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META社の「Robyn」でマーケティング効果予測モデルを実装する。

取り組む企業が増えている「MMM」

時系列データを解析することで、 TVCMやインターネット広告などの施策がそれぞれ、売上にどれだけ寄与したか?効果を定量化し予測するMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)をExcelで行う方法は2018年に出版した書籍「Excelでできるデータドリブン・マーケティング」で解説していた。

当時はマーケティング従事者でもMMMを知らない人が殆どだったが。2022年以降、業界媒体「MarkeZine」の記事執筆やイベント登壇など、MMMをテーマにしたオファーを頂く機会が増えた。マーケティング従事者でMMMとは何か?知っている方が多くなり取り組む企業も増えている。

誰もがマーケティング投資効果予測を行える様に。

2022年6月にMETA社のMMMツール「Robyn」を紹介するnoteと使い方のYouTubeを公開した。前回公開したYouTube講義に対応するRobynのバージョンはv3.6.4だった。今回紹介するのはv3.10.4である。RobynはMETA社が運営するグローバルのコミュニティがあり、ユーザーの意見をヒントにアップデートされている。

Robyn(v3.10.4)徹底活用。YouTube講義

無料の分析プログラムのRを使うのが初めての方にも活用できる様に丁寧に解説した2時間20分の講義を公開した。YouTubeの概要欄でタイムコードでチャプター分けしている。演習データ配布ページのURLも記載した。

高度な効果予測モデルが無料で行える時代に。

筆者はおよそ10年以上前に、今の為替で1年の使用ライセンスが年間1,200万円を超える欧米製のMMMソフトを使っていた。Robynは当時使用していたツールに劣らず高機能だ。私からすると1,200万円のツールが無料配布されている感覚で時代の変化を感じている。ここからはMETA社のRobynでできることと、それを拡張した機能について解説する。

Robynの基本機能

RobynはMETA社が開発しオープンソースで公開されている高機能なMMMツールだ。以降の画像はRobynのテクニカルガイドから引用した、デモデータの分析例である。Robynでは分析結果の画像も自動生成してくれる。

以下の画像は各チャネル(tv、search、print、search、facebook)が売り上げにどれだけ影響しているか効果を把握することで、費用(Spend)のシェアと効果(Effect)シェアと、ROI(効果÷費用)のプロットである。

費用比率と効果比率とROI

以下の画像はレスポンスカーブといって各チャネルごとに、投下量が増えるほど効果が減衰するカーブや、一定の投下量までは指数関数的に効果が増大し、ある段階から減衰するS字カーブを探索する。

レスポンスカーブ

Robynは残存効果(AdStock)も考慮し、TVCMやFacebook広告など、施策ごとの残存効果も自動で探索する。

アドストックのアルゴリズム3種


Robynの機能を発展させた「階層型MMM」

Robynの高精度なモデリングを行なった結果を加工して行う分析として、

・広告→CV(コンバージョン)
・広告→指名検索

2つのモデルを合算した「階層型MMM」をデジタルマーケティングで活用している。YouTube講義では、仮想のゲームアプリのインストールを増やす(「直接的に増やす」&「指名検索の増加を経由して増やす」双方を考慮)モデルで最適化計算を行う方法を習得することが出来る。

2つのモデル(広告他→conversion/広告他→Brand(指名検索クリックなど)を合算した最適化を行う「階層型MMM」概念図
2つのモデルを合算した実績プランと最適化プラン

実績プランと、最適化プランのそれぞれの効果予測式(レスポンスカーブ)を描画も可能だ。これも、v3.10.4のRobynにはない応用機能となる。

Robyn分析結果から作成する最適化前後のレスポンスカーブ

デジタルマーケティングでMMMの活用が有効な理由

現在、多くのデジタルマーケターが、既存の効果検証法によって直接的なCVを把握している。以下の例だと、月間400万円のインターネット広告で、直接的な貢献600CVを把握してCPAを6,666円と評価している状況だ。実際は、既存の計測では把握ができない効果として、広告→指名検索によって増えたコンバージョンもある(この例では400CV)。

さらに、自社EC以外の外部チャネル(赤い部分)のコンバージョンがある。D2Cブランドでは楽天やAmazonなどのECモールからの売上だ。

全CPA(R)

MMMでは、自社ECに加え外部チャネルも加えた全てのコンバージョンを分析する。そうすることで、クッキー規制の影響などによって目減りした部分的なデータによるCPAではなく、より確かなCPAを把握することができる。これが、「全CPA」である。

ROASも同じ考え方だ。「全ROAS」のほうが、既存の計測による効果(部分ROAS)より、広告の評価を適切に評価することが出来る。

全ROAS(R)

