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Vancouverではカンナビス(大麻)はエッセンシャル。カンナビス業界の”Apple Store”取材レポ【番外編①】

バンクーバーの書店インタビューを続けてきた中で、書店員さんたちの言葉にいくつか共通点があった。そこで、”番外編”として、書店から少し離れてその共通点を掘り下げていきたい。今回のテーマは”カンナビス(大麻の英名)”について。

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例えば朝、犬の散歩をしている女性とすれ違ったとき、あの匂いがフワッと香ってきたりする。歩きタバコならぬ歩き”大麻”。カナダは2018年6月に嗜好品としてカンナビス(大麻)が合法化された(医療大麻は2001年にすでに合法化)。世界で2番目の速さでの決断(1番はウルグアイ)。ここカナダのバンクーバーでは、カンナビスは人々の日常生活の中にすっかり溶け込んでいるように見える。

バンクーバーの本屋取材を振り返ってみると、どのお店でもドラッグカルチャーの棚があった。書店員の皆さんも、その分野について「いやー、最近興味を持つお客さんが多いんでね」と、並ぶ本たちを熱く語ってくれた。そして今、バンクーバーにあるあらゆるお店の中で圧倒的におしゃれで目立っているのが、カンナビス(大麻)商品を販売する路面店だ。

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「店内の雰囲気は、”Apple Store”みたいだねってお客さんに言われます。商品の検索用に、iPadもたくさん並べているし。テーマはClean&Green。カンナビスはパーティードラッグのイメージだったり、体に良くないと言われたり、いろいろと汚名を着せられてきました。でも、これから伸びる産業であることは間違いないし、医療面はとくに期待されているんです」

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今回取材に対応してくれた店員のTomはそう語る。外の入り口からは店内は見えない。でも、いざ入ってみるとずいぶんと広い。そして何よりキレイ。商品のパッケージも、陳列棚も、天井も、店員の人たちも、程よく洗練されている。

商品に関しては、何か質問をすると効能、成分、在庫などが店内の大きなスクリーン上に瞬時に表れて、説明もわかりやすい。書店と一緒で、こういった店員のカスタマーサービスが他のお店との差別化になるんだろうなあと思う。天井を通る透明の管の中を、注文を受けた商品が時折レジに向かって高速で運ばれていく。

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「自分は2年前にドイツからバンクーバーに来ました。ドイツは医療目的の大麻使用はOK、嗜好品目的はNG。カナダのような合法化されている環境で、とくに人間の健康面にいかに効果があるか、をガッチリ学びたいと思っています」

カンナビスに関しては主に本やウェビナーで勉強したのだそう(彼イチオシの本はコメントともにページ下にて)。

「カナダも他の国と同じように、ロックダウン中レストランやカフェ、あらゆるお店が閉店を余儀なくされたけど、”カンナビスショップはエッセンシャル”という扱いなので、お店はずっとオープンしていました。ええ、合法化されていない日本やドイツからしたら考えられないですよね。コロナ中は一時期めちゃくちゃ忙しかったです」

未曾有のパンデミックの中、カナダはカンナビスを人々にとって欠かせないものと判断した。

歴史を遡ると、1937年にアメリカで非合法となり(健康面に関する理由というよりは、カンナビスを吸う習慣を持ちこんだメキシコ移民やジャズカルチャーの黒人たちを簡単に逮捕するための、人種差別的な理由だったと言われている)、日本では1948年にGHQによって禁止された(これも理由はあいまいで、はるか昔の縄文時代から神事含め日常的に”大麻”と慣れ親しんできた文化があったにも関わらず、アメリカが禁止していたので日本も禁止、という流れ)。

でも、結局非合法の”マリファナ”を使用する人は増え続けた。カナダの場合も同じで、非合法で質の悪い”マリファナ”が高値で取り引きされ犯罪組織の資金源となっていたため、それを断絶するために生産から流通、そして消費までを政府が管理して合法化に至る。

「コロナ前は、パーティーでハイになるのを目的としたお客さんもたくさんいたけれど、今はリラックス効果や慢性的な痛み止めとしての効果を求めてやってくる人が本当に増えましたね」

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入り口入ってすぐのレジ横には、もっとも人気の高いジョイント(喫煙のために大麻を紙で巻いたもの)が陳列されている。

「インディカ種はリラックス効果が高くて質の高い睡眠に繋がります。このサティバ種はTHC(ハイになる成分)が高めで気分がアガるけど、カンナビスの耐性が弱い人には不安を感じる副作用が出ることもあります。このハイブリッドはー」
と、流暢に説明を続けていく。

