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#002. なぜVOLBEATはデンマークの至宝と呼ばれているのか。

VOLBEAT「Servant Of The Mind」(2021)

はじめに

貴方は連立方程式を憶えているだろうか?
ちょうど僕達が中二病を発症しかける頃に、学校の数学で習うアレだ。

やれ二元一次方程式だの、加減法だの、代入法だの、すでに忘却の彼方に記憶が吹っ飛んでいる僕のような大人もいるかも分からないが、定義としては以下のような内容である。

・一般には1つの方程式に変数が1つであるとは限らない。
・代入の際に同じ文字は同じ値をとるという約束の下で変数が複数存在する方程式を多元方程式あるいは多変数方程式などと言う。
・あるいはさらに、方程式として与えられる等式が1つである必要はない。
・方程式が1つではなく複数ある時、やはり同じ文字は同時に同じ値をとるという前提が成り立つならば、方程式は系をなすや連立するなどと言い、その複数本の方程式を一括りにして方程式系もしくは連立方程式などと呼ぶ。

Wikipedia

申し訳ないが、ナチュラルボーン文化系を自認する僕の脳では、いまいち理解が追い付かないのが実情である。
しかし要するに、連立方程式とは「互いに相関性がある式」というふわっとした解釈でもって、この場のお茶はしっかり濁しておこうと思う。

前置きとしては随分と短くて乱暴だが、今回はデンマークの至宝として名高い、VOLBEATの新作をオススメしていきたいと思う。

グラミー賞の最優秀メタル・パフォーマンス部門にノミネートされ、METALLICA、MOTORHEAD、SLIPKNOTなどの名立たるバンドのオープニング・アクトを務めるなど、デンマークが世界に誇るロック・バンド、VOLBEAT。
全17曲(日本盤CDは全18曲)が収録されるという大作になったが、飽きさせるポイントが全く無く、重厚なリフの中にも疾走感・躍動感がアルバム全体に吹き荒れている。

ソニーミュージックオフィシャルサイト

結論から申し上げると、VOLBEATにとって通算8作目となるこの「Servant Of The Mind」は、彼らの最高傑作ということで間違いない。
異論は認めるけども、きっと同意せざるを得ない人の方が多いはず。

その中身は、まるで過去にタイムリープしたかのように、デビュー当時のヘヴィでタフな初期衝動が、見事に復活しているからに他ならない。
今の感性を持ったまま、過去に転生しちゃった、そんなアルバムなのだ。
これを最高傑作と言わずに何と言い表せばよいのだろうか。

VOLBEAT (2008)

加えて、彼らの特徴でもあるヘヴィメタルとパンクとロカビリー(正確にはサイコビリー)の連立方程式が見事にキマっており、これは世界にヘヴィメタル&ハードロック広しと言えども、改めて唯一無二の存在感を示した格好である。
しかも17曲入りというボリュームで、ほぼ捨て曲がないのも驚異的。

ちなみに、バンドのメインソングライターでもあるボーカリストのMichael Poulsenマイケル・ポールセンは、このアルバムの楽曲をたった3か月という短期間で仕上げたというからさらにびっくり仰天である。

そもそも、VOLBEATの結成は2001年に遡る。
デビューアルバムは2005年の「The Strength/The Sound/The Songs」だ。
これが当時のシーンに衝撃を与えたこともあり、2ndアルバムの「Rock the Rebel/Metal the Devil」からずっと、アルバムを出すたびに母国デンマークではチャート1位を獲得し続けている。
つまりその独特な音楽性であるにも関わらず、国民的バンドでもあるというところが、デンマークの至宝と呼ばれる所以だろう。

ちなみに、デンマーク産のロックはDanish Rockと呼ばれいる。
Japanese Rockみたいなものだが、日本ではあまり馴染みがない。
従って、覚えておいても別に得することはないだろう。
もちろんここは試験にも出ない。

VOLBEAT「The Strength/The Sound/The Songs」(2005)

本作に関連して、Michael Poulsenのインタビューを見つけたので、以下に引用しておく。
全部読みたい方はリンク先にて確認して欲しい。

・通常はツアーの合間に曲を書いているから、ツアーに出て、そのあと何週間か家に帰って......の繰り返しで、曲を揃えるのに1年半くらいかかってしまうんだ。でも今回は中断させるものがないから、基本的に自宅でギター1本とだけで過ごすことができる。それでマネージメントに、"あのさ、俺アルバム1枚分曲書くから"と宣言したんだ。
・歌詞も曲も全部その3ヶ月の間に書き上げた。我ながら早かったね。それほどインスピレーションが強かったんだ。
・初期のアルバムはリフ主体で、壮大なコーラスを書く力がなかったけど。今回は初期のリフを取り戻しつつ、後年のアルバムのように経験にも裏打ちされたものになっていると思うよ。壮大なコーラスも入っているしね。

激ロック

この記事内でMichael Poulsen自身も認めているように、初期のアルバムはリフが主体で楽曲のフックもあまり効いておらず、印象に残る曲があまり多くなかったのは事実だろう。
若さ故のナントカだ。

近年、それこそ6枚目の「Seal the Deal & Let's Boogie」あたりで彼らの音楽性がいよいよ完成したかのように自分は感じている。
試しに2016年発表の「For Evigt」という名曲を聴いてみて欲しい。
この曲は、彼らがデビュー当時から目指した1つのゴールと言えるのではないだろうか。
ヘヴィでポップな、Danish Rockの名曲である。

