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トライアルに合格して翻訳会社に登録してもなかなか仕事が来ない場合、どうする?

目次

■特段何か心当たりがあるのでない限り、仕事が来るか来ないかは相手方の事情
■立ち上げ当初の会社やプロジェクトの場合、発注体制が整っていない
■すでに案件が発生しているところを狙う
■大手と中小を織り交ぜて攻める
■なるべく素早く返事することで忙しすぎる人だと思わせない
■色んな方向から仕事が入ってくるように自分への入り口をたくさん作る
■自分の「売り」を突き詰めて磨き、ファンを増やす(マーケティング活動)
■手が空いたらどんどん応募

 せっかく翻訳会社のトライアルに合格して喜んでいても、実際の案件がなかなか来ないことがあります。最初から全然仕事が来ないこともあれば、1度だけ仕事が来てその後全然来なくなってしまうこともあります。
 そういう時、どうしたらいいのでしょうか。

■特段何か心当たりがあるのでない限り、仕事が来るか来ないかは相手方の事情
  
 
 結論から言うと、登録が完了した翻訳会社から仕事が来ない場合にその場で直接打てる手はほぼありません。のっけからガッカリするような答えで申し訳ないですが、翻訳の仕事は元来その性質上、発生ベースの仕事なので、仕事の発生自体は翻訳者側や翻訳会社側でコントロールできません。翻訳会社に連絡してみても、「また案件が発生しましたらご連絡致します」と言われて終わり、ということもあります。

 仕事が来るのも来ないのも相手方の事情ということがほとんどですから「なぜ来ないのだろうか」と考えるより、気持ちを切り替えてどんどん持ち駒(登録先)を増やした方が建設的だと思います。私の経験上、目安として1つの会社に登録して1カ月経過しても新規の打診がない場合、そこは一旦諦めて(保留にして)次に行きます。

 ただし登録先をやみくもに増やのではなく、ある程度戦略が必要です。それは「急いで翻訳者を探している会社に応募する」ことなのですが、これも求人欄に書かれている内容だけで判断できないこともあるので、私の場合、以下のような点に着目しています。

■立ち上げ当初の会社やプロジェクトの場合、発注体制が整っていない(かもしれない)

 
新会社や新規事業などで新たに翻訳者を募集している場合、まだ実際の発注に至るまでの体制が整っていないことがあります。実際にクライアントから案件を受注するには、必要な人数の翻訳者とチェッカー、翻訳コーディネーターが必要ですが、受注から納品、請求までの一連のサイクルを問題なく動かしていくには組織の中で働く人にノウハウが要ります。その体制が整う前の「人集めの段階」での募集だった場合、実際に案件が動き出すまでに数カ月から1年近くかかることもあります。
 聞いた話ですが、トライアルに合格して全然仕事の打診がないと思ったら登録してから1年後に最初の打診が来たことがあったそうです。そういうケースは上記のような場合に当てはまることもあるのではないかと思います。

■すでに案件が発生しているところを狙う
 一方、募集の段階でプロジェクトの分野や内容、分量などが具体的に載っている求人も時々あります。「〇〇のため業務拡大中!」などの文言が載っていることもあります。必ずその案件を打診してもらえるとは限らないものの、「今後に備えて翻訳者の数を増やしておきたい」という余裕のある状況の会社よりはすぐに案件を振ってもらえる可能性が高いと考えられます。

■大手と中小を織り交ぜて攻める
 
どんな会社に応募するのがお勧めですか、というのもよく聞かれる質問で、これも私の個人的な意見ですが大手の翻訳会社と小さめの翻訳会社の両方に登録するのがいいと思います。いろいろな形態の相手先と取引してみて、どのような会社が自分に合うか、どういう案件の打診が自分に多く回ってくるのか、実際に経験しながら徐々に見極めていくというのもひとつの戦略だと思います。 
 大手の翻訳会社には色々な企業から日々幅広い分野の案件が持ち込まれていますから、年末年始やお盆休みでレギュラーの翻訳者陣が出払っている場合などに、新規登録者にもチャンスが回ってくることもあります。そういう時に良い仕事をすると次からは自分のところへ最初に打診してもらえることもあります。
 一方、小さめの会社だとPM(プロジェクトマネージャー)さんやコーディネーターさんに覚えてもらいやすく、自分に合う案件を定期的に振ってくれたりすることもあります。

