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逢魔時、五月雨の焰

幽かな口紅が夕刻に刻まれ
刻刻と過ぎゆく彼方のリキュール
揺らぐ蒼に藍の氷溶けて
より深き水底に誰かが酸素を求め、彷徨う
冷たいグラスの肌先には
眠りと炎へといざなう誘導灯が円転し続けて
かつての呼吸も今や老爺の死と共に絶え
天井の管から虚無が漏れる
奇数から偶数への判決
ページ数の無い議事録
透明ではないリゼルグ酸
――存在しない霊安室で笑う白いシーツ
カウントダウンの度に朱を携える白磁
奇数を打擲した偶数が黄昏の街を駆け抜け
今、逢魔の死の累積は8へと変換される
――五月雨の焰揺らめいて
体温の無い街は鮮やかな焼死体へと変換された
水素基号香りたつ車道に
死者への花束が潤う歩道に
色素はより深く熱を帯びて__
柑橘色は世界の化粧を暴きだし
裸の罪は這い回る王の内臓と宝石を
亡き者へと追放する
覗かれし冷たき深淵よ
__王座に仕組まれたヒ素の
可憐なる青を暁に一匙零せば
無慈悲なる太陽は
暗い影の死者たちを笑っているから
心臓の散弾散りゆきし春空
穏やかな犠牲者は霊安室の凍土に怯え
その左手を震わせたままだった
流れゆく秒針の欠片
うつろう季節に 触れたのは?
朽ち果てし音階
触れぬ指先
廊下に伸びる影は
散りゆく鴉のように砕けていった
夕暮れの歩道には不鮮明な旋律と
不可解な焼死体が佇む
茜色のドレスは雨の無い葬列に抱かれたまま
最期の花束すら燃えあがる夕刻に
柔らかな鍵盤が揺らぐ

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