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【虎に翼 感想】第27話 お茶くみを侮るなかれ


寅子、卒業

昭和13年3月、寅子たちは明律大学法学部を卒業した。
寅子は、共亞事件のときに顔見知りになった雲野弁護士の事務所で働きながら、高等試験の勉強をすることとなる。
雲野法律事務所には、雲野弁護士、イソ弁(雇われている勤務弁護士)と思われる男性岩居、ベテラン事務員風の女性常盤がいる。
勤務初日、寅子は大きな声であいさつをし、自分の席に座る。

・・・やることがない。誰も指示しない・・・

寅子は席を立ち、雲野弁護士に「何をお手伝いすればよろしいでしょうか?」と尋ねる。雲野弁護士の返事は、「とりあえず、お茶いれて」だった。ちょっとがっかりそうな寅子の顔。

寅子よ、弁護士の仕事を手伝わせてもらえると思ったか。残念だがすぐには無理だ。きみは今のところ、宙ぶらりんな存在だ。弁護士の仕事はおろか、事務員の仕事もこなせていない。高等試験の勉強をしているからといって、すぐに弁護士の手伝いをさせるわけがない。

雲野弁護士はともかく、イソ弁とベテラン事務員に歓迎されているのかも、今のところよく分からない。やさしそうだから心配ないか…もし歓迎されていないとしても、その気持ちがちょっと分かってしまう…弁護士を目指しているということは、事務員の仕事を極める気はないだろうから…
無意識に事務員を下に見るかもしれないし、事務仕事も軽んじるおそれがある。そんな状態で仕事をされても、依頼者の信頼を失う事態になりかねない。職場にいたら、内心ちょっと心配になる…
指示をしないのは、雲野弁護士に何か思惑でもあるのだろうか。今日はよく分からなかった。


花岡とのつかの間のデート

寅子と花岡は、お昼休憩のときに時々会っているようだ。現代のようにスマホがないから連絡がとれない。待ち合わせ場所で時間が合ったときだけ会える。風情があってとてもよい。
花岡は今は司法官試補として、裁判官になるべく実務修習をしている。調書の写しばかりやらされていると、うんざりしている。
せっかく実際の事例を読み込める機会なのにもったいない。

さらに今は、民事に異動した桂場判事に付いていて、「きみは裁判官向きじゃない」と言われてしまった。
たしかに、同性の目を気にして女子を軽んじる発言をしてしまう花岡には、常にフラットにものを見なければならない裁判官は合っていないのかもしれない。

花江の「早く花岡寅子になっちゃえばいいのに」は、筆者も『第5週番外編~「籍を抜く」から元パラリーガルが実際の戸籍の記載を想像してみた』の記事で、勝手に二人を結婚させていましたw


崔兄妹の行き着く先はどこか

崔さんは、竹もとに住み込みで働いていた。寅子たちも集まって勉強していたところ、先日の特高警察二人組が、またまた土足で上がり込んできた。

事の発端は、崔さんの兄、潤哲さんの勤務先の出版社で、朝鮮人の同僚が捕まったことだった。その同僚が反体制思想の集会に参加したことにより、潤哲さんと崔さんも疑われたのだ。
潤哲さんは、前回の連行後、崔さんと共に釈放されたが、仕事を続けられなくなり朝鮮へ帰っていた。その朝鮮で労働争議に加わり、行方知れずになっているため、崔さんがかくまっているのではないかとやってきたのだ。部屋を捜索され、兄からの手紙も没収された。

帰り際、特高は崔さんに「まだ続けているのか、無駄な努力と言ったのに」と捨て台詞を吐いていった。

昭和12年6月の時点で、特高は崔さんに、「朝鮮人で、かつ思想犯の疑いのある兄を持つ者を受からせるわけがない」と、忠告していた。
だから崔さんは、自分が高等試験を受験しても合格することはないと知っていた。それなのに、兄の「一緒に帰ろう」の誘いを振り切って、寅子たちの受験を見届けようと、日本に留まっていたのだ。

昨日の崔さんの怒りは、自分のためではなく、寅子たちと、これからの女子学生のためでしかなかった。

本日のラスト。話を聞いていたよねが、「今しかない。朝鮮に帰るなら、今しかない」と静かに言った。「一緒に受験しよう」と言うこともできる。常に一歩引いた目でものを見てきたよねが、崔さんの命を守るために発した言葉だった。


お茶くみを侮るなかれ

私自身、最初に勤めたA法律事務所では電話番とお茶くみと裁判所へのおつかいの仕事が多く、パラリーガルの仕事をしたいと思い、B法律事務所に転職した(参照:「【自己紹介】法律事務職員としての私のキャリア」の記事)。

しかし、お茶くみの仕事をしたくないという意味ではなかった。だって、これも大事な仕事だから。寅子には、お茶くみを「自分の仕事ではない」と敬遠しないでほしいと思っている。相談に来られた依頼者にお茶出しするときにも気を使っていた筆者はそう伝えたい。

湯のみを持ったときに熱くない温度か、薄くないか濃くないかを確認したり、話の腰を折らないタイミングで入れ替えたりと、意外と気をつかうのだ。
例えば100℃でお茶を入れて、依頼者が湯のみを持ったときに激アツだったら、気が利かない事務員だと思われる。
「気が利かない」=「細かいところに気がついてもらえない事務所だ」と思われる可能性も出てくるし、実際、日ごろから全てのことに気をつけておかないと、業務においても細かなことにアンテナを張れなくなってくる。
事務員のお茶出し一つで依頼をやめるということはないにしても、小さな「がっかり」の積み重ねが、次に何かあったときに依頼してもらえなくなる原因になる。
CMをバンバン流して一見さん狙いの事務所ならそれでもよいが、次の依頼が来るかどうかは結構大事なのです。

「虎に翼」5/7より

秋めいてきました……