クレープ

「いやあ、疲れた。」
 店先に出ると勇樹は大きく伸びをしながらそうこぼした。
「本当、歌いっぱなしだったもんね。」
 英一のその言葉に陽介も頷いた。
「でも、たまにはこういうのもいいでしょ。」
「そうだな、普段遊ぶって言うと誰かの家でゲームになっちゃうからな。」
「じゃあ僕に感謝、だね。」
「それは癪に障る。」
 英一も笑いながら同意した。
「おお、英一も言うようになったね。」
「そうかなあ。」
「九十九っちはもっと優しいと思ってたのに。」
 勇樹はむすっとした顔をした。

「明後日の日曜日って空いてる?」
 金曜日、長かった学校も終わり、いつものように三人で帰っていると、陽介は二人にそう問いかけた。
「うん。」
「僕も空いてるよ。」
「じゃあ遊ぼうよ。」
「おお、いいよ。」
「え、なんか新しいゲームでも買ったの?」
「いやいや、今回は違うよ。」
 陽介はニヤリと笑った。
「なんだよ。」
「カラオケに行かない?」
 陽介からの珍しい提案に二人は少し驚いた表情を浮かべた。
「そりゃあいいけど、珍しいな。」
「普段三人で遊ぶってなると誰かの家でゲームくらいじゃん?それももちろん楽しいんだけど、せっかくならそれ以外のこともしたな、って。」
「なるほどね、いいと思う。」
「でもなんでカラオケなんだ?」
「この前クラスで誰かが話してるの聞いてさ、そういえば最近全然言ってないなあ、って思って。」
「ああ、確かに。俺も行ってないかもな。英一は?」
「ああ、うん……」
「デートでしょ。」
 こういうときの陽介乃館は無駄に冴えている。
「うん。」
「いや、別にいいんだぞ。普通にそう言ってもらって。」
「黙られちゃう方が気まずいんだから。」
「ああ、ごめん。」
 英一は申し訳なさそうに言った。
「今のごめんが一番刺さるけどな。」

「このあとは、どうする?」
「え、お夕飯食べるでしょ?」
「まあそりゃあな。でもまだ五時過ぎだぞ。」
「お腹すいてない?」
「歌いっぱなしだったからお腹はすいてるかな。」
「まっつんは?」
「俺もそれなりには。」
「よし、行こう。バイキング!」
「マジか。」
 ビックリする勇樹。
「いいねえ!」
 乗り気の栄一。見つめてくる陽介の顔を見て、勇気も渋々納得する。
「絶対元取ろうね。」
「なんだ元取ろうって。自分たちが楽しければ十分だろ。」
「いやいや、まっつん、元取る気じゃないとダメだよ。」
 珍しく英一も乗ってきた。
「さすが九十九っち!僕ね、デザートで、自分で焼けるクレープ、あれ好きなんだ。」
「陽介くん、クレープなんて食べても元取れないよ。」
 まさかの陽介の熱量すら上回ってきた。
「え、ああ……」
 英一のその熱気に珍しく陽介までもが押されてしまった。
「よし、じゃあ行くよ。いざ決戦の舞台へ!」
 二人は真っ直ぐ歩いていく英一の背中をただ見つめることしかできなかった。

この記事が参加している募集

#スキしてみて

527,181件