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2017年 4月17日 ロバートよろしくダウニーJr.3

ダウニー1,2。

「柔軟剤ダウニーですか?」
その一言により、彼女は僕の心の中でダウニーという愛称で親しまれるようになった。

ダウニーは、僕のTwitterのアカウント名を聞いたのにも関わらず、いつになってもフォローをしてこない。
では何のために、「Twitterとかやってる?」と告白してきたのだろうか。
そんな事をここ半月ずっと考えている。

先日ダウニーが閉店間際にやってきて、会計を済ませると
「今日何時まで?」と聞いてきた。
「21時30分。」とだけ答えると
「一緒じゃん!!」と言ってきたので、
「ああ。そうなんだ。」と返した。

ダウニーからのお誘いであった事に気が付いたのは、帰宅してからのことであった。
レディからの「一緒に帰ろう。」アピールを、どうして無視してしまったのだろうか。
悔いが残る。

その二日後ダウニーはまた店にやってきた。
どうやら今日は熱があるみたいのなのだが、仕事が終わらないのだという。
また今回も「何時まで?」と聞かれたので、
「21時30分。」と答えると
「一緒だね。」と彼女は言った。

「一緒に帰ろう?」という一言がどうしても出なかった。
それは高校時代、クラスの2TOPの女子二人に「ノールック消しカス当てゲーム」をされたことがトラウマになっているからだ。
何かを発言すると女子全般に「気持ちが悪い」と思われてしまいそうでとてもつもなく怖いのだ。
僕の容姿が女子に受け付けられないのであれば、納得はいく。
だが後輩の女の子からはバレンタインにチョコをもらったし、他の後輩の女の子にアドレスを聞かれたこともある。
自分の判断として、僕の容姿は全国的に見れば62点。でも僕みたいな顔の系統が好きな女子からすれば、75点にまで跳ね上がる。
僕に話しかけてくれるのは、いつだって僕の人間性を知らない女の子だ。
逆を言えば、僕の内面のどこかしらに女子が受け付けないような「なにか」があるのだろうと。僕は考えている。

家に帰り、またダウニーを誘ってあげることができなかったと悔やむ。
「体調が悪い=共に帰りたいです。」という方程式を疑う余地はない。
僕はまた彼女を傷つけ、恥をかかせてしまったのだ。

次の日彼女がエレベーターに乗るところが見えたので、僕は用もないのにそのエレベーターに乗り込み
「昨日体調が悪かったのに、送れなくてごめんね。体調が悪いのであれば、送ってあげれば良かったよね。」
と言ってあげた。
「は?」みたいな顔をしていたので、「じゃね」と言って途中で降りた。
この時に僕は本当に気持ちが悪い男だなと理解した。もしかしたらダウニーの感情は全て僕が作り上げたものだったのかもしれない。
僕は女子との会話で想定外なことが起きるのを嫌う。
こう投げかけたらこう返ってくるから、こう言い返せば「落合君好き。」という結末になる、台本をあらかじめ用意して僕は女の子と話す。
今回僕が用意した台本にとんでもないミスが発生していたことに気がついた。
彼女がコンビニにやってくるシーンで、
「今日何時まで?」というセリフがある。
これは僕の退勤時間を聞く、のちに僕と一緒に帰るキッカケとなる非常に重要なシーンであるが、セリフの意図を女優が履き違えていた可能性がある。
女優は、「店の閉店時間」を聞いていたいたのだ。
僕はアドリブが聞かないタイプの俳優なので、彼女の意図を無視して、自分のセリフを吐き続ける。そして生まれる会話の「ズレ」が僕に「気持ちが悪い」という印象を与えるのだ。

ああ、もうダメだ。バッドエンドだ。

数日後、彼女はまたやってきた。
また「今日何時まで?」と聞いてきた。
「21時閉店だよ。」
「へえ。今日私遅いんだよね。」
「ああそうなんだ。」
「何時?」
「んん〜わからない。」
「一緒に帰る?」
「え!うん。」

そんなつもりはなかったのだが、彼女を目の前した途端シンプルに一緒に帰りたくなってしまい、口を滑らせてしまったの。

「ダウニーは何時まで?」
「結構遅いよ!」
「じゃあ、待ってるよ。」
「ええ!悪いよ!!」
「いやいいから!」
「本当に遅いよ?」
「待つよ。」
「悪いよ〜〜。」
このやりとりが体感7分くらい続いたのだが、今になって考えるとこれは断られていたのかもしれない。
謙遜してるのか、遠回しに断られているのかの判断はとても難しいものがある。

「本当に待っててくれるの?」
「うん。」
「じゃあ急ぐね。」
「あ、ちょっと待って!」
「何?」
僕は事務所に急いで戻り、ラインのIDをレシートの裏にメモった。
レシートの裏に必死でIDを書いている時、事務所から店を覗くと、俺のダウニーが壁に寄りかかりながら、他の男性店員と楽しく会話をしていて、「本当、落合君困っちゃうよね〜〜。」的な話をしていたように見えた。妄想かも。知らん。恥じらいが急に沸いてきて、一瞬一人で帰ろうかなと思ったのだが、そんな野暮な気持ちをかなぐり捨て、彼女にレシートを叩きつけては
「これ俺のLINEのID!あの、ラインはしてこなくていいから。あの、なんかもし会えなかった時とか、残業がかなり伸びそうだった時だけ。時だけでいいから、その時はライン頂戴!ね?」とめちゃくちゃ早口で、「ラインを交換したいです。」と言ったように思われないようなフォローをずっとしていて、本当に僕は気持ちが悪かった。
彼女が仕事に戻ったあと、レジで一連の流れを見ていた30歳の男性店員と目が合い、僕は何故か軽く会釈をした。

