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イギリスの各地をバックパックで旅しました (6000文字越えエッセイ)

 12月の下旬から2週間の休みに(ここイギリスではホリデーと呼ぶ)イギリスの各地を回ることにした。ブライトンからロンドン、北へ上がってマンチェスターとリバプール、湖水地方。南に降りてブリストル、バース、コッツォルズまで。合計で5泊6日の旅。そこで僕はあらゆる場所に行き、あらゆる人と出会い、あらゆる経験をした。

今日はここにバックパック一つでイギリスを回った記録を書きたい。そしてイギリスを周りたい人がいれば参考になれば嬉しい。

まずはブライトンについて

現在、僕が住んでいるのはイギリスの南部ブライトン。イギリスのリゾート地で有名で、夏になると多くの人たちが夏を満喫するために足を運ぶ。もしあなたかブライトンに来たら、ぜひ海沿いを時間をかけて歩いてほしい。そこには何にも遮られることのない満点の海と、ビールを片手に余暇を楽しむ人たちを観ることができるだろう。生憎、僕は夏の終わりにブライトンにやってきたので、ピークのブライトンを楽しむことができていないけれど、それでもいい所だ。

もしブライトンについてもっと詳しく知りたい、イギリスについて知りたいなら、2020年にベストセラーになったブレイディーみかこさんの『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読むことをお勧めします。とてもいい本です。

そのブライトンからロンドンまではおよそ一時間。今回の旅ではロンドンは経由しただけだったが、今まで何度かロンドンに足を運ぶことがあるので、ついでにロンドンの魅力も書いておく。


すべてが集まる首都 ロンドン

ロンドンに来たならばまずは市内をゆっくり歩いてみることをお勧めする。ロンドンという町は面白くて、歴史ある建物もあれば、モダンな建物もある。歩く場所によって様々な街並みを観ることができる。

市内を歩いていると、食品雑貨店でおいしいパンとチーズ、燻製ベーコンなどを売っている市場やカフェ、パブにハンバーガーショップを見つけることができる。どれも日本にはなく、そして魅力的なところばかりだ。

そして博物館、美術館に訪れるといい。基本的にはどの施設もフリーだ。大英博物館、ナショナルギャラリー、テートモダン、テートブリテン、デザイン博物館など、ここロンドンでしか見ることのできない貴重な展示物、アートを観ることができる。きっと見たものはあなたのこころに残るだろう。

ロンドンについてはここまでにしてマンチェスターへ向かう。ロンドンからマンチェスターまでは電車でおよそ2時間ほどだ。電車の中でオアシスの曲を聴きながら休みを取った。


産業都市 マンチェスター

マンチェスターに着くと気づくのが、ほかの都市に比べて建物がよりモダンであることだ。なぜなら産業の中心地で、ロンドンに次ぐ第二の都市だからだ。日本でいうと大阪に近いとよく言われる。

今回の旅ではマンチェスターを宿泊先にして、リバプールと北の湖水地方を回る計画を立てていた。マンチェスターからリバプールまでは電車で一時間と近かったことと、湖水地方ではゲストハウス(安い宿泊先のこと)を見つけられなかったからだ。大きな都市の郊外では安いゲストハウス、ドミトリーを簡単に見つけることができる。僕は二日間のゲストハウスを借りて、費用はおおよそ20ポンド(3000円)だったはずだ。

旅の醍醐味の一つは、いかにして安く抑えることができるかが肝になる。

マンチェスターでは科学博物館に行った。正直なところ、ここが思ったより面白くなかった。

まず第一に施設の半分が閉まっていた。イギリスの年末年始の期間は空いていないお店や施設が多く、科学博物館に行った際、オープンしていたのは全体の半分だけで、お目当ての戦前の飛行機や汽車のレプリカを観ることができなかった。僕が見れたのはせいぜい1920年代のT型フォードと産業革命時代の紡績機くらいだった。

