38.恩師との再会
35年ぶりの恩師との再会と、その時の失敗談について書きたいと思います。
35年ぶりの恩師との再会
出張に車で行くことがあり、実家が通り道だったので、寄ることにした時の出来事です。時間があったので、久しぶりに母校の小学校に足を運ぶことにしました。
当時と変わらずグラウンドではサッカーの練習が行われていました。このサッカーチームは私が4年生の時に設立されたのですが、その時の指導者は34年生の時の担任の先生で、私の人生の中で最も尊敬する先生です。
なんと、その方が今も指導をしていたのです。その先生は35年程指導者を続けていた事になります。私の15年なんて、お遊びみたいなものですね・・・
声をかけたところ、先生は
「尾川君だよね、うれしいなぁ~」
と名前で声をかけてくれた事が、嬉しすぎて思わず涙がこぼれてきました。35年経って多少老けてはいますが、先生の面影はそのままで、当時の事を思い出しました。
「先生こそ、まだ指導されているとは信じられないです」
と、伝えると
「なかなか後を継いでくれる指導者が居なくて」
そのように言われたので
「実は今サッカーの指導者をしていまして、もしよろしければ一度練習に参加してもいいですか?」
と、伝えたところ
「そうなの!それは是非!」
と言われたので、その日は練習を見学だけして、終わった後に近所のお好み焼き屋で食べながら、話をしました。
当時から、その先生は何事にも熱心で、担任の時は怒られる事も多くありましたが、褒められる事も同じぐらいにありました。
実は先生に会う前に、あれだけ熱心に仕事をしていたら、それ以外の時間なんてないんじゃないかと思っていたので、食事の時に大変失礼な質問ですが
「ご結婚されていますか?」
と、聞いてしまいました。すると、笑顔で
「うん、何とかね」
と、答えられたので少しホッとした事を覚えています。その後続けて
「でも、仕事ばかりで何度か家庭がダメになりそうになった」
と言われていたので、私の心配もまんざらまと外れでは無かったと感じ少し複雑な気分でした。
後日、練習に参加する機会を作り、実際に参加してみました。
初めての選手達
昔から、子供に好かれるコツではないですが、なぜか子供が話やすい雰囲気を自然と作れてしまうので、初めての子供達が相手でも気にならずに、普段自分が指導しているチームと同じように、練習に参加しました。
もちろん、そのチームでの練習の流れみたいなものは事前に確認を取ったのですが、私が指導を受けていた時と全く変わっていなかった事が驚きです。
指導者が二人だけなので、細かい部分までは見れないことから、選手が自主的に各エリアに分かれて、ゲームを行う形の練習です。
初めの日は、3年生の子供達を見る事になったのですが、ゲームをメインで練習していると、ゲームは確かに上手なのですが、サッカーにおいてのセオリーの部分を知らないと感じたので、その点を伝える事にしました。
通常、12年生だと、積極的にボールに向かう事と、ボールのコントロール(ドリブル)を中心に指導をするのですが、34年生では理解力が向上するので、守備の原則について指導を行います。
サッカーの場合は大きく分けると、3つの戦術があり
個人戦術(個人の技術)
グループ戦術(3人程の連携)
チーム戦術(チーム全体の連携)
人数が増えるほど難易度が上がるため、3年生だと守備の個人戦術を指導します。
始める前に注意していた点として、選手を理解出来ていないため、出来るだけ全員が理解できる形の指導を心がけようと思い、始めたのですが、まず想定外の事が起こりました。
恐らく、10人居たら全員が同じように感じるだろうシチュエーションを作り、選手たちに
「例えば、このような状況の時、どうやって守備をするのがいいだろう?」
と、選手に考えてもらいました。一人を除く全員が同じ意見だったのですが、一人だけ理解出来ない選手がいました。
流石にこの時は「なぜ、この選手はこの状況が理解出来ないのだろう?」と、考えてはみたものの、すぐには答えを出せなかったので
「〇〇さん、一度自分が思うように守備をしてみて」
と、伝え守備をしてもらいました。予想通りうまく守備が出来ません。そこで、守備のやり方を伝え
