春の旅立ちに寄せて
その一
いつもと 変わることなく
しずかな朝が おとずれる
しかし――朝日に照らされるのは
眠ったような君の骸だった!
考えもしなかった 突然の別れに
ぼくは 何をいえるだろうか?
昨夜の君の微睡を 思い浮かべ
ひっそりと 涕を流すことしかできない……
澄み渡った春の空には 暗い
雨雲が ゆっくりと広がる
まるで ぼくのこころを代弁するように
しかし 優しい陽の光が
暗雲のすき間から とどけられる
まるで ぼくの背中を後押しするように!
その二
不意に やってきた死を
うけとめることも叶わない
切れてしまった たおやかな弦は
こころに 狂った旋律をひびかせる
硬く 冷たくなった君の亡き骸は
今にも 起きあがる気さえする
そして――かえることのない
日常が つづくことを想う
春のにおいが つつむ道を
君は 旅立っていくのだろう
ふたたび 大地へとかえるために!
酒をのみながら 言葉のない
追憶の ささやきをかわそう
甘く 切ない調子で……
二〇二二年四月二三日 亡きルナに捧ぐ
一言コメント
説明は不要かもしれませんが、愛猫ルナの火葬に際して捧げたソネット組詩です。詳細は以下の「徒然なる想い その十三〜二度目の家族の死を迎えて〜」に綴っておりますので、是非ご覧ください。この時は大学の友人はもとより、note で積極的に交流してくださる駆け抜ける空さまに優しい言葉をかけていただき、本当に救われた気分でした。論文の謝辞ではありませんが、この場を借りて感謝の言葉を申し上げます。
さて、本ソネットはその一が現実的な風景と心象風景を一致させる形式になっていますが、その二では心象風景を全面に押し出す形式になっています。その一は”いつもと変わることのない朝”に迎えた”突然の別れ”にどう向き合えば良いのかが全く分からない状態であるものの、”優しい陽の光”にまるでルナの望みを感じているような内容になっています。自然の風景と心象風景が、丁度一致するといった具合です。また、その二では”不意にやってきた死”をやはり受け止められず、心に不協和が生じている様子を詠うと同時に、自然へと”かえる”ルナへの餞別を酒と詩にこめる(漢詩では酒と詩の餞別がよくありますね)内容になっています。ここでは現実的な風景が何もなく、現実と心が入り混じったような状態になっていることから、心の中でルナに対して語りかけるような具合になっています。つまり、二組のソネットは、外(現実の自然)と内(心)の両方に向かう構成になっていると言えます。
ルナが亡くなってから、そろそろ七週間を迎えようとしています。時間が経つのは早いなと思う反面、ルナを火葬した日の雨がまるで昨日のことのように思い出されます。未だに完全に心の整理ができているわけでもありませんが、ルナが遺していったものは死別による悲しみだけではありません。ともに過ごす時間の中で育まれてきた暖かい記憶もまたあります。普段は何となく見過ごしてしまいがちなものこそが、心の救いになるということでしょう。
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