少し落ち込んだ気持ちでゲストハウスに戻り荷物を降ろし、近くのパブでエールとお店自慢のパイを食べた。野菜と羊肉をマッシュポテトで包み、オーブンで焼き、グリスビーソースをかけたパイだ。エールを飲むと疲れのせいかすぐ眠気が襲い、二杯目は頼まずゲストハウスへ戻り一日は終わった。


詩人が愛した町 グラスミア(湖水地方)

二日目の早朝、僕はマンチェスターから北に約100㎞にある湖水地方に向かった。電車でおよそ3時間ほど。湖水地方はイギリスの中でも特にのどかで美しい自然を満喫できる。古き良き街並みの近くには綺麗な湖、そこは趣を大切にする詩人達が愛した場所なのだ。

マンチェスターを出発したのは朝の8時、食費はできるだけ削りたかったので、バックパックに携帯できる食料を詰めて出発した。

順調に迎えるかと思いきや、ウィンダミア行きの電車がキャンセルになり3時間でつく予定が5時間もかかってしまった。イギリスではしばしば電車のキャンセルが発生する。マンチェスターから湖水地方までの電車の本数は少ないので、一度キャンセルになると、一時間以上待たないといけなくなるのだ。

やれやれと思いながら仕方がないので駅中のカフェで時間をつぶし、旅行雑誌を観ながら考えていたプランを変更せざる負えなかった。


ようやく湖水地方に着いたことには1時を超えていた。まずはウィンダミアと呼ばれる中心地からバスでグラスミアという町へ向かう。ゆっくりと走るバスの中で、体力を回復させながら街並みを楽しむ。そこは今なお残るレンガ造りの家々に美しい湖、小さな船が走り、空では白鳥が飛び回っている。
しばらくすると詩人が愛した町グラスミアに到着した。

グラスミアという町は本当にのどかだ。自然に囲まれた町の中で誰もがゆっくりと時間を楽しんでいる。本当の意味での余暇だ。テラスでビールを飲みながら会話を楽しんでいる人もいれば、湖までハイキングを楽しむ若者もいる。何かに追いやられたり、焦ったりしている人はいない。

僕は何故、文学家がここグラスミアを愛したのか少し理解できた。ここは誰もが何者にも縛られず、自分を見つめ直す場所なのだ。そうした適切な場所で文学は素直に生まれるのだろう。

もしあなたが何かに焦っているなら、ぜひ来てほしい場所だ。

グラスミア湖を一周して、十分に楽しんだ後マンチェスターへ戻った。戻ったころには10時を超えていたし、体は長時間の電車移動で疲れていた。結局近くのサブウェイでご飯を済まし二日目が終わる。


音楽の街 リバプール

三日目の朝、念願のリバプールへと向かう。なぜならビートルズが生まれた町だからだ。今思うとすごく不思議な気分になる。小さい頃から聞き続けていたビートルズのその生まれた町に向かうなんて、あの頃は想像もできなかっただろう。

とにかく、リバプール行きのチケットを買い、午前には到着した。リバプールは本当にいい街だ。人もロンドンやマンチェスターほど多くなく、かといって閑散としているわけではない。海側へ向かうとアルバートドックと呼ばれる、カフェやバー、レストランに美術館が軒を連ねている場所がある。短時間で多くを回れるので観光にはもってこいの場所だ。

そのアルバートドックで、僕はビートルズ像で写真を撮りビートルズストーリーズに行った。ビートルズストーリーズはビートルズの誕生から解散までの物語をツアー形式で楽しめる施設。中にはジョージマーティンの経歴、アビーロードスタジオやビートルズが初期に活動していたキャバーンクラブを再現した空間を観ることができる。

ビートルズストーリーズを楽しみ、アルバートドックを散歩した後、実際のキャバーンクラブへと向かった。ここが正に僕が見たかったイギリスの景色をそのまま再現してくれていた場所だったのだ。

中に入ると、防空壕のような狭い場所で多くの人がビールを飲みながらシンガーソングライターの歌う「ペニーレイン」を聞いていた。周りにはいくつか記念品が展示されていて、中にはローリングストーンズやブライアンウィルソン、アークテックモンキーズ達のギターや実際のライブ写真が展示されていた。