「今伝えた方法で守備をしてみて」
と、伝え実際に動いてもらうと、期待した通り守備が機能しました。そこで
「なぜ、今うまくいったか分かるかな?」
と、聞いてみるのですが、本人はなぜうまく出来たのか分からない様子だったので、理解している他の選手に、説明してもらう事にしました。
他の選手が一生懸命説明するのですが、やはり彼女だけは理解が出来ないようで、教えている選手達が徐々に苛立ち初めてきたので
「これは何かおかしい、普通じゃない」
と、感じ一番理解が深そうな選手を呼び、その子について聞いてみました。すると
「他の子と違って、うまく理解出来ない時がいっぱいあるよ」
と、言うので
「そっか~しまった、先に聞いておけば良かった」
と思い、一生懸命教えている選手達に
「ごめんごめん、きっと彼女はこのやり方よりも、自分がうまく出来る方法を知っているのかもしれないね、なので今回は彼女の思うやり方に任せてみよう」
と伝え、彼女にもその点を伝えた所、府に落ちた様子が伺えたので、ひとまずはこれで良しとしました。
この失敗の原因は以下の点です
全員の事を理解していない状況だったのに、慎重さを欠いた
事前に選手の様子について確認を取るべきだった
というのも、現在の小学生の場合、少し理解がおぼつかない子がそこそこの割合でいる可能性が高いです。私のチームでも同じで、そうした子がいます。
それなのに、確認をせずに指導を始めた事が、失敗でした。
その後、選手達には
「今コーチが伝えた事は、基本的な動きなんだけど、もし自分のやり方の方がやりやすかったら、その方法でやってもいいからね」
と伝えました。これは、無理に押し付けるのではなく、次の意図があります
「失敗を重ねる事でうまくいかない事を体験してもらう」
選手個々によって理解力が違うので、理解出来ない場合は、失敗を経験する事で、別の方法へ意識を向ける指導方です。
これだと時間はかかりますが、無理に押し付けるよりも、自身の気づきにより意識が向くので、最終的にうまく伝えられる可能性が高いです。
最後はみんなでゲームをして、その日の練習は無事終了しました。
保護者からの相談
前回からそれほど日を空けずに再度、指導の機会を作りました。その時、練習を始める前に一人の保護者がおられたので、挨拶をした所
「前回の練習を見ていたので、子供から話を聞いたのですが、あんな教え方されたの初めてで、楽しかったと言ってました」
と言われたので
「いえいえ、ちょっと前回は失敗した所もあって、子供達どう感じてるか心配な所があったのですが、楽しいと感じてもらえたのなら、よかったです」
と伝えました。その後、相談事があると言われたので話を聞く事にしました。
どうやら、このチームでは試合の時は選手の保護者で、サッカー経験のある人がベンチに入るらしく、その試合中の話で
「試合の時に、引率するコーチが、すぐにボールを離せ!としつこく言うので、実際の所どうなのか、指導者資格をお持ちの方だとどのように感じるのか、意見頂けると嬉しいです」
と言われたので、以下のように返答しました
「シチュエーションが分からないのではっきりとは言い切れないのですが、もしボールを持っている場所が相手のペナルティーエリアに近い場所であるならば、私ならパスではなく、勝負してほしいです」
これは、ゴールに近くなると、怖くなってパスを選択する選手がいるのですが、それではゴールにつながりません。守備をする選手の気持ちになれば、おのずと分かるのですが
「本気で向かってくる相手程、嫌な相手はいない」
何をするにしてもそうなのですが、全力で向かってくる相手を前にすると、人間の本能で一瞬怯むことがあります。
サッカーではその一瞬が勝負の分かれ目です。私の場合は4年生ぐらいまでは何も考えずにゴールに向かう意識を持って欲しいと思っています。
56年生になると、相手に予測させない動きについて伝えていきます。勝負するような動きの中から、パスとかパスと見せかけて勝負する、この駆け引きが無いと、相手も守備が上達するので、なかなか崩すことが出来なくなります。
ただ、最後に一言、保護者に伝えました
「出来る限り、相手のコートに入ってからは、選手に声をかけない方がいいです。なぜなら、選手の判断を奪ってしまうためです」
