元芸人と元AV助監督の交換日記#9「すごくエモい思い出」

先輩には申し訳ないことをした。あまりにも薄すぎる内容の文章を書いてしまった。日記としては成立しているかも知れない。ただ、コンテンツとしては0点だ。

先輩からの「交換日記」のWordファイルを開いた。僕は驚いた。「ロッキーの撮影じゃないのよ」といわんばかりの文字の行列が連なっていたからだ。
そこには、僕が気づかないうちに「負の感情」ばかりを振り撒いている旨が書かれていた。その時初めて気づいたかも知れない。自分が「ネガティブ」であったことに。そこで、初心に戻ることにした。

もともと僕は、先輩といつもする会話のような「ウンコチンコ日記」にするつもりだった。それがいつしか、真面目な内容を書くようになっていた。それは、僕が学生の頃から「ふざける」ことの反面に「真面目な部分」があるからに違いないと思っていたからだ。

部室の中でした会話、喫煙所での会話、誰かがフられた、もしくは彼女ができた、ライブが上手くいかなくて悔しかった時、そして夢を諦めた時。いつだって僕らはふざけていた。その場の会話が楽しくて、その時間がとても好きだった。だけど、笑ってふざける先輩の本当の気持ちを考えると、「寂しくて」たまらなかった。
恥ずかしい話だが、先輩たちと遊んで帰宅した後泣いた事がある。それは「寂しい」という気持ちもあった。それよりも、先輩の本当の気持ちに寄り添えなかった後悔が大きいかも知れない。

先輩が芸人を辞めた事をTwitterで知った気がする。「トリオを解散する事になりました。」そんなコメントと一緒にいつもように「ふざけた」文言が並んでいた。
その後、ちょっと時間が経ってから飲みに行った気がする。先輩は、ケロッとした顔をしていたし、僕も心のどこかで「まあ、大丈夫だろう」と思っていた節があった。

それから少し時間が経ち、僕も先輩も「社会人」として落ち着き始めていた。その当時から、僕は芸人を続ける先輩2人の動向をSNSでチェックするようになっていた。(もともとSNS
ストーカーが趣味だったから、何もおかしいことではない)
そんな時に、あるYouTubeチャンネルを見つけた。それは、先輩と同期の芸人が開いたものだった。投稿された動画の中に、芸人を続ける先輩たちがゲストとして出演した回を見つけた。(芸人を続けた先輩といい続けるもの、分かりづらいので1人をF先輩、もう1人をM先輩と呼ぶことにする)
動画の初めは、非常にくだらないものだった。見ている僕も、「なんだこれ」と1人で呟いてしまうほどだ。しかし、終盤で「トリオ解散」について話している部分にたどり着いた。僕は、心をざわざわしながら見入った。「あの日はね、3人とも初めて黙って帰ったね。泣いたもん。」その時ばかりは、いつもふざけるF先輩も黙って聞いていたのを覚えている。
僕はこの動画を見た日、涙が止まらなかった。本当に追って夢を諦める辛さを感じた。自分が追っていた訳ではない、他人の夢を諦める話を聞いてすごく辛かった記憶がある。
一個人の意見だ。先輩はそう思っていなかったかも知れないし、あまりその話をして欲しくないと思っているかも知れない。
僕は、この動画のことを先輩に言わないことを誓った。何故ならば過去の事だし、どんな時も「ふざける」事が僕らの掟だからだ。ただ、いつかこの時の話をしないといけなくなると思ったし、話したいとも思っていた。

今僕のPCから「see you again」流れている。映画ワイルドスピードで、流れた最高にイカした曲だ。酔いと曲のお陰でもっと「エモい思い出」を書き綴ってしまいそうだ。だが先輩から、そういった「悲しくなるような話はやめてはくれないか」と言われてしまった。僕とA先輩の仲だ。本当に先輩と僕は気の置けない仲。ここらで辞めておくとしよう。

この1週間、僕はすごくネガティブな気持ちになっていた。だけど、先輩の交換日記と向き合うとなんだか気持ちが上向きになる気がする。これは交換日記上だけの秘密だ。面と向かっては、恥ずかしくて言えない。それに何と言ったって、いつでも「ふざける」事が僕らの「楽しみ」だから。

終始「ネガティブ」な昔話ばかりしてしまった。しなくてもいいようなクダらないネタがたくさんある。次回からそれをまた書くとしよう。今週は何だかよりネガティブになってしまった。「いやあ、参ったね。」


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