見出し画像

極地冒険とゴルフ

氷の海を行く。

P1040093 のコピー2

歩いている間はあれだけ来たことを後悔して「もう絶対に二度とこんなことやらない!」と思うくせに、北極から帰ってきて体も気力も充実してくると、あのジリジリとしたエッジを歩くような毎日が恋しくなってきてしまう。

昨年2019年に若者たちとの北極行以来、一年以上経ってしまうと、どうにも心が北へ向き出してウズウズする。今はコロナの問題でなかなか出かけることもハードルが高くなっているが、気持ちは動く。

極地での冒険行はスポーツに例えるならゴルフに近い。

陸上競技やサッカーなどは、明らかに若い方が有利で成績も良い。20代の選手と40代の選手がまともに競えば、まず身体能力が高い20代が勝つだろう。一方でゴルフは、若く身体能力が高いほど勝つ、とはなりにくい。40代の選手が20代に勝つことは大いにあるし、フィジカル面の強さがそのまま結果に直結するわけではない。

極地冒険も、ゴルフのような要素がある。よく、冒険の世界では30代後半くらいが最強であるという言われ方をする。体力と経験のバランスが最も良いのが30代後半くらいだということだ。

私は22歳から北極を歩き始め、今年で20年目となる。20代の頃は、ゴルフに例えれば300ヤード越えのロングショットもバンバン打てるくらいに、体力もあったし気力も充実していた。

でも、いまはおそらく250ヤードくらいしか飛ばせなくなっている。体力は20代に比べれば間違いなく落ちているという実感はある。

しかし、実はいまの方が北極を歩ける。より長い距離を、より重い荷物を積んで、より短い時間で歩くことができる。ゴルフであれば、ドライバーの飛距離は明らかに落ちていても、18ホール回り終えた(長距離を歩き終えた)スコアは良いのだ。

GOPR0162 のコピー 3のコピー

若い頃は、北極で重い荷物を引いて歩いている時には、体力で引いていた。というか、体力だけで引いていた。すると、すぐ疲れてしまったり、早く進みたいという焦りから不要なところで頑張ってしまったり、そんな記憶がある。体力に自信があると、多少の悪天候だと待つのが我慢ならずに、行っちゃえ!と進んでしまって余計な消耗をしてしまう、そんなこともあった。

またまたゴルフに例えれば、最短距離だと考えて無理に池越えを狙い、結局池ポチャして一打損してしまってその後悔から次もミスる、みたいな感じだ。そこで冷静になって、一打を確実に刻んで池を回り込んだほうが良いことは分かっていても、若い時には挑戦心も盛んだし、自分の力への過信もあって痛い目を見る。

でも、そうやって痛い目を見ることで学んでいくものだ。小さな失敗を積み重ねていくことでしか、成長は望めない。若者がやたらと老獪で、思慮深い戦略ばかり立てながら石橋を非破壊検査機で診断して渡っていくのは、正しいようであんまり正しくない気もする。

若い時期というのは、より身体知性を磨いていく時期だ。頭だけでなく、より身体を駆使してそこから得られる知性を吸収していくことが重要だ。そうやって私も頭脳と身体知性を磨いてきたはずである。今から思えば、ね。その時にはそんなことを考えながらやっていなかったけど。

私も40代を回り込み、そろそろ最強期も超えつつある頃だ。

あぁ、またどこか歩きたくなってるなぁ…。ウズウズ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?