スクリーンショット_2018-12-27_16

2017年 6月18日 煙たい客。

バイト先に車椅子を押したおじいさんが来る。
車椅子に乗っているのは、自分の荷物だ。
名前は田山さん。
彼はうちの店員に大声をあげたり、とてつもないワガママを言ったりして、
店泣かせな人として有名である。

僕はこうゆう所謂厄介な人に、好かれる傾向がある。
「厄介な人達」というのは見るからに厄介だ。明らか厄介。
なのでこちらとしては、マニュアルに沿った機械的な接客をしたいところだ。マニュアルというのは、一番角が立たない接客方法なのだから当然だ。
だが、この「厄介な人達」というのはこのマニュアルに非常に敏感である。
あちらこちらで、機械的な接客をされすぎて、マニュアルを感じ取った瞬間に自分は厄介もの扱いをされていると気づき、ごねだしたりする。

なので、僕はフラット過ぎるくらいなコミュニケーションをとる。
ほぼほぼタメ口でいける。
厄介な人達は揃って僕を「いい人」という。それは彼ら、彼女らが普段まともな接客を受けていない証拠でもある。

田山さんは、何かの病気らしく、一つの動作にかなりの時間がかかる。
レジで会計するのにも5分はかかる。
「かなり面倒な人」と聞いてはいたが、実際話してみると彼がそんなにも悪い人ではないとわかった。
こちらが煙たがるため、彼が煙となる訳で、普通に接すれば普通だ。
彼はいつも弁当を買うので、僕はイートインコーナーまで彼を誘導し、弁当を温めたり、水を入れたり、フォークの袋をとったりの全てをやっている。
これを毎回繰り返していた。

休みの日。いつも歩く大通りに大渋滞ができていた。
珍しいことだ。
渋滞の先頭を見ると田山さんの車だった。
車の中がゴミ屋敷のようなので見てすぐにわかった。
基本的な動作がままならない田山さんにとって、片つけはかなりのエネルギーがいるのだ。
きっと、アクセルを強く踏めないため時速20キロくらいで走っているのであろう。
僕は、田山さんの後ろに並んでいる車にかけより、なぜ前の車が低速なのか、今どうゆう状態なのかを説明した。
ドライバーは納得して、道を変えてくれた。
しばらくすると警官が来て、「おお田山さん!」とどこかに誘導して行った。
きっと有名なんだ。

彼は診察を受けたあと、売店にいる僕を探しにきてくれるようになった。
僕もそれが少し嬉しくて、店が暇な時は彼と会話をしたり、駐車場まで行き、彼の車の発進を手伝ったりした。

彼が来るたび「落合君。お友達がきたよ。」
とニヤニヤするおばさん店員がいる。
彼女は可哀想な人だ。本当に。
「友達じゃないっすよ!」と田山さんに聞かれないようにリアクションをとる自分にもうんざりする。
気持ちが悪い。

田山さんは僕をとても気にいってくれたみたいで、病院に来る前に、店に僕がいるかどうかの確認の電話をしてくるようになった。
それは少し迷惑だった。
店が忙しい時間帯は、彼は僕に声をかけない。
そうゆうところが好きだった。

ある時、「落合君、携帯の番号を教えてよ。」
と言われ
「持ってないっす。」と大嘘をついた。
この僕のジャッジは正しい。
あくまで客だし、田山さんに番号なんて教えたくない。

でもそれってなんか寂しいなと思った。
お客さんだと思って、普段会話をしていたつもりはなかったからだ。
半端な優しさってこうゆうことになるんだなと、田山さんの気まずそうな表情を見て思った。

それから田山さんがきても、以前より会話が弾むことはなかった。

この記事が参加している募集

落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。