Vancouverの書店レポvol.7/子どもが親になって戻って来る”絵本の魔法”
2020年3月。COVID-19でカナダがロックダウンになったとき、バンクーバーにある我が家の近所は書店と花屋が開いていた(もちろん制限付きではあったけど)。日々の暮らしの中で、本と花の優先順位が高い街。よくよく見渡すと、バンクーバーにはユニークなインディペンデント系書店がたくさんある。そんな書店の紹介インタビューシリーズ、のつもりが、書店員たちが語ってくれたのは、本への愛、そしてこれからの暮らしに活きる”幸福論”のようなものだった。
”絵本の読み聞かせ”という特別な時間
時刻は夜の21:00。ついさっきまで3歳の息子を寝かしつけるため、『Kids Books』のオーナーPhyllisがおすすめしてくれた絵本『THE JOLLY POSTMAN』を読み聞かせていた。英語で書かれているので、適当に自分が翻訳して聞かせるのだけど、30年以上前の絵本ながらそのつくりの精巧さに思わず唸る(見開きごとに、それぞれ違うキャラクターに当てられた手紙が取り出せる仕組みになっている)。今宵も息子を無事深い眠りへと誘うことができた。ありがとう、JOLLY。
例えば我が家の場合、息子は眠る前に、いつも絵本を2、3冊選んでからベッドにいく。正直、それらは前日と同じラインナップだったりする。でも、ベッド上で彼の興奮は冷めない。ページをめくり、想像力を巡らせ、聞く側のその日の体調や読む側の声のトーン、思いつき(アドリブ)次第で、前日と同じ絵本は新しい物語へと何度も生まれ変わる。
「”絵本の読み聞かせ”ほどスペシャルな時間は無いよね」我が家から徒歩3分。児童書を中心に取り揃えた書店『Kids Books』の店員Trevorはそう語る。
オーナーのPhyllisがコロナの影響でお店に来ることができず、事前にメールで取材、この日は主に店内の撮影が目的だった。保育園から息子をピックアップし、その足で『Kids Books』に駆け込んだ。
「成長して親になった大人たちが、『Kids Books』に自分の子どもを連れてやって来る。そして自分が子どもだった時、どれだけこの場所が好きだったかを話してくれる。これもひとつの”絵本の魔法”ですよね」
オーナー・Phyllisから届いた返信メールには、そんなことが書かれていた。
そういえば、我が家の絵本の中の一冊に『しろくまちゃんのほっとけーき』(こぐま社)がある。40年近く前、自分が息子の年齢の頃によく読んでいた絵本で、たしか2年前に息子に購入した。寝る前に読んでもらった”幸福感”のようなものは、なんとなく今も自分の中に残っている(大人になった今でもホットケーキが大好物なのは、この絵本のせい、かも)。なので、Phyllisが言っている世代を超えていく”絵本の魔法”には、大いに頷ける。
本の”顔”をきちんと整えること
客足は平日にも関わらず途絶えない。そんな中でも、trevorは息子と自分を親切に案内してくれた。
「まずは軽くツアーしようか。入り口入ってすぐのこの場所は、大人向けの新刊が置いてあるんだ」
「ここは7〜10歳向けのチャプターブック(絵のない、文章中心の本)、その向こうはティーンエイジコーナーで12歳〜19歳向け、この辺りは6歳〜12歳向けのグラフィックノベルね(漫画で読める歴史、小説、社会的ジャンルetc)」
「ここはコミックコーナーで、あっちはサイエンスブック、例えば化学、ロボット、自然、昆虫、動物、恐竜があるよ」
「あの奥は赤ちゃん向け。おもちゃもあるしプレゼントにも最適さ」
”恐竜”という言葉を聞いて、ダイナソーマニアの息子が刺すようにその方向をじっと見続けている。
そして窓際には、パズルがびっしりと飾られていた。
「パンデミックになってから、大人のパズル人気が急上昇しているんだよ。前は1段積みだったんだけど、どんどん高くなってきてるね」
1度聞いただけですべて把握できるくらい、店内のエリアは年齢、ジャンルがわかりやすく、非常に細かくセグメントされていた。本が全部こちらを向いていて、まるで”目が合う”ような印象。「その通り! だから俺たちは忙しいんだよ」とTrevor。
そういえば、オーナーのPhyllisのメールにも書かれていた。「自分たちのイチオシがお客さんの眼にわかりやすく止まるように、本の”顔”をきちんと整えることに細心の注意を払っている。それがうちの店のこだわりです」と。
「もともと子ども向けの図書館員だった私は子どもと、そして子ども向けの本と一緒に働くことを愛していました。1983年にこの店を開いたことは、私のキャリアの延長として大きな一歩でした」
絵本は絵と言葉の芸術作品
絵本畑一筋のPhillis。ズバリ、絵本の魅力って何ですか? という質問には、「絵本は芸術作品なんです。多くの人が絵を愛するけど、言葉にも注意を払うことが大切です。いくつかの絵本は、独創性に富んだ紙の工作を実現しています」と答えてくれた。
(そうして挙げてくれたおすすめの絵本のタイトルは記事の最後にて)
途中、「SALE」と書いてある本があって、「日本は基本的に新刊の値段を変えられない。そもそも仕入れる本も自由に選べない」と言ったら驚かれた。ここではセールは当たり前のこと。ある程度の期間が過ぎると、本の値段は書店が決める。
「でも、値段の設定でたまに版元とトラブるんだ。いちばん値下げしても40%くらい、という暗黙のルールがあるんだけどね。Amazonはもっと安くしてくる。It’s tricky(ずるいよ)」
でも、trevorのように知識が豊富な店員がいてくれたら、足を運ぶ価値があると思う。
「店員の知識、あとはカスタマーサービスだよね。いかにお客さんの要望に応えるか」
この日、2冊ほど購入した絵本(『The Jolly Postman』と『Where the Wild Things Are』 )は、後日息子のお気に入りになった。
幼い頃に触れた絵本は、ときにその後の人生になんらかの影響を与える、かもしれない。息子が大人になったとき、どの絵本が彼にとっての『しろくまちゃんのほっとけーき』になるのか、今からとても楽しみだ。
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