殺人狂時代 (映画 1947)
チャップリンといえば喜劇王。
シルクハットにチョビ髭がトレードマーク、ステッキ片手にユーモラスに歩く姿が直ぐに浮かぶのだが...。
この映画の彼は全く違う!
こんなに悪い顔を持っていたのかと、イメージを180度覆す恐ろしい映画だった。
「戦争では人を殺すための武器を作っても、たくさん人を殺しても罪にならないのに。
何故私のビジネスは罰せられるのか」
ラストシーンが有名なこの映画。
笑顔と人情が売りのチャップリンは、この台詞が言いたくて殺人鬼の役を演じたのだろうか?
冒頭から陰鬱。
仲の悪そうな家族が、結婚したばかりの娘と連絡が取れないことを不審に思う。
そして、数日間煙をはき続ける焼却炉が映る。うわ〜、これは死体焼いてるやん!
この出だしはヒッチコックを凌ぐ、秀逸なサスペンスシーンだと思う。
そこから登場するのが、詐欺師臭満載のチャップリン。佇まいだけで怪しさを醸し出すとは、役者としても一流の明石だろう。
口が上手く頭も切れるアンリ・ヴェルドゥ(チャップリン)は、何人もの金持ち独身年輩女性を騙し、彼女らの夫として接する。元銀行員の知識を活用し、彼女らから莫大な資金をかすめとった後に殺していくのだ。
さらに、情報を集め逮捕寸前まで追いつめに来たモロー刑事を返り討ちにするアンリ。視聴者には同情の余地を微塵も抱かせない。
そんなアンリと接し、殺される寸前で回避できた2人の女性。それがこの物語のサブヒロインというか、キーパーソンとなる。
一人目は占いでスペードのエースを引きながらも悪運が強い、強烈な肝っ玉おばさんアナベラ。メイドの機転ではなくドジで2度も救われた上、ボート上では首に縄をかけられてからの生還。
特にボート上でのアンリとアナベラのやりとりは、いつものチャップリン映画のようで笑える。スリリングで怖いシーンなのに、爆笑させる手腕で監督チャップリンの実力を見せる。
さらに、終盤の結婚式でのアンリとアナベラの追いかけっこも、トムとジェリーみたいで面白かった。
怖い殺人映画のなかで、唯一楽しく笑えるオアシスのような存在だった。
そしてもう一人。
雨の夜アンリが偶然声をかけ、新しい殺人薬の実験台にしようとした若い女性である。
「愛する人の為なら殺人も辞さない、それが愛というものだ」と語る彼女に良心が顔を出したのか、アンリは毒入りワインを引っ込める。
とにかく見どころの多い映画だった。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?