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メンターがメントールになる組織開発

ロールモデルに託すもの

自分の将来をイメージしたいとき、自分の近くにロールモデルが存在することは頼りになるでしょう。ロールモデルは、自分の志向とニアリーイコールであってイコールではないながらも、自分のことを理解してもらえるような気がするからです。
しかし、ロールモデルとなる者が、自身をロールモデルとして認識すると、ロールモデルは必ずしも頼りになるわけではないように見受けられます。それはロールモデルに、自身が相手の望む姿のニアリーイコールであってイコールではないことへの気配りが欠けるきらいがあるからです。つまりロールモデルは、自分語りに終始する傾向があり、相手の話を聴く姿勢を見せないことが多いように見受けられます。だから、将来に悩んでいる人は、たった一人のロールモデルを頼るというよりは、複数のロールモデルから話を聞こうとするのでしょう。

メンターの資質

このように、ロールモデルの話を聞くことは、有効な側面があると考えられます。しかし、メンターとしてみた場合、ロールモデルは不適格でしょう。ましてや、複数のロールモデルから話を聞くからと言って、メンターもそれに合わせてコロコロ代わるようでは、そもそものメンター機能は果たせないでしょう。
そもそもメンターは、共事者(当事者ではないが、当事者と同じ視点で行動を起こす者)として、その視点は備わっていても、行動そのものには関与しない者です。だからメンターは、震えるような痛々しいほどの柔らかさ(心の産毛)を相手から感じていける者、換言すれば、何も断定せず、ただ、相手に寄り添うだけの存在であることが求められるのだと思います。
このことから、寄り添う技術があると想定される国家資格取得者(キャリアコンサルタント)をメンターに据えることがあるのでしょう。ただし、国家資格取得者はとかく“金太郎飴”的な対応(型にはまった面談)に陥りがちなので、スキルの見極めは重要です。ましてや外部のカウンセラーを活用する場合は、それが意図的なかかわり行動(雇い主の意向に沿った対応)にならないような(「離職者が増えているので…」などの話をしないと言った)配慮が必要でしょう。

メンターを制度化する意味

さて、このようなメンターが寄り添った結果、すなわち「自身の将来像」は、どのようにイメージされるのでしょうか。多くの場合、「今、何をすべきか」が明確になることと置いているように見受けられます。そして、具体的に獲得すべきスキルを明示することが、それに繋がると考えられているように思われます。
しかし、このとき示されるスキルが、組織内で必要とされるスキルに限定されれば、それは働き方の指定(固定)に繋がるでしょう。つまりメンター制度が、組織が自らのニーズに合わせた最適な人事管理システムを実行するための施策、あるいはメンバーの繋ぎ止めを経営成果に繋げる施策になることでしょう。これは、マーケティングにおける顧客囲い込み戦略を、「組織メンバーのファン化」として行っているとも言えそうです。そしてこのような制度は、「一体感の醸成」という人事教育施策の中で進められているように見受けられます。
一方で、個人のキャリアが組織ニーズに組み込まれないようにしようとする動きも、キャリア・オーナーシップなどとして行われています。しかし、この”寄り添う存在”を、組織内から求めることは難しいでしょう。ましてや、組織がキャリア・オーナーシップを推奨していくことは、組織ニーズとの合致点を見出すことが難しいことから、現実的ではないように思えます。実際、キャリア・オーナーシップが浸透している欧米で、コーチなど呼ばれている者の雇用主は、組織ではなく個人であることが一般的です。

目の前の人材を組織メンバーにするメンター

ただしメンターが、ホメロスの叙事詩『オデッセア』に登場するメントールを語源とするならどうでしょうか。メンティ(自身の将来に悩んでいる者)に組織貢献意欲があり、それこそが自身のキャリアであるという強い想いがあれば、メンター制度は自然と組織ニーズに合致し、またメンターを組織内人材から採用することの合理性も生まれてくると思われます。
現在の組織は、求める人材を明らかにし、そうなる教育機会を用意することになっています。求める人材を明らかにするとは、換言すれば、不要になった人材は切り捨てるということです。これは、ジョブ型雇用と呼ばれます。一方で、求める人材となるように教育機会を用意するとは、終身雇用を前提とし、メンバーが常に有用な人材で在り続けられるようにするということです。これは、メンバーシップ型雇用と呼ばれます。換言すれば、組織ニーズとは関係なく、自身の在りたい姿を追及するのがジョブ型雇用であり、組織ニーズに合わせてメンバーのモチベーションをコントロールしようとするのがメンバーシップ型雇用ということです。
このことから、「求める人材を明らかにし、そうなる教育機会を用意する」とは、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の双方を併せ持つことを意味しているのではないでしょうか。そうであるなら「求める人材」とは、「組織貢献意欲があり、それこそが自身のキャリアであるという強い想いがある人材」となるように思われます。
このように考えたとき、メンターの役割とは何になるのでしょうか。ガンダムSEEDの「人は必要から生まれるのではなく、愛から生まれる」というセリフになぞらえれば、必要から人が生まれるのはジョブ型雇用となります。そしてメンバーシップ型雇用では、人は愛から生まれることになります。つまり、「そこに愛はあるんか?」と女将さんに問われているのが、今のメンターであるように思います。

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