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「今日のために明日がある」と思える組織開発

いつの世も、マネジャーの苦悩は、メンバーが思い通りに動かない(結果を出さない)ことにあるのではないでしょうか。この苦悩の発端は、「組織メンバーは、既に在る」という視点に立てないことにあるように思えます。つまり、デザインすべきは組織であるはずなのに、いつの間にか人(メンバー)をデザインしようとしているがために、苦悩が生じているように思えるのです。

多くの場合、個々のメンバーを「こう在るべき」と意味付けしてしまっているのではないでしょうか。しかし、いくらマネジャーが意味づけをしても、メンバーが、今、そう在るとは限りません。そこで、そう在るように仕向けたり、時にはそう在るように育てたりするわけですが、これには時間がかかります(結果・成果の出ない時期が続きます)。そして大抵の場合、思うように育っていかない(結果・成果が出ない)のが現状なのではないでしょうか。

そこで、例えるなら、「このメンバーで戦え」と命令されるプロスポーツの監督のような立場にあるのがマネジャーだと理解する必要があるように思えます。かつて野村克也氏は「王・長嶋がいれば、どんな監督だって優勝できる」と言っていましたが、同じ考えではないでしょうか。つまり、「既に組織メンバーは在る(王・長嶋ではない選手がいる)」ことにビジネス(組織運営)の起点を見出すこと、「スタートラインにも立てていない」のではなく既にスタートラインに立っていると認めることが、むしろマネジャーを苦悩から解き放つことに繋がるのだと思うのです。

さて、個々のメンバーはバラバラに存在しています。そこで、そのような個々のメンバーが、それぞれどのように「今、在るのか」を把握することが、具体的な第1歩となるでしょう。そのためには、彼らのキャリアを知っておくことが重要となるでしょう。ここでキャリアとは、過去の事実だけではありません。彼ら1人ひとりが、将来をどのように描いているのか、あるいは仕事をどのように進めていきたいと考えているのかと言った指向性を含むものとすることが重要です。

この際、一般に“強み”を発揮させるようなマネジメントが是とされますが、この“強み”を他者評価に頼っているケースが多いように見受けられます。しかし、それだけでは、十分な活躍は期待できません。打席にも立ちたいのに「君はピッチャーの方が向いている」と言って打撃の機会を与えなければ、大谷翔平選手の今はなかったでしょう。福士佳代子選手も、マラソンへの挑戦が認められたからこそ、1万メートルでオリンピックに出場できたのだとも思えます。本人の「やりたい」という想いこそが、最も重視される必要があるのではないでしょうか。

ただし、このようなメンバーの在り方に対する認識は、状況適応的であることを含め、可変的なものとする必要があります。なぜなら、人は成長に伴って変化するからです。大谷選手も、将来は投手か打者の一方に専念することになるかもしれません。そして”その時”は、いつ訪れるかわかりません。つまり「今は、こうだ」という“仮置き”に基づいて組織を運営するという視点もまた、必要だと思います。価値観という流行言葉では、あたかもそれが普遍であるかのように捉えられがちですが、決して普遍的な価値観というものは存在しないでしょう。むしろ、普遍であるという思い込みが、メンバーを決めつけたり、レッテルを貼ったりといった行為を生んでいるように思えます。

そしてこの“仮置き”にあっては、複雑さを避けた安易な単純化(やりたいのか、やりたくないのか)に陥ることを避けなければなりません。複雑さの相対化は、分断(やる気の喪失)しか生まないと思うのです。虹は7色ではなくグラデーションです。実際、国よって虹を構成する色の認識は異なっています。今、在るメンバーは偶然であり、そこに必然的な意味を無理やり見出そうとするのではなく、たゆたうグラデーションの中で、緩やかな方向性を指し示すことが、マネジャーの役割であるように思えます。

動物には、昨日も明日もなく、ただ、今だけがあり、人間には、昨日も明日もある。ただし、昨日は今日を形成するために存在し、明日も今日を形成するために存在するという見方が重要だと考えます。マネジャーが指し示す方向性とはこのようなものであって、これは経営学で言うところの”ビジョン”とも重なるように思えます。だから、「明日のために今日がある」という意味合いで”方向性”を捉えている限りは、いつまで経っても苦悩からは逃れられないのだと思います。

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