■なるべく素早く返事することで忙しすぎる人だと思わせない
 
冒頭で受注できるかどうかについて打てる手はない、と書きましたが、応募からトライアル→契約→登録の一連のプロセスでなるべくスピーディーにレスポンスする、ということはある程度有利に働くかもしれません。
 そのプロセスに非常に時間がかかっていると「既存の顧客の案件への対応ですごく忙しい翻訳者さんなのかな」と思われて、最初の打診をしていいのかどうか、先方に迷いを抱かせてしまう可能性もあるからです。
 提出物などはできるだけ長く間を空けすぎずに提出することで「いつでも受注できる体制が整っていますよ」という間接的なアピールになる可能性もあります。

■色んな方向から仕事が入ってくるように自分への入り口をたくさん作る 
 とはいえ、それもあくまで可能性のうちのひとつですので、こちらがレスポンス速く対応しても相手先も素早く仕事を振ってくれるとも限りません。ですから、こちらからの応募と並行してできるだけ自分のところに仕事の機会がたくさん集まってくるような仕掛けを作ります。

・翻訳団体(JATJTF等)、翻訳者ディレクトリLinkedIn、自分のウェブサイトやSNSに自分のプロフィールを掲載して窓口を増やす

・業界団体主催のオンラインイベントやセミナーなどに参加し、イベント後の懇親会などが開かれるようであれば出席して人脈を広げる

などの方法で、こちらから応募するだけでなく顧客から自分を探しにきてもらえるような工夫をすることも取引先を増やす効果があります。

 自分の情報を掲載して相手先からコンタクトしてもらうための情報掲載の方法については、私が運営している「翻訳者スタートガイド.net」のなかの記事または当アカウントの別記事「翻訳の仕事を探す方法」をご参照ください。

■自分の「売り」を突き詰めて磨き、ファンを増やす(マーケティング活動)
 そしてやはり、仕事を増やすには自分の商品価値を高めることが重要です。翻訳の実力をさらに磨くことも大切ですが、自分のどこが売りなのかどういうところが特徴的なのかを考え、プロフィール欄で光るポイントを作るようにします。これからの翻訳者には「マーケティング」の視点も重要です。顧客目線で見て分かりやすい「これ」という魅力を作り、それを自然な形で不特定多数の人の目に留まる場所(ネット上)に置くことが仕事が舞い込む状況を作るコツです。

 自分の「売り」は、必ずしも強力な専門分野を持っていることとは限りません。私の場合は、語学以外の強力な専門分野はなく、社内翻訳者時代から広くいろいろな分野の翻訳を手掛けてきたことが唯一の特徴でもあります。以前社内で通訳もつとめていたことから、英日・日英の双方向の翻訳を行います。英日、日英はどちらかに絞って強みとする戦略もありますが、私の場合はあえて「英日、日英双方承ります」と謳うことで利便性を強みとしています。

■手が空いたらどんどん応募 
 
私は2011年に税務署に開業届を出して以来、10年以上にわたって少しずつ取引先を増やしてきましたが、2022年8月現在、登録先は30社以上にのぼります。ほぼすべてにトライアルがありましたからトライアルは30社以上受けました。落ちた会社もありますから40社近く受けていることになります。
 その中には1度も案件をいただいていない会社もありますし、1度きりで終わった会社もあります。現在は2~3社をメインに、5社程度とコンスタントに取引があります。基本的に先着順に引き受けていますが、不得意分野、対応できない分野はお断りすることもあります。1人で作業していますので、スケジュールが埋まってしまったらその後に来た打診はお断りせざるを得ません。

 自分と相性の良かった案件で出来栄えが良いとリピートいただけたりと、徐々にご縁がつながっていきます。1度きりで終わってしまったところは、何か悪い点があったのかもしれませんが、ほとんどの場合悪いフィードバックはいただけずにそのままフェードアウトですから、心当たりのあるミスは反省しますが必要以上に悩まないようにしています。

 どんなに良い翻訳で気に入っていただけても、会社の予算がカットになったのかもしれませんし、もともとレギュラーだった人が帰ってきたのかもしれませんし、こちらでいくら想像しても分からないことは考えても仕方ありません。できるだけ良好な関係の取引先を可能な限り増やして、先に確定案件を発注していただいたところから順にお受けして、誠実にやり取りの実績を積んでいくしかないと思います。

 長々と書きましたが、「来るものは拒まず、去るものは追わず」の姿勢で「常にどこかから依頼が来ている状態」を保つことがフリーランスの翻訳者として定的に生計を立てるコツです。それぞれの顧客に対して精一杯良い仕事をすることはもちろん大事ですが、「ここがなくなってもあちらがある」という状態を作り、精神的な余裕を持つことも必要なことだと私は思います。

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