ただ、この曲がヒットしたこともあり、バンドの方向性として、ここ数年は初期の頃にあったようなパンキッシュな部分が薄れ、およそポップな雰囲気を醸し出しているようにも見えていた。
キャリアも長くなり、必然的に閉塞感が漂っていたのは否めない。

ところが本作では、古参ファンにはもちろん、初見の方さえその魅力にノックアウトされる可能性を大いに秘めているので、人生何が起こるか分からない。
コロナ禍により、ツアーがキャンセルになる等で蓄積したフラストレーションが、上手く楽曲のブラッシュアップに向いた好例ではないだろうか。
(この辺の詳細はBURRN!誌2022年1月号のインタビューに詳しく書いてあるので、気になる方はチェックしてみて欲しい。)

喩えるなら、SOCIAL DISTORTIONが真面目にヘヴィメタルをやってみた、ぐらいのインパクトがある。
ちょっと分かりにくいと思うけど、SOCIAL DISTORTION好きならたぶん分かってくれると信じよう。

SOCIAL DISTORTION「White Light, White Heat, White Trash」(1996)

この曲を聴け!

では個人的なオススメの楽曲を1曲ピックアップするとしよう。
本来なら、メタルとパンクとロカビリーの連立方程式が炸裂している「The Devil Rages On」といきたいところだが、あえて7曲目の「Heaven's Descent」を推したいと思う。

すでに述べてきたように、彼らが産み落とす音楽の最大の特徴は、ジャンルのクロスオーバーにあることは言うまでもない。
具体的なバンド名を出すのは控えるが、大雑把に言えば、ヘヴィメタルにパンクとロカビリーの要素をぶっこんで、そこにハイブリッドでモダンなアレンジを施すことで、まるで次世代のハードロック然に仕上げている。
もっと平たく言うならば、ミクスチャー系のハードロックなのだ。

本作ではそれが絶妙なバランスでブレンドされており、相変わらずリスナーにどこか妙な違和感を抱かせながらも、楽曲のキャッチーさもあって最後まですんなり聴き通せてしまうのが、本当に凄いというかベテランならでは。
(どこか妙な違和感、については後述する。)

そうした中でもこの「Heaven's Descent」のアレンジは非常にシンプル且つタイトな造りで、イントロからサビ、そしてギターソロまで全てパーフェクトではないかと思った次第。
重ねて申し上げるが、ヘヴィメタル、パンク、そしてロカビリーの良さが三拍子揃った奇跡の1曲と言えるのかもしれない。

では、VOLBEAT特有の、どこか妙な違和感とは一体何なのか。
これについて、すでにファンの皆さんはお気付きだろうか?

それは、ギターサウンドをディストーションで組み上げていることだ。
「そんなの当たり前だ、元々デスメタル出身なんだから。」という真っ当なご意見はひとまず置いといて、少しだけ語らせて欲しい。

まず、パンクやロカビリーはもちろん、そこから派生したサイコビリーなども含めて、基本的にディストーションが使われることはない。
主にオーバードライブもしくはファズといったところだろう。

しかし、VOLBEATはあくまでもヘヴィメタル、いや本人達曰くデスメタルを起源としているので、当初からクランチの効いたソリッドなディストーションサウンドを選んでいる。
これが「どこか妙な違和感」のカラクリである。

つまり、彼らの音楽は時折パンクのようにも、ロカビリーのようにも聴こえてくる瞬間があるのだけれども、その時にディストーションサウンドが耳に入ってくることで、一瞬だけこちらの脳がバグってしまうのだ。
もちろん、これは聴き慣れれば全く問題ないことなので、本作が初見になる方は、この違和感を逆に楽しんで頂きたいと思う。

恐らく、いや間違いなく、彼らはあえて計算してこれをやっているので、相当なキレ者というか、確信犯というか、策士というか、まあその変態だ。
さすが、あのKING DIAMONDを産んだ国、デンマークである。

KING DIAMOND「Conspiracy」(1989)

最後に本作唯一のポップな歌モノ「Dagen For」にも触れておこう。
上で紹介したインタビュー記事にもあったように、そもそもこの曲は本作に収録される予定ではなかったそうだ。

それがMichael Poulsenのフィアンセからの助言があって陽の目を見た格好で、個人的にはこの曲が収録されて本当に良かったと思う。
こうしたシンガロングな楽曲は、ライブでは欠かせないし。

そして8曲目というアルバムの中盤に配置することで、前半と後半の境界線が明瞭となり、全17曲という収録曲が多いわりには、メリハリのついた構成となり、最後まで飽きさせない。
この曲の存在意義はポップなだけではない、ということだ。

最後にVOLBEATについて、これまで食わず嫌いだったり、なぜかスルーしてきたっていう方もたくさんいると思う。
そういう方にはぜひ、本作からチェックすることをオススメしたい。

なぜなら、一発録りのレコーディングによって生まれたこの臨場感と、ミクスチャーな音楽性、そしてメロディアスなコーラス、、、それらが高い次元で三位一体となっているのはもちろん、今までの経験上、最新のVOLBEATが最高のVOLBEATであると僕は感じているから。

逆に本作を聴いてあまりピンと来なければ、それはそれで仕方がない。
音楽というのは全て、タイミングが命である。
気に入らない時は、曲が悪いんじゃなく、タイミングが悪いだけだ。
少なくとも本作が、皆さんにとって良いタイミングであることを祈りたい。


総合評価:94点

文責:OBLIVION編集部

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