おちよ

音楽聴いて映画観て本読んで書く。

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最近の記事

いっきゅうさん 〜吉本ばなな『キッチン』読書感想文〜

このつぼの中にはくすりがはいっておる。子どもがなめたらしんでしまう強いくすりだから、決してつぼにはふれるでないぞ。おしょうさんはそう言って、まちに出かけてゆきました。 *** 私鉄線が新宿を過ぎてメトロの線路に乗り入れる。車内には轟音が響き、隣に座る娘との会話も容易ではない。晩ご飯の献立の相談、という込み入った話は電車を降りてからにしよう、と思った。 新宿三丁目で乗り込んできた3、4歳くらいの女の子とその母親が、通路をはさんでわたしたちの正面に座った。女の子の髪の毛はぴっ

    • 二の腕の蜘蛛

      体んなかで一番痛いのは二の腕の内側なんすよ、と彼は言って、白いシャツの左腕の袖をめくった。手足の長い蜘蛛のタトゥーがそこにはあって、触っていい?と尋ねたら彼は触ってみな、と答えたからわたしは蜘蛛をそっと撫でた。白い腕だった。かわいいヤツだ、と思った。 髪を切るのに吉祥寺に通っていた。 いつもシャンプー係だった新入りの彼は、一年くらい経った頃に「俺、世界を見たいっす、日本出るっす」と言い出した。かわいいヤツだ、と思った。 ほどなく、下北沢のバーに一緒に飲みに行った。 来月か

      • 淀川は、にび色 〜岸政彦『図書室』読書感想文〜

        表紙の「淀川み」にやられてジャケ買い。突然、高校時代の同級生Yのことを思い出す。 *** Yとは、数ヶ月に一度、学校帰りにふらりと美術展に連れ立ってゆく仲だった。正確には、美術展に連れ立ってゆく「だけ」の仲で、一緒にお弁当を食べたことも、買い物に行ったことも、同じ部活だったこともなかった。 それでもなぜか、絵とか陶芸とか写真とかを見に行くなら自分ひとりか彼女と一緒か、と決めていた。 彼女もわたしも、感想を言い合ったりすることはなくて、ただただ、ふーーん、とか、おぉー、と

        • ユウコとおかんのこと 〜岸政彦・柴崎友香『大阪』読書感想文

          高校3年の冬、センター試験(今は「共通テスト」って言うのね)の前日(前日!)にユウコと天王寺をブラブラしていたら、仕事終わりのユウコのおかんからポケベルで連絡が来て(ポケベル!!)上本町の焼鳥屋で晩ご飯をおごってもらえることになった。 「ユウコやあ、ちよちゃんもやけどやあ、明日センター試験やんか」ユウコのおかんはメンソールの細いタバコをくわえながら、串に刺さった焼き鳥を箸で外していく。串にかぶりつくのではない食べ方があるのだと、その時わたしは生まれてはじめて知った。 「セ

        いっきゅうさん 〜吉本ばなな『キッチン』読書感想文〜

          モモのこと 〜ティム・オブライエン『世界のすべての七月』読書感想文〜

          "You know whaaat?”(ちょ、聞いてよー) モモの、前日のデートに関する報告はいつもそう言って始まった。小1から高3までをカルフォルニアで過ごした彼女の、細かいニュアンスを含む話はたいてい英語だ。 モモに限らず、アメリカ育ちの女の子は昨日のデートについて微に入り細に入り話しまくる、というのがわたしの印象である。 彼はどんな服を着て来たか、どんなお店に連れて行ってくれたか、ジョークはウィットに富んでいたか(彼女たちはすべての会話の一言一句を完璧に再現できる)

          モモのこと 〜ティム・オブライエン『世界のすべての七月』読書感想文〜

          午前2時の『深夜高速』

          令和にフラカンの『深夜高速』を聞くとは思わなかった。しかも歌うのは岡崎体育。 最高。反則やん。 *** 3年前。夏の夜。午前2時。 色々煮詰まって眠れなくなって、翌朝取りかかるはずだった仕事に前倒しで手をつけようとパソコンの前に座った。 座ったものの、いまいち頭が回ってないからスマホでTwitterをひらく。よくない癖。 「この歌詞で深夜高速ってタイトルは反則」 フォロワーが1分前につぶやいて、フラワーカンパニーズの『深夜高速』の動画URLを貼っていた。 何をどう「

          午前2時の『深夜高速』

          おばちゃんあり遠方よりさいたまに来る 〜岡崎体育と0/100思考の話〜

          0/100思考だと自覚していた。 どうせやるなら100パーセント、そうでなければ0、という思考回路は、精神論としてはストイックな美しさをもつけれど、生きるためには端的にしんどい。自分の退路を断ってしまうし、小休止を許さない許せない。あぁこのインターバルですべてがゼロに水泡に、と頭を抱えてしまう。 必然的に、自己肯定感が低い。100に届かなかった試みの「プロセス」を評価するシステムが脳内に存在しない。そんな「自分スケール」にのっとると私はいつも完全なる0点だ。今年と同じく来

          おばちゃんあり遠方よりさいたまに来る 〜岡崎体育と0/100思考の話〜

          梅田丸ビルの「くるり」体験、あるいは平岡公威について

          くるりというバンドを知ったのは、学校帰りに梅田丸ビルの黄色いレコード屋に少なくとも週4で通っていた頃のことだから、もう25年以上前になる。 隔月発行のフリーペーパーの後半ページ(あるいは、前半だったかもしれない)、デビュー直後の新進気鋭バンド、くるりのインタビューが数ページにわたって掲載されていた(あるいは、1ページだけだったかもしれない)。首元がよれよれのTシャツと帽子、たしかベルボトムみたいなジーパンを履いてメガネをかけた「岸田繁」は、関西の全予備校のあらゆるクラスに必

          梅田丸ビルの「くるり」体験、あるいは平岡公威について

          わたしは、自己紹介ができない

          おちよ、といいます。 自己紹介が何より苦手です。本が好きです。音楽が好きです。映画が好きです。時々歌います。 自己紹介が苦手で子供のころから損ばかりしてゐる、と気づいたのは、当時流行りはじめたmixiに友人から招待してもらった大学1年生の時。25年前。 mixi招待しといたからプロフィール書いといてー、に盛大につまづき、「わたしとは何者か」が一言も書けない。 「わたし」って誰なんだよ。何者なんだよ。何者であるかはいったん置いておいたとしても、「わたし」をどう語ればいいん

          わたしは、自己紹介ができない