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アウェーで40戦、タイ、カンボジアで連戦のムエタイファイター中村慎之介選手

サワディーカップ

今回はコロナ禍のタイの格闘技興行を取り巻く状況と、その中で頑張る日本人ファイターを紹介します。(2021年9月17日、rscproducts公式ウェブサイト掲載)

タイの格闘技(主にムエタイ)興行ですが、2020年3月にルンピニースタジアムのムエタイ興行で起きた観客へのクラスター感染が、タイ国内で大きな問題となり、これまでのように集客して、ムエタイ・格闘技興行を催すことが難しくなりました。

タイ政府からは、なかなか再開許可は出ないままですが、ひと時コロナが落ち着いた2020年後半では、無観客のテレビファイトを中心に興行が再開されていました。

今年に入ってデルタ株が猛威を振るい出すと、興行は完全に中止とされ、そのまま半年が過ぎました。多くのボクサー、格闘家が試合に出ることも叶わず、ブランクを作り、また練習を行うジムにもタイ政府から休業命令が出ている現状です。そんな状況下のタイで、日本人ながら腰を据えて、ムエタイの現役選手として活動しているのが、今回紹介する中村慎之介選手です。

中村選手は4年前(2017年)に日本からタイに拠点を移して、主にライト級を主戦場としてリングに上がり続けていましたが、
昨年12月の試合から、コロナ禍の影響で長くブランクをつくってしまいました。

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ファイトマネーを糧として生活していた彼は、現在、普段自身が練習しているムエタイジム(JITTI GYM)のトレーナーも兼業し、この状況を乗り切っています。

そして、今年9月に入り、ようやくタイ政府のコロナ感染対策の規制が少し緩和されることになり、中村選手にとって、10か月ぶりとなる試合が10月2日に行われることになっています。

ようやくリングに上がれる、と待ちきれない様子の中村選手は、これまでタイを中心に46戦のキャリアを積み上げ、
30勝14敗2分という立派な戦績を残しています。

日本では7戦の経験後、渡タイした中村選手は、コロナ禍までは月1回ほどのペースで、バンコクやタイの地方、カンボジアのリングに上がっていました。遠征で中国やマレーシアに行くこともあったようです。

私がたまたま中村選手の試合を観たのは、2年ほど前のバンコクでのMX MUAY XTREMEというテレビシリーズの興行でした。通常のボクシンググローブではなく、MMA用の薄いグローブを着用した、近年広まっているスタイルのムエタイです。

日の丸の鉢巻きを締めてリングインし、静かな佇まいで、観客に日本人が誰もいない完全アウェーの中で黙々と戦う姿に心を惹かれました。

バンコク・ラチャダーピセークにあるザ・バザールという商業施設・ホテル内に設置された常設リングでのMXシリーズの興行は、以前週1回と頻繁に行われており、中村選手はこれまでに13回もこのMXのリングに上がったとのことですが、このMXシリーズは現在は休止しています。

テレビ局が主体となり、ショーアップされたリングで薄いMMAグローブで撃ち合うムエタイは、近年盛んに行われていました。MXシリーズの他にもMUAY HARDCORE というシリーズも人気を集めていました。

中村選手によると、薄いグローブで殴られると、ボクシンググローブで打たれた時のように「効く」のではなく、ただ「痛い」そうで、
強烈に痛いけど、その痛みに耐えきれば突破口が見えるとのことです。

ただ、顔面への裂傷も激しく、中村選手はこれまでに顔面を60針ほど縫ったそうです。MXシリーズ以外にも試合が次々と決まり、傷がくっつかず、糸が入っている状態でリングに上がったことも何度もあるそうです。

そんなハードな環境に身を置いている彼ですが、常にアウェーと言えるリングで試合を続けていくことが、モチベーションのひとつとなっているようです。タイに来て、選手生活を送る日本人選手、外国人選手もいることはいますが、長くは続く人は少ないようです。

日本人を含む外国人にとっては、判定も公平でないアウェーの環境で試合を続けること、泥の中でもがいているような、高温多湿の環境下での練習と、心を折られるようなことも多いようです。

中村選手は飛行機やバス、船を乗り継いで遠征試合に一人で向かい、セコンドは現地調達、極端な例としては、試合会場のスタッフ(素人)に、協力してもらってセコンドを担当してもらったこともあるそうです。

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彼は元々は長野県松本市出身で、高校時代にK1などのキックボクシングの試合のテレビ放送を見て、”キックボクシング(ムエタイ)、これしかない” と、進路を決めたそうです。

高校卒業後は、川崎市のINSPIRED MORTION KICK BOXING STUDIOに所属し、選手生活を始めました。INSPIRED MORTION ジムの繋がりで、何度か短期でタイにムエタイ合宿に来るうちに、タイに馴染み、こちらでの選手活動を決断するに至りました。

中村選手本人は「25歳の時に自分のすべてを掛けてタイに来ました。海を越えてこちらに来て、厳しい環境下で戦い続けているという自信があります。」と言います。

これまでに彼自身が強く印象に残っているのは、特にカンボジアでの試合のようで、何試合か現地で行っている試合の中のひとつは、
カンボジアの有名選手で、現地のチャンピオンである、ソウン・チャンニー選手が相手でした。

カンボジアではムエタイがクンクメールという格闘技として人気があり、まるで、20年、30年前のタイのムエタイ興行のような盛り上がりを見せているそうです。ソウン・チャンニー選手との試合は、現地の人気選手を打ちのめした結果になりましたが、1ラウンドから大熱戦を演じた為、中村選手はカンボジア人の観客から大歓声を浴びました。

今までプノンペンのCNCスタジオのテレビマッチでは4戦して、3勝3KOという戦績も収めています。(ソウン・チャンニー戦はYOUTUBEでも見ることができます。他のMX MUAY XTREMEなどの中村選手の試合動画もYOUTUBEで見ることができます。)

目の前に差し迫った10月2日の試合についてですが、試合会場はルンピニースタジアムのはずが、屋内のスタジアムは使用許可が下りず、スタジアムの外の駐車場特設リングで、更に無観客という中で行われることになりました。

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今後の活動については「選手生活を続けて、いい試合をしていれば、大きなイベントなどからも声はかかります。まず、10月2日の試合に勝って、今、主戦場にしているMUAI THAI SUPER CHAMP(コロナ禍前は毎週のように開催されていたテレビシリーズ興行)で、チャンピオンクラスと戦いたいです。そして日本のリングにも、タイで活動するファイターとして、外国からの招聘選手として上がってみたいです」と話しています。

中村選手は、普段はバンコク・ラチャダーピセークのJITTI GYMで、途中、自身の練習時間も取りながら、一日中トレーナーとして過ごしています。
コロナ禍が落ち着いて、渡タイできるようになりましたら、ムエタイやボクシングの練習に行ってみて下さい。

ジムにいる中村選手の師匠であるサムトレーナーは、ボクシングのミットにも慣れており、日本から修行に来たボクシングの湯場海樹選手のミットも持っていたそうです。

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カンボジア・クンクメールでのソウン・チャンニー戦

MX MUAY XTREMEでのペットスリン戦


Photo credit
© มวยมัน Muay Thai

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