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HEii press vol.08 「道具と山」

2020 Spring

 8年目の遠野オフキャンパスは、重要文化財千葉家住宅の立地する上綾織を中心に展開しました。現在修復・復原工事中の千葉家住宅を含む周辺地域の未来を考えながら活動する「千葉家プロジェクト」と連動して、建物や植生、環境、道具などをリサーチしながら、暮らしや生業などが織りなしてきた土地固有の風景の成り立ちを探っています。
vol.8 目次
「立ち寄り観光地」から「滞在型観光地」へ 千葉家プロジェクトのこと
「山」の話   山さ行くときはナタ持って
上綾織から発信する新日本民族学
私たちは都市の創造性をどのように育むことができるか?
オフキャンパス はじまりの場所「三田屋オフキャンパス」の足跡と未来

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暮らしと結びついた「山」

 今号のテーマは、「道具と山」です。9月に開催したオフキャンパスでは、一棟のマンサード小屋に向き合いました。
 作業は、まず建物の実測や聞き取り調査とともに、大量に収納されているモノの整理と廃棄から始めました。大きな目標は、このマンサード小屋を将来「千葉家プロジェクト」で活用することですが、単に片付けるだけでなく、そこにあるものを詳しく見ることで、さまざまな発見を得ました。
 はじめはどう手を付けてよいかわからず途方にくれましたが、目が慣れてくると徐々に、全国に流通する「大量生産された農業資材」と、この土地で採れた材料や一斗缶などのリユース材料を組み合わせて作られた「手作りの道具」に大きく分けられることに気づきます。 

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 所有する土地(田畑や山林)に手を入れるための道具を、その土地にあるものから作り出していくこと。当たり前のようにも思えますが、私たちはそのことにとても新鮮な驚きを覚えました。道具や材料はホームセンターで買うものではなく、自ら生み出すもの。田畑や山は素材の宝庫。そこに私たちは、遠野オフキャンパスでわざわざ自分たちの手で調査や施工をすることで取り戻そうとしている「モノができていく喜び」、「自分でできることへの誇り」、「技術の継承を含んだ学び」、「自分たちの環境を、自分たちでコミットし、コントロールできるという実感」につながる源流を見たように感じました。 

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 11月に行ったオフキャンパスでは、地域の方とともに集落の背後にあるのフィールドワークを行いました。一見、昔からある風景のような林が、実は戦後に植林された跡であり、かつて畑が広がっていたことや、長い年月に渡って馬が木を曳いた結果深い谷になっている地駄曳きの道、集落の馬を埋葬した場所など、集落と背後の山々が深くつながりながら生活が営まれていた痕跡を見ることができました。
 暮らしや生業を成立させてきた土地との強い結びつきが、道具からも山の痕跡からもさまざまに読み取ることができ、その積み重ねの中に土地固有の文化が育まれ、風景に昇華していることが見えてきました。今後もますます解像度を上げながらリサーチを続けていきたいと考えています。    (文・安宅研太郎)

2019年度「遠野オフキャンパス」の取り組み

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HEii pressについて
 HEii pressは、新しいまちづくりの情報を伝えるフリーペーパーです。「HEii」とは、かつての遠野から沿岸部までを含んだ地域をさす「閉伊(へい)」と「平易(へいい)」を合わせた造語。「内陸から沿岸部までを含めた広い視野に立って、当たり前のことを大切にする」そんな地域づくりを目指して発行しています。
                編集:松井 真平 尾内 志帆
                記録:松井 真平
                ディレクション/デザイン:安宅研太郎


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