ポストコロナの働き方~都会のオフィスからリゾートへ流れが促進~
1.コロナがもたらす働き方改革
コロナがもたらした唯一とも言える恩恵をあげるとするならば、私は日本における働き方改革が一気に進展したこと、と言うでしょう。具体的に申しますと、テレワークが一気に進展したことが言えます。(株)ドリームアーツの調査(以下図参照)によると、コロナの感染拡大を境にして、実に45%の企業がテレワークを導入したことが明らかになりました(左グラフ)。また、個人のテレワークの状況を見ても53%の人が、コロナ感染拡大をきっかけとして、テレワークを経験しました(真ん中グラフ)。さらに、平常時に戻ったとしても、このまま寺ワークを実施したいと考える人は66%に及んでいます(右グラフ)。以上のことから、ポストコロナにおけるテレワークの定着、さらなる浸透拡大が予想されます。
2.ワーケーションの台頭
このように、我が国における、急速な働く環境の変化は、働くスタイルの大きな変換をもたらすと私は考えています。その一つとして注目するのは「ワーケーション」です。ワーケーションとは、仕事(work)と休暇(vacation)を組み合わせた造語で、もともと欧米発の働き方スタイルの一つです。2017年に、和歌山県が地域活性化策の一つとして「ワーケーション」という言葉をメディアを通して発信して以来、徐々に我が国に浸透しつつあります。
2020年4月29日の参院予算委員会では、立憲民主党の蓮舫議員から「ワーケーションって何ですか?」などと、補正予算案にコロナ収束後を想定した予算が組み込まれていることを指摘されたが、小泉進次郎環境相は「ワークとバケーションを合わせた言葉で、我々が作った言葉でもありません」と、噛み合わない“官僚答弁”に終始しました。(引用:聞蔵Ⅱビジュアル (朝日新聞記事データベース) http://database.asahi.com/library2/)
このやりとりを通して、一気にワーケーションという言葉が世間に知れ渡ったかも知れません。一方、言葉が一人歩きしていて、定義自体が曖昧という問題もあります。
3.ワーケーションの定義
そこで、改めて、ワーケーションの定義をみてみましょう。
山梨大学の田中敦教授と法政大学の石山恒貴教授は、ワーケーションの定義を次のように設定しています。まず、対象をフリーランスや雇用者に限定しないことを前提にした、広義の解釈として「個人が主体的に価値を認めて選択する、日常的な仕事(ワーク)に非日常的な余暇(バケーション)の感覚を埋め込んだ、柔軟な休暇経験と働き方」と設定しています。
次に、雇用者に限定した狭義の解釈として「従業員が本人の意思において雇用主の承認のもとに、通常指定された勤務先や自宅以外の場所でテレワーク等を活用して仕事と休暇を平行して行うこと」と設定しています。(引用:田中敦・石山恒貴(2020)「日本型ワーケーションの効果と課題(前・後編)『TRAVEL JOURNAL』)
広義、狭義ともに仕事と休暇を組み合わせた、本人が主体的に選択する働くスタイルと解釈できますね。
4.地域にとっては大きなチャンスに
このように、ポストコロナによって、必ずしも都会のオフィスで働くことが、働き方の全てではないことが社会に浸透したことで、仕事をする場の選択が一気に多様化しました。この契機は、地域にとっては大きな機会にもなりえます。しかし、既に和歌山県や長野県など、ワーケーションの取り組みを先行している地域もあるので、後発組は、いかに差別化していくかが問われるでしょう。そのためには、導入を促進するための地域側の積極的なアプローチ求められます。ワーケーションの導入を計画している企業の人事部や個人に対する相談窓口の設置やモニター視察の定期的な開催はもとより、実際にワーケーションを実施した場合に、どれほど業務のパフォーマンスが向上したかといった効果測定の実施などの調査活動の実施も必要でしょう。
また、ポストコロナで、新たなイノベーションが期待される大手旅行事業者との積極的なタイアップの模索も考えられます。あえて、「積極的」と申しましたが、インバウンドをはじめ、従来の団体ツアーの送客を受動的に「待つ」時代は、終わりを告げると考えています。今後は大手旅行会社との主従の関係を解消し、一緒に新たな顧客にとっての価値を、顧客に提案するようなスタンスが期待されるでしょう。