ひそひそ昔話-その12 『黒い雨』の時代と、現代と-
教室のうしろに飾られる,、読書ポップづくりの仕上げ作業をしていると、隣の班を見終わった副担任の先生が近づいてきた。机の上に置かれた私の文庫本を手に取り、その表紙や裏表紙の内容紹介をじっくり眺めた後、彼は口を開いた。寡黙なリクガメを思わせる口の開き方だった。
「井伏鱒二、黒い雨。私も読みました」
そして机の上に本を置き、「素晴らしいですが、本当につらいお話です」とだけ言い、別の班へと移動していった。
姑息で、卑怯で、周囲の評価を気にしいな性格だった高校1年生の私は、読書を促すた