【書籍・資料・文献】『自動車産業は生き残れるか』(中公新書ラクレ)読売新聞クルマ取材班


国家を超えたトヨタ

 現在、47都道府県のうち不交付団体東京都のみ。一昔前までは、それに愛知県が加わっていた。市町村別に見ると、圧倒的に愛知県内の市町村に不交付団体が多い。その理由は、明白。トヨタおよび関連企業が愛知県に集積し、堅調な経営を続けているからにほかならない。

 どんな企業も経営には波がある。世界企業のアマゾングーグルにも成長の壁があり、その壁に当たったら新たな成長分野を探して、そこを開拓していく。そうやって企業は成長したり、時に失敗して破綻もしくは消滅を繰り返してきた。

 織機メーカーから勃興したトヨタは、自動車メーカーへと華麗に転身。そして自動車メーカーとして成長し、さらには時代とともに事業を多角化してきた。住宅販売のトヨタホームや金融業のトヨタ銀行などは、その最たる例と言っていいかもしれない。

 そうした自動車とは無関係のようにも見える企業も列しているが、トヨタの強味は何と言っても自動車製造における子会社の強さだ。

 自動車製造に欠かせない部品は多々あるが、トヨタ系列ともいわれる部品メーカーにはデンソーアイシン精機などが名を連ねる。また、グループ企業とは言い難いものの、ランプ製造大手の小糸製作所の筆頭株主もトヨタになっている。

 これらは、もちろん自動車の関連部品だけを製造しているメーカーではない。ケータイ電話に内蔵される精密機械なども製造しており、そういう意味では純粋にトヨタの子会社と言えるかどうかは難しい。デンソーはデンソーで、アイシン精機はアイシン精機で自律した経営をしている。自動車製造だけ、ましてやトヨタの仕事にだけ注力しているわけではない。そうした自律した子会社を抱えるのが、トヨタの強さでもある。

 トヨタは、もはや国内では敵なし。世界にもはばたく。トヨタの売上は日本経済を左右する。そして、それ以上に自治体財政を左右する。都道府県に比べると財政規模の小さな市町村は、トヨタの業績が自治体の浮沈にも直結する。

 トヨタの工場やデンソー・アイシン精機の事業所・工場が立地する市町村では法人税や法人事業税が潤沢に入り、雇用が堅調だから若者の流出も少ない。ゆえに住民税収も多く、社会保障費も苦にならない。また、消費も盛んなため消費税の地方配分も厚くなる。こんな状況下で、トヨタに盾突ける自治体なんてあるわけない。

 市町村のトップなら、トヨタ詣でをして工場誘致のひとつでも実現できれば後々まで地元で語り草になるだろう。それほど、トヨタの力は絶大なのだ。。

 海外でもトヨタ車の性能は認知されている。経済的には決して裕福とはいえない、アフリカ諸国でもトヨタの名前は轟いている。トヨタは大統領が乗る、優れたメーカーの自動車として認識されている。

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