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20,000圓も出して中古のマットレスを賈うは此れ如何に…?

去年の話に遡りますが、私は都内某所で古くからお世話になった雑貨屋が閉店になると云うので最後のお別れに行きました。

丁度その時、或る催し物が開催されており、その場で20,000圓(税別)で中古のマットレスを購入したのでした。

休日の土曜に出掛けては斯様な大金を出してしかも誰かが使った寝具を賈う等と云うのは、まさに「正氣のSaturday night」と云うところでありますが、私はどうしてもこの機會を逃したくなかったのであります。

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かなり大きな物なので後日配達して戴きました。
段ボールの大きさもご覧の通り押入れ半分の高さがあります。

そして件のマットレスですが使用前に入念にクリーニングを濟ませておりますが、念の為更に入念に天日干しを致しました。

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このマットレスですが、何を隠そうブルートレインで使われていた實物であります。
そうです、これが欲しかったのです!

私は豫てより、もう二度と帰る事の無い思い出の世界へ旅立ってしまった数々の寝台車を忘れじと色々に考えていたのでありますが、遂にあの時のマットレスを連れて帰る事が出來たのであります。

そもそも寝台車のベッドなど不特定多数の方々が利用されている訳であります。それに乗って色々な所へ旅をしてきたのです。
たとえ新品でなくてもこのマットレスを使う事に何の躊躇いもありません。
クリーニングも消毒も濟んでいるのです。

何の問題ですか? 何の問題も無いね。

…と云う訳で毎日の就寝に使っているのでありますが、こうなったら出來るだけ樂しんで使おうと云うのが私の考え方であります。
不器用でも日々の暮らしはこうして面白可笑しくしていくのです。

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とりあえず、液晶テレビの前に置いてみます。
国鉄のモケット特有のあの肌触りと寝台車のあの感触が蘇ります。
この柄は多分東海道本線の寝台特急で使われていた物ではなかろうかと存じます。

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實車内と同じ様に綿100%のシーツを被せます。

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あとはカーテンだの何だの取り附けければ出來上がりです。
机の下のデッドスペースが私の寝床なのです。

この机の高さが概ね800mmなので丁度3段式の開放式B寝台と云ったところでしょうか。
座るに少々窮屈な高さは、まさに3段寝台なのです。
ベッド巾は720mmで窓に見立てたテレビがこの位置なので、さしずめ583系電車の下段…と云ったところでありましょうか。
脇に置いてある古いカレンダーの束が見えてしまっているのを氣にしてはいけない。

浴衣も何年か前にわざわざ大宮驛構内のお店で賈ってきた国鉄時代に使われていた物のレプリカを用意しておきます。
この大画面のテレビはケーブルでパソコンに接続されており、動画サイトにて車窓の動画を流しておきます。
テレビのスピーカーはなかなか良い物を使っている様で夜汽車の絶え間無く心地良い音が枕元で響きます。

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テレビは「窓」なので、わざわざカーテンを附けております。
こう云う無駄な事が良いのです。

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国鉄時代の物ではありませんが寝る前にシャワーを浴びてブルートレインの浴衣を着て寝台に用意されているこの櫛だの何だの入っているポーチを開けて身だしなみを整えるとあの頃の樂しかった旅の記憶が蘇ります。

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臺所の壁には随分前に作った少々ヨレヨレのこの「紙コツプ」ホルダー。
ここから1枚づつ小さな封筒の様な紙コップを取り出して寝る前に冷たく冷えた水を飲むのです。

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こうなると出來る限りこだわってみるのが面白いのです。

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残念乍ら實物の灯具は手に入っていないのですが、この通り蛍光灯と豆電球を切り替えられる電氣スタンドを枕元に用意しておきます。
これで寝る前に列車の走行音を聞き乍らの素晴らしい讀書も再現出來ます。

ちなみにこの電氣スタンドですが、遥か昔に中學校の技術科の課題で作った物ですが未だに何の問題も無く動いております。

これで今夜もよく寝られそうです。
……でもその前に…

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流石に毎日は出來ませんが、やっぱりコレです!
寝台車の旅には酒と肴が無ければ駄目です。

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日本酒はわざわざ驛辯のお店で賈ったこの入れ物に入れて呑むのが良いのです。お氣に入りの、まさしく「夢の旅」であります。

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列車は幻想的な車窓を映し乍ら進みます。
このマットレスの感触は間違いなくあの頃の寝台車そのものであります。
酒が廻ってきたのかレールのジョイント音や車軆の軋みが肌に傳わり、心地良く揺れている様であります。
隣の寝台からは子供の樂しそうな笑い声が聞こえてきます。
あの頃の旅は本當に樂しく、夢いっぱいだったのです。

Bネ6

細かな部分もこだわります。


私は寝る瞬間だけはいつも最高に心安らぐひと時でありたいと思っております。
そう思う以上はどの様な事であれ實際、自分なりに工夫する事が大事かと存じます。願望だけでは駄目なのです。
こうしておけば毎夜、大好きだったあの空間に帰ってくる事が出來るのです。
それがたとえ粗末でほんの部分的なものであるとしても、それが私の安らぎなのです。

このマットレスに20,000圓も出したのでありますが、私にはそれだけの価値が充分にあるのです。
折角大金を出したのですから、それを可能な限り樂しもうと云うのが私のこだわりです。

何分にも旅好きの鐡道好きなのです。
どうもあいすみませんが、何卆惡しからず……。

さあ、今夜もはくつるだ!あけぼのだ!…いいや、十和田だ!!
傳染病などここでは關係ありません。
思い出の列車に乗って良き夢路に就きましょう。

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