりました。
つまらなかったので太陽をこわしました。
 
まっくらな夜がきました。
 
とてもとてもうつくしい夜でした。
男の子の目が開きました。
はじめてみた景色はうつくしい闇でした。
目を開けて、男の子はますますひとりぼっちでした。
だけど男の子はちっともさびしくありませんでした。
だって!カラダの中にはおかあさんとの約束がたくさんつまっているから!
男の子は、この星でひとりぼっち。
はじめてみた真っ黒な夜のせいで、そのまなこも真っ黒です。
太陽を捨てた手は自由になりました。てのひらいっぱいで星をさわりました。
たくさんたくさんさわりました。
たくさん触りすぎたので、血がでて、痛くなりました。
痛くなると、ついに男の子はさびしくなりました。
血と一緒に約束が流れてしまうから。
涙と一緒に約束が流れてしまうから。
ぼくのなかからおかあさんがいなくなってしまうから。
 
星の地面に吸い込まれないように、上に、夜空に血を飛ばしました。
お空に貼りついた血はホタルという虫になって無数に光りました。
男の子がはじめて見た光です。
男の子は100年間光を見続けました。
すべての血はお空に張り付いてしまったので、カラダの中のおかあさんはいなくなってしまいました。
さびしいけどがまんしました。
たくさんがまんしたら、心臓が破裂してしまいました。
壊れた心臓を夜空に捨てました。
それは張り付いて、お月様になりました。
お月様から女の子が産まれました。
わたしが男の子のそばに立つと、
血まみれの手はとても柔らかなものにふれました。
男の子がさわってはじめて、私のカラダが柔らかいものなのだと知りました。
あなたが、
おしえてくれたのよ。
わたしのカラダのかたちを。
 
だけどぼくの手はかわってしまいました。
毛が生えて、爪がとがりました。
僕は、この星で初めての獣になったのです。
僕がさわれば女の子のおっぱいが傷ついてしまう。
おっぱいから血が出たら、とてもかなしくなる。
おっぱいがなくなったら、と考えると、僕はもう死にたい。
女の子をみないようにしました。
そうしたら感情がなくなってしまいました。
きみにあうためにうまれてきたのに。
 
わたしはせなかだけになってしまったあなたに、言葉をあげたかった。
でも、わたしたちは言葉を持っていなかった。
そのうちにわたしは死んでしまった。
あなたが背中を向けているうちに、死んでしまった。
 
そうしたら、星が降ってきた。
 
そうしたら、僕には言葉が産まれた。
 
言葉は、とても便利なもので、言った物事はすべて現実になるんだ。
 
星の降る時の間でだけ、
 
星の瞬きの間だけ、
 
 
僕は星の夢を見ることができる。
 
だからね、
 
 
 
 
君よ、
 
 
 
ほしのふるよるにあいましょう。
 
 
いきかえった君にさわるために、もう何千年もほしのふるのを待っていた。

こうべ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?