全CPAまたは全ROASで「真の効果」を把握する。

デジタルマーケティング限定でPDCAを行うブランドのアナリストとしての活動で「MMMによるインターネット広告などの施策の適切な評価」は必須だ。前述した部分CPA(または部分ROAS)と全CPA(または全ROAS)の乖離が大きい為、コンバージョン計測の欠損の増加から感じていた「本来の効果はこんな数字のはずはない」という仮説を明確な数値でクリアにできる場合が多いからだ。

デジタルマーケティングによる実店舗売上増加などの「クロスチャネル効果」を把握する。

かなり昔(2013年)であるが、広告会社で働いていた時にLINEスタンプを媒体化直後に実施し、当時行われていた流通対策のマス広告で動かなかったPOSが動いた。コンビニが前年比113%、GMSが前年比で143%、GMSは特売の影響もあると考えられていた為、当時、特に評価されていたのはコンビニ売上アップだった。

デジタルの態度変容で店頭の商品が大きく動いた初めての経験だった。このあと、デジタル→リアル売上リフトやマス広告→デジタル売上リフトなど、クロスチャネル効果をMMMで定量化する取り組みを本格化し、10年が経った。

デジタル→デジタル売上リフトの把握にもMMMが不可欠に。

クッキー規制など世界的なプライバシーデータのトレンドから、デジタル→デジタル売上リフトも多くの欠損が発生し、一部のコンバージョンを追いかけている状況となっている。

MMMは大規模なTVCMを活用できる一部の方向けの手法ではない。

デジタルマーケティング限定でも、広告などの各種投資による真の効果を把握し予測するためにMMMが必要だ。MMMで全ての売上やコンバージョンに対する全CPA、全ROASを把握し予測する。通常の計測方法で1ヶ月1,000万円の売上貢献がMMMだと5,000万円の施策をみつけたこともある。いきなり鵜呑みにするのは危険なので毎週少しずつ予算配分を変えるなどチューニングしながらMMMを繰り返したことで、1年で月商500万円から1億円に成長したD2Cブランドもある。

MMMに着手するか?しないか?

一歩目を踏み出す方をアシストするコンテンツを今後も発信していく。

関連情報※適宜更新

ここまでお読み頂きありがとうございました。以下関連情報です。

YouTube講義※再掲

Robynの実装方法まで解説したYouTube講義です。演習データは動画の概要欄に記載したフォームからお申込みください。

書籍『その決定に根拠はありますか?』

エビデンス・ベースド・マーケティングの数式や法則を日本で96.6万人調査して確認し、新たに体系化した「確率思考のマーケティングの実践法」の書籍です。戦略を導く為の「エビデンスの作り方」をテーマに、これまで体系化してきたノウハウを紹介する書籍です。上記のYouTubeよりもさらに詳細なMMMの解説と動画講義もあります。

以下、この書籍の特徴①②③を紹介します。

①実務で活用しているMMMのExcelツール

読者特典として用意した動画講義にRobynのMMMの実装を入れました。v3.10.5に対応し、さらに私が実際に使っているVBA入りExcelでRobynが生成した各種ファイルを自動で取り込む方法をレクチャーし、スピーディーな意思決定をアシストします。

②独自技術「消費者調査MMM(特許出願済)」

5問~10問の調査でTVCM(施策)→コンビニで商品を見た(要因)→売上がいくら増えたか?→年間16.67億円(効果)の様に経路ごとに構造的に効果を把握する国際特許(PCT)を出願した消費者調査MMMという分析法など、戦略を導く為にプロジェクトで実際に活用している方法を共有しています。以下の無料noteでも解説しています。

③本格的ノウハウを学ぶ動画講義(計7時間)

エビデンス・ベースド・マーケティングの書籍「ブランディングの科学」「確率思考の戦略論」で書いてあった数式や法則を2021年から2024年4月までに行った96.6万人の調査で確認したデータも参照し、これら書籍の要点をわかりやすく咀嚼し、汎用的に実務で使える方法として整理しました。以下のnoteでは、書籍で紹介した分析と合計7時間の読者特典の動画講義の内容を解説しています。

マーケティング投資予測モデル支援モデルケース資料PDF

時系列データ解析によるMMMと消費者調査MMM(特許出願済)を組み合わせて行うマーケティング投資予測モデルケースのPDF資料を配布しています。個人情報の記入は必要ありません。1クリックでダウンロードできます。※資料は適宜更新します。


マーケティング業界媒体MarkeZine書評

MarkeZineでは「エビデンス・ベースド・マーケティングの実践的な内容でマーケターのスキルアップを後押ししてくれる一冊」として紹介されました。

X投稿(書籍関連)

マーケターの方を中心に多くの方に拙書をご紹介を頂くことができ、大変感謝しております。いくつか参照致します。


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