これほど感動したのはいつ以来だろうか。だって多くの想像するものは実際目にするものと異なるし、現実は往々にして想像を超えない。けれどここキャバーンクラブに限っては想像していた場所がそのままの形で再現されていた。「夢のよう」とはまさにこの場所を指すのだろう。

何よりも美しい大聖堂

時間も残っていたので、イギリスでも最大級の聖堂のリバプールカセドラルに向かった。もしあなたがイギリスに来るならば、何箇所かの教会や大聖堂に訪れることをお勧めする。たとえ歴史に興味がなくてもだ。

きっと中に入るとそこが現実から距離があることに気付く。建物は中世からそのまま残っているものが多く、今でも拝礼のために訪れる人がいる。そしてしんと静まり返った空間は自分を見つめ直す機会を与えてくれる。僕は椅子に座って遠くを眺めてみた。遠くでは華麗なステンドガラスが日光を通して煌めいている。

そんな空間にいると、その当時どうしてみんな神を信じ崇めていたのか少し理解ができた。この神秘さこそ彼らに神がいることを信じさせていたのだ。

その後リバプールの街中を歩き回り、3日目の旅が終わる。

はちみつ色のバース

4日目のはバースへと向かった。実を言うと一度マンチェスターからブライトンへ戻り、年を越した後バースへと向かった。年末年始はお店をしていないところも多かったからだ。

ブライトンからは電車で約三時間。バースは18世紀の建物がそのまま残っていて、街全体が世界遺産に認定されている特殊な街だ。駅を出るとその見事な建物に圧倒される。建物全てが特殊なはちみつ色の石でできていて、まるで古代ローマの時代を思わせる。そんな建物の中には流行りのレストランやカフェ、アパレルショップが開かれているのだから、なんだか昔ながらなのか、今時なのか困惑るすような不思議な街だった。

街全体は一時間ほどで歩き回れる。世界遺産のバースアビーとローマンバスに行き、街を歩き回れた所でドミトリーに向かった。

イギリスの格差問題について

ドミトリーは12人部屋で、その日は四人が宿泊していた。バックパッカーの人もいれば、ウーバーで働きながらその日を生きている人もいた。

ここで僕はイギリス社会の暗い部分を見た気がする。実はここイギリスはアメリカ次ぐ経済格差が広がっている国なのだ。どこにいても物乞いをする人はいるし、その日を生きるのに精一杯な人たちがいる。少しこの話を書きたい。

イギリスの格差は深刻で、どこでも物乞いがいる。街の中でただ座っている人を見かけることは珍しくない。電車の中でもお金に困る母親が子供のためにお金を恵んでくれないかと頼む姿を見ることがある。母親は小さな手紙、それはお金を募るお願いの言葉が書かれている手紙を乗客一人一人に渡していく。日本だと絶対に見ない光景だ。僕はそんな場面を何度か見てきた。

冷戦以降の資本主義の暴走はここまで格差を生んでいると思うと、たまらなく恐ろしくなった。日本もイギリスと同じように格差が進んでいるのだから。

話を戻すと、ドミトリーで時間を潰していると同じ部屋のウーバーをしている人が僕に話しかけてきて、いろいろアドバイスをしてくれた。バースのここは行くべきだよとか、食事はパンとチーズとハムを買って作るほうがいいとか。彼の出身はウェールズで「いつか来ると、いい素敵な場所だから」と言ってくれた。行ってみたいなと言うと気持ちのいい笑顔で旅の幸運を祈ってくれた。

そして明日の準備を整えて、はじめてのドミトリーでゆっくり体力を回復させた。


湾岸都市 ブリストル


5日目の朝、ブリストルに向かう。ブリストルは古くからエイボン川に沿って栄えた湾岸街。彩豊かな建物やストリートアートで有名なバンクシーはここで生まれ、テクノやハウスなどのサウンドもここで生まれた。

