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和のデザインと陰翳礼讃

以前、オススメのデザイン本を紹介したnoteを書きました。その中で僕は一番最初に谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」という本を紹介したのですが、本日はなぜそれを紹介したのかをもう少し深掘りします。

陰翳礼讃という文化資本

陰翳礼讃はタイトル通りの暗闇万歳!といった内容なのですが、その根底には鎖国を経て文明開化に至った日本独自の文化の魅力とは何なのか?を綴っています。

日本が誇る文豪、谷崎潤一郎による翳りの中に潜む美しさを浮かび立たせる随筆集。特に文明開化の前後、暮らしの中に電灯が入る狭間の時の暗がりの中に美しさを見出す情緒あふれる筆致がたまりません。

この翳りや鬱屈とした暗がりの中に栄える美しさを見出す感性は、とても日本的な感覚だと思います。

視覚表現を扱う全ての人にとって、ヒントになる事柄が満載された秘伝の書です。

これは当時、電球が普及して暮らしの中から陰影が取り除かれ、すべてを明るく照らし始めた事から谷崎潤一郎はヒントを得て観察を積み重ねたのでしょう。

最近でこそ暗い事=悪という単純な考え方は薄まっていて、同じ光でも色温度や照度や演色性といった科学的要素をエビデンスを持って分解・再構築するようになりました。

しかし、今なお私達は古い神社仏閣の薄明かりの堂内に神性を見出し、左右対称で水平に形作られた日本の宗教建築に荘厳さを感じています。

これらの感覚は一体何なのか?そこを紐解き、自分なりに咀嚼することが、日本人デザイナーにとっての武器になるはずです。


和のデザインが苦手な日本人

ここを読んでくれる人はデザイン関係の方も多いと思いますが、みなさん和のデザイン得意ですか?どうでしょうか?これを聞いたら、半数以上の人は苦手orよくわからないと答えると思います。

なぜなら、僕らは自分たちで思っているほどにこの国のことを知らないからです。

和のデザインをするには、そもそも和とは何なのか?この国の伝統を踏まえつつ現代的にアレンジするには、当然ながらそもそもの伝統を知らねば不可能です。

つまり、近代化の中で伝統教育がないがしろにされてきた弊害とも言えます。(優先順位を下げたからこそ急速に近代化できたとも言えますが。。。)


現在溢れかえりつつあるインバウンド旅行者に人気の「茶道」「着物」「OTAKU」などのコンテンツの中で、伝統的な茶道体験をしたことはありますか?和服は今までの人生で何回着たでしょうか?

今ではそれら伝統産業もすでに一つの特殊な見世物になりつつあり、下手な日本好きの外国人よりも私達の方が勉強不足であることも珍しくはありません。


ローカルな文化は評価が難しい

もう一つの問題は、こうしたローカルな文化的定義はローカルゆえに市場や体制が小さく、評価者が育たないままタコツボ化しやすい点です。

例えば、和のデザインと言った時に何を持って良いものとするかを判断できる人がそもそも少ないのです。

伝統産業が閉じていった結果として扱える者が激減し、現在では多くのデザイナーが和風のデザインはできても和のデザインはできないという奇妙なことになっています。


21世紀の侘び寂びを考える

和のデザインができない、苦手意識を持っていることを悪だというつもりはありません。僕も20代の頃から苦手でした。居酒屋よりもカフェやレストランの方がおしゃれに感じて、デザインして設計するならカフェやビストロやレストランの方が得意だと思っていました。

30代前後になりだんだん外食でも寿司と蕎麦を好んで選ぶようになり、三ツ星ホテルよりも温泉旅館に惹かれるようになりました。そして、それらを自分でも作りたいと思うようになっていきました。

作るためには、そもそも和とは何なのかを定義する必要があります。

そこで10数年前、学生時代に恩師である内田先生に教わっていたことに再び戻り、陰翳礼讃や茶の本を再読するようになったのです。


そんなわけで、もうじき竣工する吉祥寺のお店は独立してから初めての和のデザインの物件です。

これは独立直前に手がけた東京スカイツリー ソラマチにある浅草 梅園さんの仕事をして以来、実に6年ぶりの挑戦になります。

自分でもまだまだ未熟であることは感じつつも、自分なりの21世紀の侘び寂びを追い求めたいと思います。そこらへんの細かい設計思想の話もいずれまた。

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