【書籍・資料・文献】『美しい都市・醜い都市』(中公新書ラクレ)五十嵐太郎
不況が生んだ錬金術
バブル崩壊から20年以上が経過。30年にも片足を突っ込んでいる。い政府は景気回復に手を尽くしているが、残念ながら景況感を実感している庶民は少ないだろう。
雇用は非正規化して収入は不安定。一方で、税金や健康保険・年金といった社会保障費は増大。社会保障費を多く払ったからと言って、老後が安心というわけでもない。金利はゼロに等しく、貯金の利子も心許ない。個人で資産を防衛する手立てはないが、だからといって金がなければ生活は成り立たない。そんな苦境を誤魔化すために、政府は「貯蓄から資産形成へ」というフレーズを生み出し、国民のなけなしの銭を投資信託へといざなった。
投資は自己責任が前提の世界。貯金にも年金にも頼るな!と突き放した政府が、「だから投資信託で資産形成しろ!」と告げる。老後をなんとかするべく、投資信託に個人マネーが流入したが、それもプラスになっている個人は少ない。
苦しいのは個人だけではない。政府・行政も同じだ。隣国・中国は2000年代からメキメキと経済成長を遂げ始めた。人口は約13億。人口比でみても、単純に中国は日本の10倍の生産力がある。そんな中国に、打ち勝つことは難しい。まして、国土面積は、日本が圧倒的に小さい。工場地・農地が小さくなれば、比例して工業・農業の生産力も落ちる。同様に、商業だってパッとしない。
だが、世界第2の経済大国・日本が、新興国の中国に負けるわけにはいかない。そんな思いが政財界にはある。
日本の経済を牽引してきた東京は、1970年代後半にはアメリカのニューヨーク、イギリスのロンドンと肩を並べるビジネス街に成長した。しかし、バブル崩壊で日本全体が停滞。経済の牽引役だった東京も過密によって沈滞ムードが高まっていた。過密を解消する策として、政府が繰り出したのが容積率の緩和だった。
容積率の緩和により、それまでは法規制で建設が不可能だった高層ビルの建設への道が開かれる。容積率の緩和は地区ごとに設定されたが、それも空中権の売買や公開空地を設けることによるボーナスなど、容積率アップの規定が次々に生まれている。
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