21時30分。
僕の業務が終わった。彼女が待ち合わせ場所に指定したのは、普段看護師達が使う休憩室だ。コンビニの店員が入ってはいけない場所らしいが、夜なので誰も使わないだろうということで、ここを指定したと考えられる。

ここで僕が出来ることは、彼女がこの部屋に来るまでの間に新しい台本を書き上げることだ。
僕が待つ休憩室のドアを彼女が開いた瞬間に「落合君。好き。ドキドキ。」と思わせ、更に帰り道にも「落合君。好き。ドキドキ。」と思わせる構成にしなくてはならない。

僕はまず閉店前に自分の店で小説を買った。
彼女が扉を開けた時に、僕が本を読んでいたらカッコイイからだ。
ちなみに銀河鉄道の夜にした。理由は、普段の言葉遣いからして彼女が読書をしないことが明らかなので、「聞いたことがあるけど、読んだことがない。なんか難しそう。落合君って聡明なんだ。好き。」となるラインの小説を選ぶ必要があったからだ。

そしてシーブリーズをひたすら塗りたくった。紫のやつ。理由は隣歩いた時セクシーな匂いがするから。

僕は休憩室の明かりを消して彼女を待った。自販機の光だけで本を読んでいたらカッコイイし、一瞬彼女に「いない」と思わせ、ダメ元で扉を開けると僕がいるという、サプライズ的な演出もそこには含まれている。

病院から出るとすぐに、真っ暗な細道がある。
その道を使う人は、決まってスマホのライトで道を照らして歩く。
なので、さっと僕が僕のスマホのライトで、彼女と歩く細い道を、彼女が歩きやすいように、さりげなく照らすことも僕は決めておいた。

準備は整った。
待てど暮らせど彼女はこない。
一時間は経過した。
8畳程度の真っ暗な部屋。自販機から放たれる明かりを頼りに、銀河鉄道の夜を読む。まるで宇宙の中にいるようで、自販機が星のようだなと思った。
そんなことを思いながら時計を見ると、すでに23時30分になっていた。
二時間も待ってしまったのだ。
もう先に帰ってるのでは?など色々考えていると、遠くからコツコツと人が歩く音が聞こえてきた。
音が徐々に大きくなってきて、この部屋に向かっていることがわかった。
僕は気がつかないフリをして、本を読んでいる形をとる。
ガラガラっと扉があいた。僕は入り口を見ない。
何故なら入り口にいるダウニーが、本を読んでいる僕の横顔を見る時間だからだ。
「もういないかと思った!!ありがとう!急いで着替えてくるね!!」
と言って彼女は更衣室に戻っていった。
演出通り、「もういないかと思った!」と思わせることができて、僕は満足した。

「行こっか。(いつも制服の姿しか見かけないから、私服可愛い〜。修学旅行の夜かよ。文化祭の準備期間の時の普段部屋で着ています的なTシャツ見た時と同じ高揚感かよ!)」
といい、二人で病院から出ると、ダウニーの上司がダウニーを待っていた。
「まじかよ。邪魔だよ。空気読めよ。」という目で彼を見ると

「さっきイノシシ出たらしくてさ。帰り大丈夫かなと思ってさ。」

エキストラが勝手にセリフ喋べんなよ。ってかこんなロマンチックな夜にイノシシとかまじでこいつ。と思ったのだが、全然3人で帰れますから的な感じを出すために
「ええええ!!イノシシですか!!!?マジすか!!?あぶなっ!え!?危なっ!!!」
とリアクションすると、ダウニーは「彼が送ってくれるので大丈夫です。」と上司を一括。

「今の「彼」ってさ「彼氏」の「彼」?」って聞きそうになった。
がお疲れ様でしたと、僕もその上司に頭を下げた。彼は気を遣ってか別の道から帰ってくれた。

真っ暗な細い道でライトをつけ忘れたことに気がついたのは、彼女がスマホのライトで僕の足元を照らしてくれた時だ。
やっちまったと思った。
今日は暗い道が良く見えた。そりゃそうだ。僕は二時間暗黒の部屋で小説を読みまくっていたんだ。暗闇に目が慣れて当然だ。

やはり台本通りにはいかないかと思って、それからは出来るだけ自然を装った会話を心がけることにした。
家族の話や、仕事の話、一回も僕の名前を呼ばなかったこと、電車に座った途端ラインをイジリ出したこと、ぴったり横に密着して座ってきて右半身があっち〜てなったこと、左半身が無感覚だったこと、彼女の口から発せられる「それな」「ワンチャンさ〜〜」という単語に急にスイッチが入って4駅分説教したこと。

どれもいい思い出です。

その後
「今日は楽しかったありがとう。」
「ラインありがとう!俺も楽しかったよ。」
「疲れた〜〜。」
「明日も仕事?」
「そう。落合君は?」
「俺休み〜〜。」
「スタンプ(ずるい〜的なやつ)」
「スタンプ(いいだろ〜的なやつ)」
「お風呂入る〜。」
「おやすみ〜」
「スタンプ(おやすみ的なやつ)」

あっさりしてんな〜と思いながら、今日の出来事を反芻しながら僕は寝床についた。

数日後彼女からラインがきた。
「今日何時まで?」

となる予定だったのだが、ラインのラの字もこなかった。
マジくそですわ。



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落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。