運命という名のもとに第3話

第3話  『休み時間と放課後の空』

『じゃあ、またね!空(そら)!!』

美咲は、バキューンと指で銃を撃つ素振りをしながら……、校内へと消えていった。思わず、またね……と古びたピースサインを出そうとしたその手をすぐ様引っ込めるように…。私は目いっぱいの笑顔で、その姿を見送った。

授業が始まると、何の役に立つかもわからない話をダラダラと聞きながら、私はいつも窓の外を眺めていた。そう、私の席は……いつだって、窓際だった。教室から覗く空や景色を眺めるのが好きだった私は、必ずと言っていいほどに……席替えでは、窓際にこだわった。それくらいしか、こだわれるものなんてなかったから。少しの幸せな時間くらい、あってもいいじゃない……。そんな想いを胸に秘めているだなんて、けして、言えやしないのだけれども。

私は、いつものように窓の外に目をやった。

『?!』
『あ』

こちらに手を振りながら、何か……伝えようと必死にジェスチャーをしている少女がいた。そうだ。美咲だった。まっ……まさかね?私にじゃ、ないよね。。。しかし、美咲は止めない。お前だよ!って、言うように、指をこちらに向かって指している。

キョロキョロと見渡す私。疑いつつも……。

『わたし?』

指で……己を指してみた。

OKポーズで、クルクルと回り出した美咲の姿に、思わず「クスっ」と、笑ってしまった。やばっ、授業中だったことを思い出し、咳き込んだフリをする。

──きっと、誰も……私になんか気にも止めていないのに。

そして、美咲は暗号的なメッセージを伝えてきた。

『あ・と・で・ま・た・な・!』

私は…必死に読み取ったそのメッセージに何度も何度も……頷いてみせた。

「キーン、コーン、カーン、コーン」

チャイムの音が鳴り響く。休み時間。私は、いつもの場所へ行った。そう、屋上は……私にとっての居場所だったから。日陰に座りながら、お弁当を広げてパクリと口に放り込んだ。

『いただきまーす!』

次に、口に入れるはずの玉子焼きを横パクリと阻んだ奴がいた。そう、それは紛れもなく美咲だった。

『~ん!!うまっ!!』

『わぁあ!びっくりした。な、何?どーしたの???』

『空(そら)はさ?いつも、驚いてばかりだね。あたしは、そんなに、こわいかぁーーーっ?!』

いきなり私の髪をくちゃくちゃにするかのように、美咲は絡んできた。その顔は笑っていたけど、どこかしら……何故か、切なくもあった。

『そ、そんなこと、ないよ?ただ、いつも……突然、現れるからさ?びっくりしちゃうの。ほら、私ってさ?ある意味……、ビビりだから!』

──いや、ある意味どころか、いつもじゃん。

──あの日…から。そう…変わってない。いつも通りじゃん、、、何…動揺してるの???

心の奥でそう呟きながら…、自然と笑っている自分に気づいた。えっ?!…笑ってる。心から笑ったのって……、いつぶりだろう?
 
──美咲は、いつも通りの笑顔でこちらを見つめている…。

『そうか。黄昏の空(そら)ちゃんは……、ヒビりなのか!それはまた、面白い。可愛いなー!おい。』

高校生らしからぬ、シルバーアッシュの髪が風に揺られている。……女王は笑った。この数十分に過ぎない休み時間でさえ、懐かしむくらいの……私は心地いいものを感じていた。そして、美咲もまた、とびっきりの…楽しそうに笑っていた。

『ソラ…?学校終わったらさ、また……ここに、集合しない???夕陽とか眺めながらさ、青春を楽しもうぜ!いいっしょ?それもまた!』

美咲は、そう言うと…「じゃね!」と、またすぐに去って行った。その…潔い後ろ姿を私はただ、じっと見つめていた。

……口に入れた玉子焼きがやけに甘く感じたのは、きっと、美咲がくれた笑顔のお陰だろうか?

──何だかな……楽しいな。

そんな風に思えたのは、学校生活では初めてだった。また…あの女王…美咲に会いたい。早く、放課後にならないかなぁ…。ふと、心待ちしている自分に気づき、またもや…頬が熱くなるのを感じていた。

まだかな……。ホームルームが終わると、そそくさに誰よりも早く教室を後にした。美咲のクラスは、もう、終わっただろうか?

