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あなふさぎのジグモンタ

小学校低学年の夏休みの #課題図書 として、4冊の中から我が子が選んだ「あなふさぎのジグモンタ」が届いた。パラパラめくると5分あれば読了できる絵本だった。

ひさかたチャイルド「あなふさぎのジグモンタ」
https://www.hisakata.co.jp/book/detail.asp?b=049215

以下は素直な読書感想文というよりかは、読書感想文の想い出やら、私の着眼点やら。

うだつのあがらない服の修理屋さんの話

おおまかなあらすじは出版社から引用する。

ジグモのジグモンタは、「あなふさぎや」をしています。洋服に開いてしまった穴をふさぐ仕事です。でも、この頃はみんなせっかちで、すぐに新しいものを欲しがります。「穴ふさぎなんて、もう役に立たないんだ」。気落ちしたジグモンタは、気晴らしに森に出かけますが…。好きなことと真摯に向き合う誠実さが、ジグモンタを新たな世界へ導きます。服のお直しという作業を通じて、一つのものを大切に使い続ける意味とともに、物作りの喜びまでもが伝わってくるお話。

文字より絵の比率が高く、クレヨンや水彩の柔らかいテクスチャー感と、境界がパキッとした切り絵の組み合わせによる、外カリ中フワな優しい世界観が楽しめる。最近では出版社が動画を出している。

意図された感想と素直な感想

私が検閲よろしく子供の本を読むのも「どうしてこの本が課題図書に挙げられたんだろう?」が気になるからである。ぱっと読んだ感じ、この本を通して「どんなに新しいモノが溢れても、古いモノを大切にするのは大切だよ」と言う教訓を得て欲しいんだろうなと勘繰る。

親だからではなく、子供のころからそういう読み方をしていた。作者の気持ちという名のもと、ひたすら出題者の意図を読ませる訓練を繰り返すのだから、教育の成果としては当然だろう。

文章を書くのは苦でないのに、読書感想文は妙に苦手で、「そもそも読書感想文とは何か?」というメタな方向に考えが向かってしまう。みんなが同じ本を読んで似たような感想を抱くならば、私が感想文を書く意味は無いんじゃないか。自分だけの着眼点を見出さねばならないんじゃないか。

...そう思いながら書く時点で素直な感想文ではない。それに、新進気鋭の感性で読書感想文を書く人がいたら、おそらく的外れと評価されるだろう。今になって思うのは、感想そのものはありのまま素直でよく、個人的な経験との関連や、教訓として活かす部分が自分らしければ良かったんだろう。

あれこれ考え廻らせる前の純粋な感想に立ち戻ると、うだつのあがらない斜陽産業から、意外なニーズに気付いて起死回生の活路を見出す起業家としてのサクセスストーリーが「うおおおお!」となるポイントだった。

意味のイノベーションの事例

純粋な感想と言いつつクリエイティブなお話として捉えれば、この絵本は意味のイノベーションの事例である。ベルガンディ先生の「突破するデザイン」で挙げられる代表事例は、照明としては斜陽産業なロウソクが、リラックスやムード演出の商品として意味を捉えなおすことで、再びヒット商品へと返り咲いた話だった。

絵本に戻って、先祖代々伝わる職業「穴ふさぎ」は、洋服にあいた穴の跡が分からないように塞ぐ価値を提供してきた。新品が手に入りやすい世の中になると、修理で元通りにするのは市場ニーズに合わなくなった。穴が無くなったところで使用感の残る服と比べれば、新品の方が魅力的なのだ。

気晴らしに出かけた先で、偶然フクロウの布団を応急処置して喜ばれ、完璧な元通りではなく跡が残るからこそ愛着が湧くことに気付いた。そんな新しい消費行動に着目して、「穴ふさぎ」の意味をリフレームさせ、姉達が使った跡を残しながらも元より素敵に花嫁のベールをリメイクすることで喜ばれる。まさに、意味のイノベーションだ。

何も新しい発想ではなく、陶磁器が割れた跡をデザインとして活かす金継ぎのような価値観は元々から日本にあるのだ。

事実は絵本より奇なり

ふとご近所に目を向けると、作中にもあったドレスリメイクを生業としてやられている方がそこそこ近所におられる。そんなタケチさんは、スキを追及して求められた仕事をやっていたら、いつしかドレスリメイクに辿り着いたという話だった。

事実は絵本より奇ながら、必要とされることの中にニーズが埋まっているという点、感謝されることの中にもやりがいがある点は、絵本との共通点を感じる。物語から人生を学べるならば、人の人生から人生を学ぶのも自然なこと。

子供の読書感想文に「こんなことを書け」と言うつもりはないし、むしろ私が的を外した感想文を書く人だったので、何をどう書こうととやかく言えることはない。ただ、言葉を紡ぐ手伝いとか、関連するお話とかが出来れば良いなと思う。何に惹かれてどんな読書感想文を書くのか素直に楽しみではある。


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