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舞台芸術と福祉の接点

こんにちは。
新型コロナの影響で、自粛を余儀なくされている演劇関係者の悲鳴があちこちからもれきこえています。この惨事がどのような状況か、なかなか社会に伝わりづらいようで、けっこう辛辣な意見も多いのですが、現状、日本で芸術活動を成立させる背景が、企業的な生活からは想像もつかないということでしょうね。そしてこれは、障害のある人の生活の制約を、平均的にできる人々に想像してもらうのが難しいこととそっくりに思えます。
アートも福祉も、接点の少ない人にはその背景がまったく理解できない。構造的に分断されてしまっているあたりが、共通しています。

おどるなつこは、タップダンサーとしてのパフォーマンス活動と、演劇や舞台作品の振付を生業としておりますが、平行して“アート×福祉”の非営利活動団体「あしおとでつながろう!プロジェクト」の代表として、障害のあるメンバーとともにタップによるコミュニケーションの輪を町に広げています。
2018年度より挑戦してきたのが、福祉施設のタップメンバーをタップの案内人に育て、周りの人々のまなざしをも育てていく「育て!メッセンジャー事業」です。まず、障害のあるメンバー(=メッセンジャー)がイベントの案内役としての仕事を担えるように育つために必要なことはなんだろうか?
今日は、事業を進める過程で私が大切にしてきたことを書きます。

プロを育てる

まず、舞台芸術の担い手になるために必要なのは本番経験です。
本番は最後の結果ではなく、そこがやっと初めの一歩なのです。もし、閉じたコミュニティの中だけで長期間お稽古していたら、おそらく趣味の集団にしかなれません。お客様の厳しい目のある本番を体験することが初期に必要で、この経験があることで、稽古で言われていたことがなぜ必要か理解でき、本番モードのマナーを身につけて成長できるのです。
これまで多くの表現芸術の愛好家たちと共演してきた経験から、私はメッセンジャーに関してもこの順序で進める必要があると考えていました。舞台芸術のプロを目指すのではなく、メッセンジャーとしてのプロに必要なことは?

福祉施設のタップメンバーは、この数年毎年、自分の所属施設のお祭りで出演を重ねています。それは安心して挑戦できる場ですが、外に出ることできっともっと成長する。そこでメッセンジャーが本番経験を踏める機会を探しながら計画を進めていき、各メッセンジャーの初舞台として、民間学童・福祉施設・プレーパークのイベントを組むことができました。

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場の行動基準

上記の場を選んだことには理由があります。

民間学童:カリキュラムを押し付けず、子どもの遊び、自主自律を見守る
福祉施設(精神):不登校の子どもも通うアートスペースで、自発的な場
プレーパーク:子どもがやりたいことをしてみる場、危ない遊びも見守る

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どこのキーワードも自発性、いずれも、運営者の顔色を見ずに利用者がやりたいことを探し、挑戦できる場所です。特に、子どもが大人の抑制のない場でメッセンジャーたちの表現ににどう反応するか、私がまず確かめたかったし、子どもたちの素直な反応が、きっとメッセンジャーを成長させると感じていました。

結果としては狙い通りでした。まずメッセンジャー自身がその場を存分に楽しみ、新たな面を見せていましたし、イベント主催者も喜んでくださいました。
どこのお祭りでも、子どもたちは興味の赴くままに、タップダンスに触れ、メッセンジャーに興味を持ち、しばらく観察したのちにやりたい気持ちに火がついて踊り、踊り終わればなんとなく一緒にダラダラしました。その空間には、障害の有無という境界線はありません。漂っているのは、ともに自分を出し合ったという一体感。シャイな子どもでも「自分にでもできる!やってみよう!」と輪のセンターに出て踊ることができるのは、自分のタイミングをじゅうぶん待つことのできる、メッセンジャーの存在感によるものも大きいのです。

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良識的な差別

しかし、外へ出ていく最初というのは、ギャップを感じることも多いものです。
「障害者も一緒に楽しむ地域イベント」という表記など、違和感を感じる対応にも出会うこともありました。
  ”障害者もいる” それだけでその場に正当性があるような...
  ”障害者を受け入れた” 一見良さそうな姿勢だが対等な存在ではない
これはいまのところ、良かれと思って行われている大人の無意識の態度です。
”女がいる” ”黒人がいる” など置き換えてみるとわかりやすいでしょうか。タップダンスは、奴隷として異国へ連れてこられたアフリカンアメリカンの日々の暮らしから紡がれた文化です。差別というのはある時代では良識的とされている社会通念だったりするのです。
子どもがこの習慣を身につけてしまう前の段階に、多様な人と共に楽しむ体験を広げる必要があると強く感じました。

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そんな思いから活動していたので、活動の半ばで、小学校へおつなぎいただけたことはとてもありがたい機会でした。その時のセッションの一部がありますので、よかったらご覧ください。
限定公開 小学生とメッセンジャーのセッション

こうして2018年度のメッセンジャー派遣現場は、当初の予定をこえて広がり、メッセンジャー派遣は13現場、のべ35名のメッセンジャーを3つの福祉施設から派遣することができ、イベントへの参加者総数は1400名あまりとなりました。クラウドファンディングで資金も募り、最後にメッセンジャーとともに御礼イベントを開催。以下の映像に短くまとめあります。

活動費もないなか、現場の数は多く、どの現場も一期一会の勝負で、この年は実はとってもきつかったです(笑)。しかし、それを超える素晴らしい瞬間がたくさんありました。改めて振り返ってみると、メッセンジャーとともに改めて下積み時代を送ることで真の仲間になれた、貴重な1年間だったように思います。

13現場実施の詳細な報告書

以下有料枠に、事業準備から13現場実施の詳細な報告書を添付いたします。学校や地域イベントなどへ、どのように障害のあるタップメンバーが出演し、どのような反応が起こったか、よかったら参考になさってください。

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