と伝えました、目的は試合に勝つ事よりも、選手がサッカーを楽しめるように、自立出来るようにサポートする事、それが指導者の役割だと感じます。
もちろん、事前に練習と試合の開始前に、攻めの戦術については選手全員で意識の共有をしておく必要があります。
試合中は守備戦術のサポートはよいのですが、攻撃についてはある程度自由に考えさせた方が、よりクリエイティブなプレーが出てくる可能性がありますので、試合中に声をかけるべきではないと感じます。
もし、声をかけるならばプレーが切れた時に、シンクロコーチングした方がいいですね。
痛恨の失敗
この時の失敗は指導者経験の中で、1番悔やまれる失敗です。3度目の練習に参加した時に、その日は4年生の練習を見る事になりました。
3年生とは違い、4年生は理解力も向上しているので、ゲームを行いながら、気になった所でプレーを止めて、その時の選択肢について、考えてもらう方法で指導しました。
それ自体はよかったのですが、問題は最後にプレーを止めずにゲームを楽しむ時間での出来事です。ある選手が二人で取っ組み合いの喧嘩を始めました。
一人は泣いていたのですが、もう一人は涼しい顔をしていました。この時点でこの二人の力関係は分かったので、ひとまず喧嘩を止めて、まずは泣いている選手の話を聞きました。
その後、もう一人の選手の話を聞こうとしたのですが、話をする気がなさそうだったので
「喧嘩はお互いの考えが違う時に起こるので、今回は二人ともお互いに誤って、それで終わりしよっか」
と伝えると、泣いていた子は謝るつもりだったのですが、もう一人の子はその気はないようで、背を向けて離れて行きました。
それ以降、泣いていた選手は、試合を見にいった時に声をかけてくれましたが、もう一人の子は無視する態度を取ります。
気になったので、しばらく無視する態度をとる選手を観察する事にしました。すると、その子の保護者と思われる父親が来たのですが、そのやり取りから、どうやら普通の家庭とは少し異なる環境で育っている印象を受けました。
この時に感じたのは、これも前の練習の時と同じで、事前に普通とは少し違う子がいるかどうかは、あらかじめ確認しておくべきでした。
特に今回の場合、それが分かっていれば、喧嘩の仲裁に入った時に深入りしませんでした。
なぜなら、いきなり来た指導者が指導出来る選手ではないと感じたためです。この選手に指導をするのであれば、長い時間をかけて信頼関係を築いてからでなければ難しいと思います。
後日、練習に参加したときに、34年生でゲームを行う事になり、私も人数合わせで入ってプレーしていたのですが、その選手がGKで私が同じチームの守備をしていると、その選手はゴールキックを蹴るときに、守備をしている私の後頭部めがけて思い切りボールを蹴り、当たった勢いで私は前に倒れました。
幸いうまくダメージを逃したので、大事には至らなかったので良かったです。おそらく普通なら、この場面は本気で怒ると思いますが、このようなストレスに対しての耐性を持っている事で大きな騒ぎにならずに救われました。
「びっくりした~、ちゃんと見て蹴ってや~」
と、何事もなかったように流しました。但しこれが、同じ子供相手にそれをした場合はきっと本気で怒っていたと思います。大事故につながる可能性があるためです。
今回のように、信頼関係を築いていなければ指導が難しい場合もあるので
で書きましたが、指導をする上でまず初めにしなければいけない事は
「信頼関係を築く事」
これが大切です。
この失敗から学んだ事は
「信頼関係を築く時間が無い時は、事前の下調べを十分にした上で、指導に臨む事、そして深入りしすぎない事」
これが大切という事ですね。
私の人生の中で、子供から嫌われるのは、恐らくこの1回だけになりそうです。それだけに、ちょっと悔やまれますね。
後日、先生から指導を引き継いでくれる方が、現れたと連絡がありました。その指導者は私が小学生の時に一緒に集団登校していた、1年年上の同じサッカーチームの先輩が引き継いだようです。
これで、先生も少しゆっくり出来るかもしれませんね。
また、足を運んでゆっくり先生と話をしたいと思います。
お気持ち感謝に尽きません🙇♂️