新規感染者数が多いことは問題なのか?
最近、新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が過去最多を更新したというニュースを連日見かける。
「感染者数が増えた。医療現場のひっ迫が懸念される。しかし、行動制限は課さない。だけど、ワクチン接種を追加で進めよう。」というのが昨今の動向の相場である。
そもそも論として、新規感染者数が多いことは問題なのだろうか?
データに即して考えてみよう。
1.新規感染者数、重症者数、死亡者数の推移
厚生労働省は以下のウェブページ(「データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-」)で各種情報を示している。
これらはオープンデータである。そこで、これらのデータ(※詳細は記事備考の注1参照)を用いて新規感染者数、重症者数、死亡者数の推移グラフを作図した[図1]。
実数ベースで見ると、新規感染者数、重症者数、死亡者数はほぼ同じ時期にピークがあることが見受けられる。特に、重症者数と死亡者数のピークの傾向は、形状を含めて同様の傾向である。
しかし、新規感染者数のピークの形状は、重症者数と死亡者数のものと異なる。特に2022年1月以降、新規感染者数のスケールはそれまでとケタ違いに大きくなるが、重症者数や死亡者数はそこまで大きくならない。
2.重症者割合と死亡者割合
各指標でスケールに大小があることから、割合ベースでデータを見てみることにする。これに当たって、「重症者割合」と「死亡者割合」という指標を便宜的に作成した。
「重症者割合」は、ある日の重症者数を、その日を含む直近7日間の新規感染者数の累積人数で除したものである。(※詳細は記事備考の注2参照)
「死亡者割合」は、ある日の死亡者数を、その前日の重症者数で除したものである。(※詳細は記事備考の注3参照)
これらの指標の推移グラフを作図した[図2]。なお、新規感染者数の推移グラフは図1のものを再掲した。
重症者割合の推移グラフを見ると2点興味深い点がある。
1点目は2020年5月のピークである。これは日本国内での第一波のピークであり、これ以降類を見ない大きさである。この時は相当程度の割合の感染者が重症化した。当時は社会的な感染予防対策が極めて大きな意義を有していたことを示している。
2点目は2022年1月から現在(2022年7月)に至る期間である。赤枠で囲っているが、重症化割合は0%付近の超低空飛行になっている。この期間では感染しても重症化しない。一方、その下の死亡者割合の赤枠の部分を見ると、この期間の死亡者割合は顕著に高い。つまり、感染しても重症化しないが、重症化したらかなりの割合で死に至ることがわかる。
このように、新型コロナウイルス感染症の特性は2022年1月以降大きく変わっている。その原因をこれだと断定することはおそらく誰にとっても難しいが、その要因として示唆的なイベントが2つある。
ワクチンの2回目接種が完了(全人口比76.9%)【2021年11月30日】
東京都でオミクロン株の市中感染を確認【2021年12月24日】
ワクチンには重症化予防効果があるので、集団免疫を獲得した可能性がある。もしくはウイルスそのものの特性が弱体化している可能性がある。又はこれらの要因が複合的に寄与した可能性もある。
いずれにしても、社会的な感染予防対策はもはや大きな意義を持たないのが、現状の新型コロナウイルス感染症の特性である。重点化されるべきは発症時の重症化予防又は重症化時の治療であるが、これは通常の病気の対応と同じであろう。
なお、重症化したらかなりの割合で死に至ることについては、別途記事を執筆したい。「死亡者の属性の傾向に変化が見られる」というのがその予告である。
備考
注1 解析に用いたデータ
「新規陽性者数の推移(日別)」、「重症者数の推移」、「死亡者数(累積)」の2022/07/21版のオープンデータを用いた。これらのデータに整理されている、以下の全期間のデータを解析に用いた。
新規感染者数:2020/01/16~2022/07/21
重症者数及び死亡者数:2020/05/09~2022/07/21
なお、重症者数と死亡者数の推移グラフの左側のピークが中途半端に切れていることは、新規感染者数のデータよりも利用可能な期間の範囲が狭いことに起因する。
注2 重症者割合
新規感染から一定の期間を経て重症化すると考えられることから、ある日の新規感染者数ではなく、新規感染者数の累積人数を除すことにした。
累積日数を7日間としたのは、発症から重症化まで約一週間前後とされていたことによるが、これは便宜的なものである。もし「重症化割合」の個別数値を詳細な解析に供する場合、その数値の精確性が問題になるが、ここでは新規感染と重症化の推移の大きな傾向を把握することを目的にしているので、個別数値単独では大きな意味があるわけではない。
注3 死亡者割合
重症者の中から死亡者が生じるという状況を想定している。
ある日の死亡者は、前日の重症者の誰かに該当していると考え、「ある日の死亡者数を、その前日の重症者数で除したもの」を死亡者割合とした。
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