店内を進むとカンナビスの葉が透明のフラスコのようなケースに入って並んでいて、コルクを抜けばその香りがテイストできる。「コロナ対策も万全です」。

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カンナビスの成分にはざっくり言うとハイになるTHC(日本はこれが規制対象)と主にリラックス効果のあるCBD(WHOもも心身への様々な良い効果があることを認めている。日本も規制なし)の2種類がある。

具体的には、THCは鎮痛、催眠、食欲増進などの効果が認められているが、依存症、記憶障害、不安の増大などの副作用も心配されている。一方、CBDは心身への悪影響はほとんど報告されていない。

とくにCBDの普及率はすさまじく、「最近の調査では、アメリカ人の14パーセント(7人に1人)がCBD製品を使っており、そのうち40パーセントが慢性的な痛み改善のため、20%が抗不安剤として、また11%が不眠症を改善するために使っている」のだそう(『CBDのすべて』アイリーン・コニェツニー /ローレン・ウィルソン著)。

この2つの成分は相乗効果もあると言われていて、どのくらいの分量をどのくらいのペースで摂取するのが自分に合うのかを見極めるのがとても大切、とTomは言う。

「こればかりはトライしていくしかないですね。症状と効能を聞いて、商品をおすすめしますけど、効果に保証はできません」

ただ、例えばカナダのトロントにあるLobo Geneticsでは、検査キットを購入して自分の唾液を送ると、どれだけ自分が耐性があるかどうかが詳細にわかる。こういった検査が店内でできるようになる日も近いだろう。

驚いたのは、豊富な商品のラインナップだ。店内奥には紅茶、緑茶、チョコレート、クッキー、ジュースからビールまで、そこはまるでデパ地下の一角のよう

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「カップルで来て買っていく人も増えましたね。カンナビス入りのビールは、もちろんノンアルコールです。アルコールのビールを辞めてこのカンナビス入りビールに移行するお客さんも結構いらっしゃいます」

なんだか景気のいい話題ばかり。でも、販売するためにはラインセンスが必要で、それは酒屋の約10倍(Tom談)はするそうで、なかなか気軽に参入できる感じでもない。ただ、合法化のおかげで、目的だった裏社会での質の悪い大麻の取引やお金の流れは、クリーンになってきているのだそう。

「まだまだバンクーバーも法的に整っていないところもある。ただ、今のうちにカンナビスの知識を深めて、ドイツが合法化したときにそれを活かせたらと思っているんです」

2021年5月現在、例えば家と大麻クラブだったら基本OKのスペイン、薬物依存を医療問題と捉えて、全ての薬物を非犯罪化しているポルトガル、実は合法ではなく様々な規制のもと”非犯罪化””許容”されているオランダ15州が嗜好目的の大麻使用を合法化しているアメリカ、合法化してもなんの利益も無いと考える大統領のブラジル、2020年に国民投票の末に合法化が否決されたニュージーランドなどなど、国によってこれだけ扱い方の違いがあるものも珍しい。

よくよく見ると、それは呼び名にも表れている。ヘンプは古いドイツ語、マリファナはスペイン語が起源とされ、THC成分の分量(ヘンプは0.3%未満、マリファナはそれ以上)によって定義されている。ただ、マリファナという呼び名にはヒスパニックや黒人などマイノリティへの差別的な要素があり、アメリカでは避けられ始めているそう。

その他、ポット、ウィード(ともにアメリカ生まれのスラング)、ガンジャ(ヒンディー語)など。呼び名は100以上超えるとも言われ、それだけ世界で使用されてきた、という歴史を物語っている。この記事内では、大麻全般を表す言葉としてカンナビス(ラテン語に由来)に統一した。

「1883年までは、世界中の紙の75-90%は大麻草を原料とし、本、聖書、地図、株や債権、新聞、その他に利用されていた。大麻草由来の紙はパピルスの50倍から100倍の強度を誇り、100分の1の労力と経費で作ることができた」(大麻草と文明・ジャック・ヘラー著)

いつの日かまた、カンナビスで出来た本が世の中に溢れる日が来るのだろうか。大きな可能性に満ちた、だけどまだまだ先の見えないカンナビス業界の動向が、これからも楽しみだ。

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この "the little book of cannabis" という本は、カンナビスについて知りたい人全てにおすすめしたい一冊。基本がすべてわかります。

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 "Cannabis: A History" これは、カンナビスのグローバルな歴史をかなり詳しくまとめた一冊。その時代時代でどのように使用され、なぜ法律上犯罪になったのか、その流れがよくわかります。

それと”Intervening book from the Trichome Institute”もおすすめ。カンナビスの蕾の査定の仕方など、プロフェッショナルに向けた教科書に近い一冊です。

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CITY CANNABIS 

https://www.citycannabis.co/location/robson-st/

651 Robson St · (604) 673-1523

*日本国内での大麻所持、使用は法律で禁止されております。
この記事は、国内での無許可の使用を推奨するものではありません。




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