【虎に翼 感想】第47話 寅子が見ているのはどこなのか
寅子の仕事勘、にぶる
ブランクというものは本当におそろしい。仕事勘がかなり失われ、取り戻すのにかなりの時間がかかる。苦労した者の一人として手を挙げておきたい。
寅子も今、少しずつ取り戻そうとしている最中だ。だから、GHQに突き返されたレベルの草案を読んでも、昔の仲間を思い出して感慨深くなってしまった。
久藤も「どう、だいぶ変わったでしょう」と、寅子を試している。“ヘマはできない” と、「いっぺんに変わらなくとも、少しずつ前進していけば……」とあいまいな回答をしてしまう。
こんな感じだから、「思ったより謙虚だ」と言われてしまった。
第6案ではなく、第1案から読めていたらよかったかもしれない。第6案は、それなりにGHQの意向に近づけていたものだろうから、寅子からしたら革新的なものに見えてもおかしくはない。
しかし、今見ると確かに生ぬるいものであった。第6案では、結婚しても、基本的に夫の姓を名乗るとなっていたから。最終的に第750条で「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」となるまでに紆余曲折があったことを知ることができた。
しかしそれでも、現代においても、あまり変わっていない。
20年間の法律事務所勤務時代、特に相続の案件で多くの戸籍を見てきたが、その感覚で語れば、今でも8~9割くらいは、夫の姓になっていると思う。戸籍を読み込む仕事は事務職員が行う比重が大きい。弁護士先生もこの認識を持っておられるだろうか。
「GHQのとおりにすると、夫に先立たれた妻は、婚姻関係がなくなり、夫の名字を名乗れない」という久藤の話も、今聞くとありえないことだが、条文の一つ一つに議論を重ね、大変な労力を費やして作られたことを、今後も記憶に留めておきたい。
猪爪家の温度差
直明が、“家長” の席に座っている。テーブルの隣の小さいちゃぶ台に座っていた直明が、成長し、直道の戦死により直言の隣の席になり、直言の死により真ん中の席に昇格している。司法省で民法改正の議論が進んでいる中、家制度の中で暮らしている猪爪家をちらちら見せる対比がよい。すぐに変わるものではないと。
司法省とGHQの話で盛り上がる食卓で、花江が浮かない顔をしている。
花江はまだ受け入れられなかった。GHQは、直道の仇の国の人間だから。
思い返すと昭和17年1月、割烹着に “大日本国防婦人会” の白たすきをかけて買い物から帰ってくる花江の姿があり、その姿は嬉々としているように感じていた。当時の主婦は、結婚すると法的能力がないものとされていたから、役割を担っているというか、自分が属するものを得て、活動に勤しんでいるのではと想像していた。その時点でも、当時、仕事をしていた寅子とは、戦争との向き合い方にも温度差があったはずだ。そして、日本は戦争に勝って直道も帰ってくると思っていたのに、どちらも叶わなかった。戦後、仕事を始めた寅子とは、また温度差が開いている。
変化を受け入れられるかどうかということは、生き抜く力にも通ずることだと思う。少しずつでよいから、折り合いをつけて、人生を進めていってくれることを願っている。
東京帝国大学、神保衛彦教授の登場
「我が国の家族観を、この国を破滅させる気か」
「古き良き美徳が失われれば、敗戦で満身創痍のこの国にとどめを刺すことになりかねない」
桂場に寅子を紹介されたときの神保教授の反応に合点がいった。
「お~、あの婦人弁護士の」という反応ではなく、冷めた目で寅子を見ていたように感じたからだ。
きっと、婦人弁護士採用にも反対したんだろうな。この方。
だから教授は最後、あえて寅子に尋ねたのではないだろうか。試されているぞ、寅子!
寅子が見ているのはどこか
寅子は一体、どこを見ているのだろうか。久藤や桂場の前でスンとして。神保教授に「ご婦人がいると華やぐ」と言われて、にこやかに「ありがとうございます」と返すありさまだ。
民法改正は、誰のためにするのか。一番大事なことが見えていない。
しかし、寅子にもスンの自覚はあるようだ。司法省は荒療治の場かもしれないが、食らいついてほしいと思っている。
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自分語りで申し訳ないが、思い出してしまった。最後に勤めた法律事務所を退職する際、弁護士と、代わりに入った新しい事務員さんに対して、「先生のために仕事をしたことはない。依頼者のためにしていた」と話したことを。
決して弁護士にケンカを売ったわけではなく、”一番大事なことは何か” を伝えたかったのだ。事務員さんは驚いた顔をしていたが、弁護士からは「いつも依頼者のことを気にかけているのは分かっていた」と言ってもらえたから、今も自分の中に一つ芯を持てているところはある。
もし、私の記事を弁護士先生方が読んでくださっているのであれば、今一度確認していただきたい。事務職員・パラリーガルが、どこを見て仕事をしているか。「私のことは気にしないでよい」くらいのことを言えるのかどうかを(本当に気にしなくて何もしないわけではありません)。
「虎に翼」 6/4より
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早いもので11月ですね。ともに年末まで駆け抜けましょう!!