それとも、今日もまた抜け出したのだろうか?色んなことを考えては……、妄想に更けていた。約束したけど、本当に来てくれるのだろうか?もう…すでに、ホームルームの時間から一時間は経っている。

もしかして、期待し過ぎたかな?そんな風に、ふと、泣きそうになった時……。

『ごめーん!』

『待った?待ったよね?行こうとしたらさ、先生に捕まってさ?遅くなっちゃったよぉ。本当に、ごめん。すまぬ。本当に、ごめん。』

美咲は、やらかしちゃった的な装いで、でも……いつもの優しい笑顔で、必死に謝ってきた。

『大丈夫だよ。気にしてないよ。むしろ、来てくれて……、ありがとうだよ!』

『黄昏ちゃん!やっぱ、やさしぃーわ!』

そう言って、美咲は私にすり寄って……抱きしめてきた。いつもとは全くもって違うその姿は、まるで子どもがお母さんに抱きついて甘えるような素振りで、とても大人びたいつもの……美咲とは正反対の姿がそこにはあった。

『美…美咲?さ…ん???急に、どうしたの?』

──私は必死だった。さん?って、何?同級生でも、まだ、久しくなったばかりだから…妥当かな?いや、よそよそしかったかな…。いや、そんな風にどうでもいいことを私の頭の中は……、グルグルとある意味パニクっていた。そして、美咲は、そんな私を他所に……更に、話を続けてきた。

『黄昏ちゃんをさ?初めて見たの、実は……昨日が初めてじゃなかったんだよね。私。実はさ?入学式の時から知ってたんだ。ほら、あの日……。ここで、泣いてたでしょ???』

──えっ……?!やばい。知られている。そうだ。そう!

──入学式のあと……。けして好んで入学した訳ではないこの学校に来たことに嫌気をさして、親すら拒否して、泣いたんだった。そう、ここで。それを見られてたのか。

『・・・。知ってたんだ。何か、恥ずかしいな。』

『いや、そんなことはないよ?ただ、何かさ、その時は……声をかけられなかったんだ。かけちゃいけない気がしてさ。しかもほら、理由もわからなかったから、どう話しかければいいかも、分からなかったし。しかもほら?あたしはさ?こんなんでしょ?!ビビらせるだけかなってさ。笑』
 
美咲の言葉からは…必死に弁解しようとする意気込みを感じた。こんな私を……、どうして、気にかけてくれるのかな。私は…ただ、目の前に広がるオレンジ色の夕陽を眺めていた。そして、美咲もまた、同じように、隣でその空を眺めていた。

「空ってさ…?何か、いいよね?ある意味…複雑な事とかさ、忘れさせてくれるんよな…。」

暑い夏の夕暮れ時に……、そっと風が通り抜けていくのを感じる。美咲の言葉に強共感する自分が居た。

ふと、流れそうな…涙を必死に隠しながら、ただ、このゆっくりと流れる穏やかな時間を感じていた。そう、穏やかな時間。

──この学校に来て、こんなにも素敵なひとときはあっただろうか。この…学校で、こんな気持ちになるような、そんな期待なんて…してはいなかったはずなのに…。

──徐々に、オレンジ色から深い蒼色に染まる空を見つめながら……、ふたりは、屋上を後にした。

また、明日もまた会おうね?!

朝と同じ通学路、肩を並べて歩く帰り道が……今日はやけに違う景色に見えた。変わるはずのない同じ道。何故に…気分が違うとこんなにも世界は変わるのか?

空(そら)の心に…。太陽のような光に似た希望が舞い降りた。それを感じた……そんな一日だった。

──別にいい。それがまた……素敵な一瞬。

いつまでも…続いて欲しいその…一瞬。

詩を書いたり、色紙に直筆メッセージ書いたり、メッセージカードを作ったりすることが好きです♡ついつい、音楽の歌詞の意味について、黙々と考え込んで(笑)自分の世界に入り込んでしまうけど、そんな一時も大切な自分時間です。