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翻訳単価の決め方(英日、日英)

目次

1. 自分が欲しい時給で決める考え方
■原文ベース単価と訳し上がりベース単価
■【参考】英日のワード単価と日英の文字単価

2. 自分が欲しい年収で決める考え方

 一般的にフリーランスの産業翻訳者はワード単価(英⇒日翻訳の場合)または文字単価(日⇒英翻訳の場合)で顧客(直取引クライアントまたは翻訳会社)と契約を結んで報酬を得ます。

 自分の単価については皆さんあまり外では言わないのが普通ですので、業界団体のウェブサイトや資料を参考になさってもいいと思いますが、なかなか実態が分からず迷う方もいらっしゃると思います。

1. 自分が欲しい時給で決める考え方
 例えば、通訳者の方が通訳に関連する資料の翻訳を頼まれたり、知人から個人的に翻訳を依頼されてどれぐらい請求したらいいか分からないという場合があるかと思います。そのような場合に「時給ベースで考える」という方法があります。まず、自分の訳出スピードは1時間に何ワードぐらいなのか測っておきます。そして自分はその作業で時給いくら欲しいかで考えます。

自分が欲しい時給 ÷(1時間当たりの処理ワード数)= 希望ワード単価(英日の場合)

例えば
時給2500円は欲しいなという場合。スピードは仮に1時間に250ワードだとします。

この場合、2500÷250=10(円) 

       ※これが自分の欲しい時給をかなえるワード単価

1000ワードの翻訳依頼が来たら(4時間かかるので)⇒10,000円で引き受ければ時給2500円確保となります。

 日英の場合も時間当たりの翻訳スピード(〇字/h)で測っておき、同じように時給換算で希望単価を出して用意しておくと慌てなくて済みます。
 
 とはいえ自分の希望単価がそのまま通るとも限りませんので、上記のような計算式を目安として自分なりに欲しい金額と単価を決めておき、後は相手先との交渉になります。

 自分の希望単価を言ったら相手から交渉が入った場合、「少し高すぎたかな」と考えます。自分の希望単価を言ったらすんなり通った場合は、次回から別のところではもう少し上を言ってもいいのかもしれない、というように徐々に自分なりの相場感が養われていきます。

 単価決定は自分が欲しい額と客先との交渉の結果によるものですので、あまり周囲の声に左右されないほうがいいかもしれません。単価は分野や内容によっても違いますし、経験年数の差によっても異なります。

■原文ベース単価と訳し上がりベース単価

 ちなみに、英日で原文英語1語あたりのワード単価日英で原文日本語1文字あたりの文字単価で単価を表す場合(原文ベース単価)と—①、

 英日で訳しあがり日本語1字あたりの文字単価、日英で訳しあがり英語1語あたりのワード単価で単価を表す場合(訳し上がりベース単価)—②の
2種類がありますので、間違えないように注意してください。

 現在では①の原文ベース単価で取引するケースが多いです。訳し上がりベースの単価計算だと見積り時に正確な請求額が分からない点と、過去には報酬を増やすためにわざと冗長な訳をして量を増やそうとする翻訳者が現れたこともあったためだと考えられます。

 現在は原文をデータでやり取りすることがほとんどなので原文のワード数や文字数カウントが容易にできますが、20数年前の、まだ原稿を紙やファックスでやり取りしていた時代には原文の正確なワード数や文字数がカウントできなかったので訳し上がりのデータをカウントして請求していたという事情があります。

■【参考】英日のワード単価と日英の文字単価

 分野と内容によりますが、英語と日本語の間にはざっと

  英語 200~220ワード(文芸の場合は150ワード程度)=日本語400字

という相関関係があります。つまり、200ワードの英語を日本語に訳すとおよそ400字になり、400字の日本語を英語に訳すとおよそ200ワードになるということです。

 ですから英日のワード単価と日英の文字単価が同じ、という設定は若干奇妙だな、と筆者は思います。仮に英日と日英の労力が同じだとすると、仮に英日のワード単価が16円の場合、日英の単価は8円相当になります。
 日本人が日英翻訳を担当する場合に外国語がターゲット言語となるため時間がかかる関係で日英の単価を良くするとしても、英日のワード単価の6~7割程度になるのが一般的だと思います。

 時々英日のワード単価と日英の文字単価が同じ設定になっているクラウドソーシングサイトを見かけますが、あの場合、単純に日英単価が英日単価の2倍になっているということになるので、日英翻訳を引き受けた方が単価がいいということになります。

2. 自分が欲しい年収で決める考え方
 
もうひとつ、長期的な考え方として、自分が欲しい年収から単価を割り出す方法があります。

 自分の欲しい年収 ÷ 1,000 = 目標とする時給

 フリーランスには受注の波がありますから、会社員の人たちのように、
1日8時間勤務×23日=月収
月収×12=年収

 という計算式は成り立ちません。フリーランスの請求できる時間(Billable hoursビラブルアワーズ)イコール勤務時間ではないので、会社員の人や派遣社員の人の時給と、時間当たり報酬が同じでは彼らと同じ年収は稼げません。

 フリーランスは見積書や請求書作成、帳簿付けや確定申告などの経理処理、登録先への応募や無料トライアル対応、ウェブサイトやプロフィールページの更新などの営業活動の時間には報酬が発生しませんから、こうした必要な業務に時間を充てる分もいただける翻訳料でカバーしなればなりません。

 さらに翻訳に必要な辞書や書籍、PCやその周辺機器、ソフトウェアや文房具なども会社から支給される会社員とは違ってすべて自前です。

 すると例えば年収400万円稼ごうとすると時給4,000円を目指す必要があるということです。時給4,000円を稼ぐにはワード単価10円なら1時間に400ワード、単価20円なら1時間に200ワードの計算になります。

 参考までに稼げる系の講座やコースでよく売り文句になる「年収1千万円」を稼ぐためには時給1万円を目指す必要があるということになります。

 
 業界のだいたいの相場の感覚はつかんでいただけたでしょうか。クラウドソーシング系のサイトでは英日翻訳原文英語1語あたり1円などという「激安案件」が転がっていると聞きますが、1語1円では2000ワード訳しても2000円です。2000ワードというのは現在日本で稼働している英日翻訳者の一般的な1日あたりの翻訳可能ワード数ですから、1語1円は日給2千円ということになります。

 趣味で翻訳をやりたいとか採算度外視でボランティアでもやりたい、という人はともかく、今後翻訳で生計を立てていきたいと考えている人はあまりにも安い単価で引き受けると自分が体力的にも精神的にも消耗するのでお勧めできません。

 ちゃんと探せばまともな単価なまともな仕事はあるところにはあります。翻訳の仕事の探し方は別記事をご参照ください。



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