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保育園の憂鬱

最近、保育園での園児の置き去り、保育士による園児への考えられないような虐待といった事件がマスコミでいくつか取り上げられています。保育園運営のお手伝いをしている小職からすると、なぜこんなことが起こるのかと思ってしまう事件です。ただ、保育園自体の保育士比率の枠組み、人手不足、経営者の方針、内側を向いた組織体制といったものが複雑に絡み合った制度運用の自体の問題が背景にあるようにも思います。たまたま、園の会報に最近書いた文章(原文を一部修正)をいかに紹介いたします。

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園児置き去り事件について思う
 静岡県牧之原市の認定こども園で送迎バスの中に園児が置き去りとなり、死亡するという痛ましい事件が発生しました。亡くなられた園児のご冥福をお祈りするとともに、残されたご家族に心からの哀悼の意を表したいと思います。
 当園には送迎バスはなく、起こった事件のようなリスクを心配する必要はありません。とはいっても、お預かりしている園児は自分で身の危険のリスクを訴えることができない年齢で、かつ、当園は園の方針もあり、慢性疾患児の方もお預かりしており、一般的な保育園とは違ったリスクも持っています。したがって、園の運営に携わる大人がそのリスクを先読みして対応していく必要があります。私自身は非常勤かつ保育にはかかわらず、月に数日、園長はじめ保育に携わる方々のご苦労を横目で見ているだけなので、具体的にどんなところにリスクが潜んでいるのか、よくわかりません。ただ、園の設備の仕様や、各種のリスク回避のマニュアル、日常の業務の中に織り込まれた防災や不審者の侵入等いろいろな訓練や保健や食物アレルギーなどの研修会を実施されているのを拝見すると、園児の安全に様々気を使っていることはよくわかります。
 そして、園児の安全の確保で何よりも大事なのは、園児と保育に携わる方の数のバランスと、現状の体制で提供できる保育のレベルを上げながら、いかに目を行き届かせることかなと感じています。厚生労働省の指針では、当園がお預かりしている1~2歳児は保育士1名に対し園児6名が上限となっていて、プラスで1名のバッファーの人員が必要なので、12名の定員であれば、1名の保育士が最大4名の園児を見ることになります。もちろん人数がいても園児をしっかり見ているかは別な問題ですが、当園ではそれを2~3名で見ている形なので、数のバランスは園児に目が届く多い形になっています。さらに保育のレベルを上げて、充分に目を行き届かせることが重要なのではないかと思います。
 保育園の収入はというと、保護者の方からいただける保育料は上限があって、足らない部分は、行政からの補助金で賄われる形になっています。行政からの補助金のベースは、実際に保育を行った園児の延べ人数に応じて算出されものに、職員の雇用維持や通常の保育に加えたサービス提供、保育サービスの質の向上等の加算が加えられます。いずれにしても、保育は人が提供するサービス業なので、厚生労働省が決めた指針に沿って職員をどう雇用するかが、経営的には大きな問題となります。
 人手不足で、保育園職員処遇改善が国の施策として脚光を浴びる状況下で、職員の数を増やすことは容易ではなく、逆に人件費のコントロールは経営的には利益を生む面もあるので、園の経営次第では70歳を超えた理事長兼園長が、同じく70歳を超えた派遣職員と二人で送迎を行う事態が発生するのは、必然だったと思います。そこに慣れや決められた手順の無視などが起こってくると、痛ましい事故に直結するのだなと強く感じました。
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 ここでは、園児虐待の問題には触れていませんが、経営者が現場の苦労を踏まえず、金儲けに走ったり、人手不足を理由に、人手を増やすことができずにいると、従業者に無理なシフト勤務を強いることになり、当然従業者のストレスは、聞き分けることができない園児に向く可能性は否定できません。置き去り事件と虐待事件とも、マスコミ報道の内容しかわかりませんので、事件が発生した要因を決めつけることはできませんが、冒頭に述べた通り、保育園自体の保育士比率の枠組み、人手不足、経営者の方針、内側を向いた組織体制といったものが複雑に絡み合った制度運用の自体の問題が共通した要因として背景にあるようにも思います。そして、要因を突き詰めて、要因が推定できたからと言って、事件を起こしてしまった経営者や虐待をしてしまった保育士さんを擁護できるものではありません。ただ、保育園の運営に係るものとして立て続けに憂鬱な事件が起こってしまったなと思いますし、関わっている保育園で同様なことが起こらないように、注意をしていくしかないかなと思っています。

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