単純な電化だけでは、二酸化炭素の排出が逆に増えてしまう?
「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
こんにちは。エネルギー・文化研究所の前田章雄です。
脱炭素社会にむけて、電化を推進する動きがあります。
でも、エネルギー源を単純に電気に変えるだけであれば、二酸化炭素の排出が逆に増えるって、一体どういうことなのでしょうか?
1.電化とは、どういうこと?
電化とは、今まで化石燃料を利用していた装置を電気で動かしたり加熱したりするように、エネルギー源そのものを電気に変えていこうというものです。
電気自動車がよい例です。
石油を精製してつくられたガソリンや軽油で走っていた車を、電気自動車に変えてしまおう。
家庭でつかわれる給湯も暖房も厨房も、すべて電化してしまおう。
産業用で利用されている化石燃料も、すべて電気による加熱に変えてしまおう。
すべてのエネルギー源を電化すれば、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電した電気がつかえるようになるので、脱炭素社会が実現する。
この考え方に、おおむね間違いはありません。
ここで、「おおむね」と表現した理由があります。
それは、電化のスピードです。
2.単純な電化は、なぜ二酸化炭素の排出が増えるのか?
私たちは、エネルギーをじゃぶじゃぶ消費する生活を送っています。
石油に換算して、毎日、一人あたり一升瓶6本に相当するエネルギーをつかっています。
(エネルギーよもやま話1参照)
その大量の一次エネルギーのうち、再生可能エネルギーは1割強しかありません。
その再エネでもっとも多いのは、すぐに増やすことが難しい水力発電です。
つまり、太陽光や風力発電の割合は、かなり低いのが現状です。
当然、私たちが利用している電力は、再生可能エネルギーや原子力発電よりもはるかに多くなっています。
クリーンエネルギーでまかないきれない分は、化石燃料を燃やして発電しています。
化石燃料による大規模発電所では、燃やした際のエネルギーの約半分を、大気や海に捨てています。
(エネルギーよもやま話2参照)
つまり、あらたに電化した装置を従来の大規模発電による電気に頼ってしまうと、(もとの装置の熱効率を考えなければ)発電のために燃料を2倍多くつかわなければならないことになります。
もちろん、だから電化がダメと言っているのでは決してありません。
しかしながら、ここで注意を促したいのは、電化のスピードです。
言い換えれば、「単純に電化だけを進めていくのではいけない」ということです。
3.電化と再エネは、セットで増やしていかなければならない
電気自動車のように、化石燃料から電気へ転換する装置は、太陽光発電などの再生可能エネルギーとセットで増やしていかなければ、化石燃料による発電を増やすことになり、二酸化炭素の排出も今以上に増加することにつながってしまうのですね。
もちろん、増えた電気を原子力発電でまかなうことができれば二酸化炭素の排出は増えませんが、短期間で増やすことが比較的容易な化石燃料による大規模発電に頼ることになれば、二酸化炭素の排出が増えてしまうのです。
「化石燃料から電気に変えれば、すべて解決」
ちょっと待ってください。
その電気は、どうやって生み出しているのでしょうか?
電化の流れを止める必要はありませんが、電化と再生可能エネルギーはセットで増やしていかなければ、過渡期においては逆効果になってしまう可能性があるということを知っておくことも大事ですね。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。
次回をお楽しみに。
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