ブリストルに来たからにはバンクシーの作品を見つけようと考えていたので、ネットの情報を頼りに探した。いくつかは見つけれたし、いくつかは既に消されていたり、美術館に保護されているものがあった。ストリートアートってつまり落書きだけれど、時間をかけてまで書いた作品を消されるってのはどんな気分なんですかね。僕なら清掃員に「消さないでね」って懇願するかも。

芸術に対する考え方

ブリストルもそうだけど、イギリスのどの街でもストリートアートを見ることができる。イギリスの街並みの一部はストリートアートで支えられてると言っても過言ではない。

落書きにも芸術性があって、見る価値のあるものにしたイギリス国民の芸術に対する考え方は本当に素晴らしいと思う。日本だと芸術は芸術家のもので、それ以外の人にとっては考える必要のないものという認識が強い気がする。芸術や伝統は国が保護していればとりあえずいい、あとはなんとかなるといった価値観が日本にはあるけれど、ここイギリスでは一人ひとりが当たり前のように芸術や伝統を考えている。美術館や博物館がフリーなのもそれが理由で、これら芸術文化は必須の教養なのだ。

ブリストルも歩き回り、世界一古い吊り橋「クリフトン吊り橋」も渡った所でバースに戻った。近くのハプでPDC(ダーツの世界大会)が放送されていたので、ビールを飲みながら観戦した。時刻が8時を回った所でドミトリーに戻り、1日が終わる。


郷愁の村 コッツォルズ地方レイコック

最終日。念願のコッツォルズへと向かった。皆さんコッツォルズという場所をご存知でしょうか?イギリスの中でも一番古く、そして美しいとされる村が集まる地域。僕は是非とも訪れたかったので、旅の最後の目的地にしたのだ。バースからはチェッペンハムという田舎町へと向かい、さらにそこからバスで30分。深い森の中をバスが進み、コッツォルズの中でも特に綺麗なレイコックと呼ばれる村に到着した。

着いた時、まるで物語の中の世界に迷い込んだような、そんな気分になった。明らかに別の世界なのだ。特殊なレンガを使った建物、そこで黙々と暮らす人々、自分が場違いなところにいるんじゃないかと思うような空気感。けど決してそれは否定的な意味ではない。むしろ郷愁感、ノスタルジーを感じたのだ。『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』のような無意識の世界。現実と非現実が混ざり合ったようなマジックリアリズムの世界なのだ。

レイコックは歩いて10分ほどで回ることのできる本当に小さな村だ。近くにハリーポッターの撮影地にもなった修道院があるのでチケットを買い見学した。その後雑貨店やパブでビールを飲んで、バスの本数がかなり少ないので、夕方前にはバースに戻ることにした。

フィクションの力

もしイギリス旅行に来るならば、是非ともコッツォルズ地方に行ってほしい。イギリスにはロンドンブリッジやビックベンなどの有名な観光地があるが、ここコッツォルズはそれ以上の価値があると思っている。

僕は時々、あるものが心を動かし、その後の世界の捉え方を変えてしまうようなことに遭遇することがある。それはある小説だったり、映画、絵などいわゆる物語を通じてで起こるのだ。コッツォルズに来た時、それらと同じような体験をした。おそらく村全体が長い年月をかけて特質な物語を作り出し、フィクションという機能を備えていたのだろう。それが僕に働きかけた。全くもって論理的ではないけれど、この世には論理では説明のつかない事象が大いに存在する。論理以上に。

終わりに

どこかに向かうというのは新しい物語を手に入れることと同意義なのだ。伊藤計劃は「魂が存在するのは、物語を紡ぐためだと。人間の脳は、現実を物語として語り直すために存在するのだと」と言った。まさにそうなのだ。
もし人がそのような存在なら、旅とはつまるところ新しい未知の現実を物語として紡ぐためにある。

そしてここに書いたものがまた誰かの物語になってくれれば嬉しい。


追記 フォトブックを作りました!

個人的な記念としてバックパックで撮影した写真をフォトブックにして作ってみました。

思ったより出来が良く、多くの人から綺麗と言われました。
イギリスの風景、出会った場所を多くの人に見て、共有してもらいたいので、もし欲しいって方がいましたら、noteの方か、お問合せください。













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